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となりのトトロ 草壁タツオ論

1歳半のヨシスケが「となりのトトロ」にハマっている。

私も小さい頃から何度も観ているが、ヨシスケとだけでも50回くらい観てる気がする。ここで、令和の育児事情と照らし合わせた考察をしたい。

なぜならば今この瞬間、熱で何もできないヨシスケを「子の看護休暇」で、大トトロよろしく腹の上に乗せながらトトロを観ている。そしてヨシスケは寝た。

つまり動けないし、暇なのだ。

▫️草壁ファミリー紹介

・草壁サツキ


10歳(小4)というハヤオ先生の設定だったが、今でいうヤングケアラーというやつで、母親不在の草壁家において、妹メイ4歳に対して擬似的な母の役割を担っている。授業シーンを見る限り学業もちゃんとしてそうだ。スーパー小学生である。

 引っ越して早々なのに、父と妹分も含めた弁当を作るシーンは圧巻である。しかもおかずは焼いたメザシ?と、桜でんぶ、煮た青豆、などである。

 渋いな、と思ったが今のようなレトルトの「ふじっ子の青豆」みたいのも無さそうというか、作中見る限りこの家には冷蔵庫も無い気がする。「石井のお弁当くんミートボール」も、「味の素冷凍餃子」も「ニチレイ冷凍唐揚げ」も、「カトキチ冷凍うどん」も、なにもないのだ。

 釜で炊いたごはんをダイレクトに弁当箱にイン、ということだろう。豆は乾燥青豆を自分で煮豆にしたのだろう。メザシはメイも駆使して庭先で七輪で焼いていた。こうなると桜でんぶも、自作して作り置きしてあるのだろう。40年強生きているが、桜でんぶを作ろうと思ったことはない。これからも無いだろう。

 「さすがにこれで10歳ってのはリアリティなくないですか?」と誰かがハヤオ先生に進言し「せやな、じゃあ12で」ということで12歳(小6)という設定になっているらしい。

 それはそれで、「いきなりド田舎に引っ越しされて、中学受験とかは選択肢とか無かったんだろうか、こんなスーパー小学生もったいない」というお気持ちを私としては抱く。

・草壁メイ

4歳児、作中屈指のトラブルメーカーである。

私は、自分が小学生の頃から「メイはマジで自由奔放すぎるし、サツキちゃんが可哀想、メイ、ムカつく」と思っていたが、それを周囲に言うと「いつかお前も親になればわかる」みたいなことを言われてここまできた。

いま、実際に4歳児の父をやっているが、メイちゃんに抱く感想に特に変化はない。根本的にはムカつく。

だが、全体的にフィジカルが強い、運動量が多いのはすごい。うちのヨシタロウはジャンプしてトトロの腹に抱きつくことはできない気がする。握力ないから。

そして、メイちゃんの起こすトラブルを見ていて思うのは「この自治体は保育園とか、ないのか?」である。

保育園といえば、待機児童ゼロとか言っていた小池百合子を、私は今でも新鮮な気持ちで会ったら殴ろうと思っている。高齢者とか、女性とか、刑法とかは超越させていただく。命までは取らない。が、グーで一発いく。


・草壁タツオ

タツオ、というらしいが作中で呼ばれている気配はない。32歳。考古学の非常勤講師らしい。

たまたまだが、友人で考古学の助教授まで登り詰めた男がいるので、そこそこの分野に明るい。

まず、考古学は地味である。

文献研究もなくは無いが、だって、「考古学」である。皆さん、吉村作治さん以外に誰か知ってますか。

偉くなったら違うのかもしれないが、基本は「発掘」「出土したモノを、ハケとかでキレイにする」「スケッチとかして報告」だと思う。この繰り返しだ。毎週これだ。

地味。

だが、ただならぬロマンがある。それはわかる。タツオさんはきっとロマンチストなのであろう。

ちなみに草壁タツオさんは中国語の翻訳もしているらしい。副業だ。

翻訳について、村上春樹さんが語っている何かを読んだことがあるが(おぼろげソース)、まあ、言葉のプロである小説家 村上春樹さんがやっているように、問われるのは外国語の知識というよりは「日本語の語彙力」である。意味を外さないのは当たり前として、読んだ時のリズム感、ニュアンスなど、日本語を自由自在に使いこなせないと良い翻訳はできないだろう。

