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Tomorrow is another day. 〜J2リーグ第22節 栃木SC vs レノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第22節 栃木SCvsレノファ山口FCの試合は,2-1で栃木SCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


栃木の思いが伝わった逆転劇

試合終了直前に劇的なゴールが生まれ,栃木が逆転勝利を収めたこの試合でしたが,栃木のここで勝つしかないという背水の陣感や気迫が印象に残った試合となりました。

栃木はこの試合まで天皇杯では勝利を挙げたもののリーグ戦では,8試合勝利がありませんでした。期間にして2ヶ月ほどです。その結果,前半戦を勝ち点17の20位で折り返すこととなってしまいました。

そういった状況の中で迎えた後半戦最初のゲーム,流れを変えるにはこの試合だという認識がチーム全体にあったのだと思います。

例えば,11日木曜日にクラブが出したファン・サポーターへのいわゆる「お気持ち表明」リリース,他にも8000人を超える観客を集めたクラブスタッフの皆さんの働きやこの試合に集まった栃木サポーターなど,あらゆる面でこの試合にかける思いが見られていました。

もちろん現場の方も前節から4人のメンバーを変更してきました。その中でもシーズン前半の全試合でスタメンフル出場を果たしてきた西谷和希をベンチに置き,古巣対戦の大崎や天皇杯で結果を残したもののリーグ戦ではまだ出場のなかったを起用してきました。これは大きな決断だったのではないかと思います。

このように,チームとしてこの1戦で何としても流れを変えるんだという気持ちで臨んだ試合だったのだと思います。

実際のプレーでも,こういった意識が栃木の逆転勝利につながったと思います。そんな栃木も前半は山口に押し込まれ,琉球戦のように前線は奪いに行きたいけれど,最終ラインはそれについていけないというシーンがありました。しかし,後半に入ると一転,前から奪いに行く姿勢を出してきました。

例えば,中盤の選手が山口の最終ラインまでプレスをかけるプレーです。58分40秒あたりからの山口のボール保持の場面では,中盤のへニキが三幸にプレスを仕掛け,そのまま菊池にもプレスをかけることで5-3-2気味になり,結果真ん中の三幸を使わせずサイドへのロングボールを引き出しました。やや強引ではありましたが,山口にうまく前進をさせてはいないので効果的だったと思います。

他にも最終ラインの選手が,前に出てきて手前で受ける山口の選手を潰すプレーも出てきました。後半開始直後の吉濱からのパスを受けた高井を菅が潰したシーンなんかはその例でした。栃木は,琉球戦も含めて最終ラインの手前のスペースを使われている場面がたくさんありました。しかし,後半開始直後に,そのスペースを3バックが前に出てきて潰すというプレーから「後半は前から行くよ」という意思が感じられました。

この姿勢によって,前半とは逆に山口を押し込む展開に持っていけるようになり,逆転勝利となりました。しかし,同点に追いついてから逆転までの間には何度か栃木にとって危険なシーンがありました。これを防いだ大きな2つのプレーを紹介したいと思います。

時間は前後しますが,まず88分50秒あたりの菅の潰しです。これは,栃木が前に出て行く中で,山口にひっくり返されそうになったところを菅が見事に防いだシーンですが,ここでもし,佐々木匠に前を向かれて菅が置いていかれていたら,下手をすると2vs3の数的不利なカウンターを受けていた場面でした。ですから,それを未然に防いだこの潰しはビックプレーでした。

そして,2つ目はこの1分ほど前の87分の西谷和希の田中パウロに対するディフェンスです。このシーンは西谷が戻ってこなければ,パウロに左足で持たれてシュートまでいかれていたかもしれない場面でした。それを西谷は,PA近辺でノーファウルで奪い切りました。見事なプレーでした。このプレーのすごいところは,西谷和希がこの時間にここまで戻って守備をしたということです。先ほども書いたように西谷はこの試合まで全試合フル出場を果たしている栃木の攻撃の中心選手です。そういった選手がスタメンを外され,ベンチから出て行って点を取りたい展開の中でチームのために戻って守備をしてピンチを防いだわけです。当たり前かもしれませんが,こういうプレーができることは単純にすごいなと思いましたし,こういったプレーをさせるほどチーム全体にこの試合への意識が浸透していたということなのではないかと思いました。

こういったプレーやそれ以外の部分も含めて栃木全体の気迫がもたらした逆転劇だったと思います。へニキの逆転ゴール直後の「最後の最後・・栃木の思いが伝わりました。」という笹川さんの実況に全てが詰まっていたのではないでしょうか。


この試合の栃木と水戸戦の山口

山口としては,栃木の気迫を上回ることができなかった試合になってしまいました。これは,山口自身が水戸相手に見せた試合をそのまま栃木にやられたといえるでしょう。山口も水戸戦の時に,5試合勝ちが無い中でシステムを変更し,この1戦にかける気迫を見せ勝利を挙げました。この試合の栃木には水戸戦の山口のような部分を強く感じました。

この先は,昇格がかかったり,残留がかかったりなど何かがかかった試合が増えていきます。そういった相手のプラスアルファの思いを上回ることが必要になります。そういった試合にこの試合の経験を繋げていってもらえば良いと思います。実際,水戸は山口に負けた後も崩れることなく上位戦線での戦いを続けています。ですから,山口もこの次の試合で崩れないことが何よりも重要なことだと思います。