つまり、タツオさんは非常に言葉巧みだということだ。

作中、実子のサツキとメイとの会話を見ていても、何かを頭ごなしに否定したり、短文で命令するようなことはない。受け止めて、巧みな語彙で、対話している。

巧みに言葉を操るロマンチスト。

ここにタツオさんの怖さがある。

・草壁ヤス子

作中ずっと入院している母。「本当にただの風邪なのか?」諸説あるがここでは言及しない。

彼女は29歳という設定である。

つまり、逆算するとサツキの出産時はタツオ20歳、ヤス子17歳である。妊娠でいえばさらに19歳、16歳であろう。

おいおい。

おいおいおいおいおいおいおい。

タツオさん、やってくれましたなぁ。

タツオさんは前述の通りインテリ大学生、ヤス子さんは女子高生と思われる。や、働きに出てかかもしれないが、いずれにせよ、事案だ。

タツオさんの「言葉巧みなロマンチスト」の一面がここで垣間見える。


◽️カンタくんファミリー

そして、隣人?たるカンタくんファミリーについてここで語りたい。

・カンタくん

サツキに対する一目惚れからのツンデレぶりに定評がある。今回はタツオさんにフューチャーしてるのでここでは割愛する。

・おばあちゃん

ハヤオ先生はなぜおばあちゃんの骨格をこうも太く描くのかという疑問があるが、これも本旨ではない。

特筆すべきは草壁家、つまりタツオさんとの関係性についてだ。

「ときどき掃除はしていた」などの言があることから、草壁家が入っている家屋の管理をしていたと思われる。作中の会話からの印象であるが「管理はしているが持ち主・家主ではない」といった感じだ。昔親戚か友人かが住んでいたが、いまは空き家。ただ、売却もできない(買い手がつかない)などで市町村の管理物件になり、年に数万程度の委託費によっておばあちゃんが管理を請け負っている、と考えるのが一番筋が通る。ただ、おばあちゃんは底抜けのお人好しのため、無償で行っている可能性もゼロではない。

・おばあちゃんとタツオの密約

では、草壁家とはどういう関係なのであろうか。上記のような、「家の管理だけを頼まれていた」が法的な義務であろうとすると、おそらく賃貸借契約として(購入でも良いのだが)草壁家が入ってきたとして、もはやおばあちゃんが家屋を管理する責任はない。何もしなくていい。

法的には、だ。

草壁家の会話をみなさん覚えているだろうか。タツオは娘たちに、巨大なクスノキを見ながら「あの木があるからこの家に決めた」と説明している。だがこれは詭弁だ。決め手の一つという点では嘘ではないのかもしれないが、みなさん巨木を起点にして引越したことありますか?普通に、家賃やロケーションで選んだに決まっているが、そうではない。娘に対して、まるっきりの嘘をつく男でもないと思われる。なので、「クスノキを見た」のは本当だ。

つまりタツオは下見に来ている。「2階への階段を探して」と娘たちに吹っかけるシーンからもそれはわかる。

その際、誰が物件の案内をしたかというと、普通に考えればおばあちゃんである。

「言葉巧みなロマンチスト」である。カンタくんの家は、おばあちゃん、父(顔は出ないが)、母(恐らく嫁いできた)、そしてカンタくんという構成だ。おじいさんは気配がない。つまりおばあちゃんは、「未亡人」である。

タツオにかかれば、田舎の未亡人を籠絡することなど容易い。

おそらくこんな会話があったろう。

「いやぁ、こんな素敵な方がいるなら僕はこの家にしたいです」

「なーにを変なこといって、やだよもう(満更ではない」

「でも、娘が2人いて、下がまだ4歳で小さいし、僕は仕事も休めないから、難しいかなぁ…⚪︎⚪︎さん(※おばあさんを下の名前で呼ぶ、くらいのことは当然したであろう)と毎日お話しできたら素敵だなと思ってたんですけどねぇ」

「………。そったら、わたしが面倒みてやるけぇ」

「本当ですか?嬉しい!ありがとう!(ここで握手か、ハグくらいしているかもしれない)」

「………!」

こうしてタツオは、無料で子どもの面倒を見てくれるだけでなく、野菜まで食べさせてくれる無敵の隣人を手に入れたのである。

もちろん、私の想像であるが、作中でこの2人の会話はほとんどない。それは恐らく、おばあちゃんの「女」が見え隠れしてしまうからであり、それは作品の邪魔になるのでハヤオ先生が割愛したというのが私の推測である。

・カンタくんの父

恐らくおばあちゃんの実子。仕事もあるだろうに、おばあちゃんの指示でメイちゃんを探すために山狩りをさせられている。実母に逆らえない。まだ草壁家の驚異に気付いてない。

・カンタくんの母


上記のような事情をどこまで知っているのか分からないが、本来はこの時期は通常の家事に加えて畑仕事の労働力であるおばあちゃん(義母)リソースが、謎の隣人草壁家にぶんどられていることを快く思っていない。

作中、メイちゃんの面倒を見ていたおばあちゃんが、いよいよ対応しきれなくなって学校に連れてくるシーンがある。サツキちゃん視点で言えば「おばあちゃんあと2時間(5時間目である)がんばってくれよ」あるいは「メイまじふざけんなよ」と思っても仕方ないシーンであるが、大人の皆さんはよく考えて欲しい。

皆さんは、唐突に、無償で、8:00-13:30くらい4歳児を面倒みれるか?赤の他人である。

これをもはやおかしいと思わないおばあちゃんであるが、お母さんから見ると違和感がすごい。「なんでそこまでしなくちゃいけないの?」と思っているはずだ。

この日、6限後に土砂降りがあり、ツンデレカンタが傘を貸してくれ、その傘をサツキが返しにくるシーンがある。

「あらあら、今日はメイちゃんのこと(最後までおばあちゃんが面倒見れなくて)ごめんなさいね」

お母さんがサツキに謝るシーンがあるのだが、よく観察するとまったく心が通っていない。「ま、そもそもうちがメイちゃんを見る筋合いはないけども」の含意がある、嫌味で言っているのではないかとさえ思える。

それにしてもどうだろうか。既にカンタはどうみてもサツキに陥落している。おばあちゃんはタツオにやられている。お母さんも、本能的に警戒しているのだろう。引越祝いでおはぎを作るが、カンタに持たせて自分では避けている。

草壁家が、怖いのだ。

◽️草壁家の過去、現在、未来


・作中以前

前述の通り、草壁夫婦はいわゆる学生結婚である。19歳、まだ大学生のタツオ、専門にしようとしている考古学では当面食えない。一般教養で取った第二外国語である中国語が意外とできると気付き、恐らく先生にもコミュ力で取り入ったのだろう、翻訳の下請けをするようになる。ちなみにタツオは国公立大学と思われる。中国語の翻訳は割りが良いが、だが所詮大学生のアルバイトだ。妻子を養えるほどにはならない。

一家3人、食っていけるのは妻、ヤス子の実家が太いからだ。

ヤス子の父はタツオのことはまったく嫌いであるが、サツキのことはめちゃくちゃ可愛い。

ヤス子の母は、タツオにがっつり籠絡されている。

だがどうだろう、タツオの年収はいつまでも上がらない。考古学ではなかなか食えない。非常勤講師と、教授では収入も立場も月とスッポンだ。

そこにきて、今度はメイの妊娠出産である。

いまだ学生に毛が生えたような生活をしているタツオの年収が増えるでもないまま、扶養家族がさらに増える。

そこにきて、ヤス子の母の大病である。

タツオによって食いつぶされかかっていたヤス子実家の資産はとうとうこれが決め手になり、どうにも寄生できない状況に陥る。あるいは、色々と怪しい輩と付き合って大金を得ようとしていたタツオ、彼が何かトラブルを起こしたのかもしれない。警察沙汰、あるいはタツオなら色恋沙汰もありえる。たとえ色恋沙汰があったとしても、ヤス子もサツキも「お父さんが家族のために、お金のためにやったことだから」と信じて疑っていない。彼女たちはしっかり洗脳されている。それにとうとう愛想を尽かしたヤス子父が、サツキ可愛さをタツオ憎さが超越し、支援を打ち切ったのかもしれない。

そして、ヤス子も体調が芳しくない。療養のために空気の綺麗な田舎の病院に転院することになる。もはや草壁家の家計は風前の灯火。考古学教室の教授のポストはすぐにら空きそうもないのだが、割りの悪いTAのバイトは辞めて論文に集中して気合の入った発表を学会で行い、自分の大学でなくても、新設私学の考古学部とかでポストを見出せないだろうか。

そんな一縷の望みをかけて田舎へ移住する。幸い、ガッツリ寄生できそうな老婆が管理する激安物件を見つけた。上手いこと言えば、ヤス子もサツキも絶対に文句を言わない。メイは言わずもがなだ。

そして引っ越しを決める。引っ越し会社に頼む金もない。大きめの車を借りて、ついでにレンタカー屋の親父に、今度考古学教室の女子大生との飲み会を設定することと引き換えに引っ越しを手伝ってもらうことに成功した。

・作中

いろいろあったが、まとめると「メイが行方不明になったが、見つかった」である。メイ神隠し事件、としよう。


・作中以後

メイや猫バス、トトロにフォーカスされがちだが、サツキにフォーカスして見てみて欲しい。

池に浮かんでいたのがメイの靴ではないかと必死になっていたおばあちゃんとのやりとりの直後、「そうか、トトロに頼もう」と決めてからのサツキとは、実は周囲の人と会話が成り立っていない。

おばあちゃんは何かを必死に話しているのだが、音声が遮断されている。

サツキの主観ではトトロに乗ったり、猫バスに乗ったりしているが、おばあちゃん側からはどう映っているのか。

自身の管理監督下でメイを見失っただけでなく、サツキも茫然自失としたまま呼びかけても答えなくなってしまい、どこかに走り去って行方不明である。

おばあちゃんの「タツオさんに合わす顔がない」の罪の意識はMAXである。さすがにタツオの計算通りでは無いものの、結果的に今後も太く長く地元の名士であるおばあちゃんを意のままに操れるように、これでなった。

そしてサツキである。

スーパー小学生であったサツキは、作中以後はどうなってしまうのだろうか。

「都会からやってきた洗練された美少女」

枠であったわけだが、作中で、「トトロに会った」「猫バスに乗った」わけである。これを学校で言おうもんなら、ヤバいやつ認定されてめちゃくちゃ浮く。かといって言わないでいるのも難しい。「よく分からないが、メイはいた」の説明でおばあちゃんが納得すると思えない。カンタの父も、仕事を放擲して山狩をしたはずである。結局どこにいた、どうやって見つかった。これを合理的に説明できないのであれば、今後この山村で草壁家はますます異端者としての印象が強くなっていく。

そしてメイである。

サツキは上記のような事情にすぐに気づいて、合理的な嘘を考えてその場を切り抜けられるかもしれない。しかしメイはコントロールできない。「トトロが助けてくれた」「猫バスに乗った」などと言うだろう。それを村の人たちはどう思うだろうか。

若い女子の姉妹が行方不明になり、戻ってきたら訳のわからない事を言い始めるのだ。

神隠しで済めばいいが、オカルトを排除して考えれば「変質者に連れ去られた」「薬物を使用された可能性もある」が一番筋が通る。本人たちは、サツキは何も語れない。メイはわけがわからない。疑いを晴らすことはできない。腫れ物のように扱われるサツキはやがて自暴自棄になり素行が悪化、カンタにしておけば良いもののどうにもならないような不良とつるむようになり、16歳で妊娠。

「サツキはお母さんに似てるから」

奇しくも作中の母のセリフを、こうして伏線回収することになる。


さらにタツオである。

この件で異常に腰が低くなったおばあちゃんを利用しないタツオではない。これまで以上に手厚くサツキとメイの面倒をみてもらうのを「無償で」頼めるようになる。これで論文に集中できる。

あるいは、この村では異端なインテリジェンスを持って学習塾などを経営し、子どもやお母さんからの支持を得てカリスマ化、新興宗教化していくまであるのでは無いかと思う。


・最後に 

とかく、ヨシスケが腹の上からどかないのであらぬ妄想を書き立ててしまったが、最後のシーン。サツキとメイが置いたと思われる、お母さんの病室に置いてあるトウモロコシ。そこに書いてある「おかあさんへ」のメッセージ書きについて私はひとこと言いたい。


おい。


食べもので遊ぶな。


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