後半開始の段階での交代策の捉え方

山口の戦いを振り返ると,前半は栃木を押し込んだものの後半になると逆に栃木に押し込まれる展開となってしまいました。そういった意味では,後半頭からの佐藤に代えて小野原を投入した采配に焦点が当たることはやむを得ないでしょう。結果論で言えば裏目に出てしまった形になったと思います。

1つこの試合で良くなかった小野原のプレーを挙げると,守備の時に人について行ってしまい,埋めるべきスペースを埋められなかった事です。

例えば,61分と66分のシーンです。61分40秒あたりからの左サイドでの栃木のボール保持の場面の小野原に注目してください。榊がボールを持っている時,そして榊から西谷にボールが入った時,小野原は大崎にへばりついています。その結果1番空けてはいけないPAの前の真ん中にぽっかりとスペースができてしまっています。

優先順位としては,まずここのスペースを埋めることが先に来ると思います。ですから,このシーンでは自分が埋めるもしくは高井に埋めさせるといった対応が必要だったと思います。個人的には,小野原が埋めて大崎を高井なり瀬川なりに見させる方が良いと思います。

結果的には,西谷にこのスペースに侵入されてシュートまでいかれていますから,かなり危険な場面だったと思います。

そして,その5分後の66分の栃木のスローインのシーンでも,大崎にへばりついて真ん中のスペースを空けへニキにシュートを打たれてしまいました。ここは三幸のスライディングでブロックをしますが,こぼれ球を拾われて三幸1枚という中盤の脇のスペースを使われ,左サイドに展開しクロスを上げられるという2次攻撃も食らいました。

このように,最終ラインに吸収され真ん中のスペースを空けてしまうと,チーム全体を押し上げることは難しくなってしまいます。押し込まれる要因の1つになってしまっと言えるのではないでしょうか。

ですから,結果論で言えば佐藤をもう少し引っ張れば良かったということになるのだと思います。しかし,これはあくまでも結果論です。小野原を投入した段階に戻って考えた時に,その決断が間違っていたと言えるのでしょうか。

私の答えは,「間違っていなかった」になります。むしろ,これまでの文脈を考えればとても理解のできる交代だったと思います。

これまでの文脈を考える上でで,最も大きいのが前節の町田戦の小野原のプレーです。前節は,2-0のリードの状況で72分に佐藤に代わって投入されました。攻守にわたって非常に質の高いプレーを見せ,試合を終わらせるという役割にとどまらない活躍を披露しました。さらに,4試合ぶりの出場でこのプレーを見せたということも良い印象になりました。天皇杯での途中出場があったとはいえ,久しぶりのリーグ戦でこのプレーは素晴らしかったと思います。

これまでの出場機会に恵まれないという文脈の中で町田戦のプレーを踏まえると,後半戦は小野原の出場機会が増えていくと思いました。

もちろん,町田戦だけではなく前貴之出場停止の代わりに出場した横浜戦もよかったですし,そういった点でこのように思ったわけです。

そして,栃木戦は後半開始からの投入となりました。前回は約20分間の出場だったわけですから次は45分間行ってこいという起用は段階的で,非常に頷けるものです。それからこの起用は,佐藤が菊池のカバーで前半のうちにイエローカードをもらっていたことも,もちろん影響したと思います。

以上のことから佐藤から小野原というこの交代策は,間違っていなかったと考えます。


改めて今年の山口のチーム作りを考える

今年の山口は,積極的に若手を起用し,高い授業料を払いながらも,その選手たちが成長することでチームも強くなっていくというチーム作りになっています。ですから,こういった敗戦も所々では出てしまうというのが率直な気持ちです。小野原のこの試合のプレーは,高い授業料となったかもしれません。

しかし,今思えば,現状スタメンのポジションを掴んでいると言える大卒2年目の楠本や山下,大卒1年目の菊池も1度ポジションを手放して,出場機会を失ってから再び返り咲いてきた選手たちです。特に,菊池は岡山戦や新潟戦で失点に直結するミスがあり,新潟戦の前半で交代させられるという経験から大きくなってカムバックしてきました。

山下も怪我があってポジションを失うことがあったものの前節まで公式戦4戦連続ゴールを挙げるという結果を残していますし,大卒以外の選手でも吉濱はベンチスタートが続く中,途中出場で横浜戦,岡山戦とチームを救うゴールを挙げ再びスタメンの座を掴みました。

そもそも今年のチームで試合に出続けている選手は三幸と前貴之だけです。

このように,失敗もありながらそれを生かして個人が成長していくことでチームも成長していくというチーム作りをしているわけです。だったらそれを1年間見続けようではありませんか。

もちろん,この試合の小野原のプレーが霜田監督に勇気がなかったと判断されれば,これまでの流れを考えるとまた出場機会が減ってしまうかもしれません。いやいや,次の試合でまたすぐチャンスが来るかもしれません。どちらになるかは正直わかりません。しかし,この試合の経験を次に繋げていかなければなりません。それができれば,霜田監督のことですからまたチャンスはやってきます。

シーズンの終盤には不動のスタメンの地位を築いているかもしれません。今年のチームは,そうなることを期待して作っているのだと思います。だから,私も小野原の「次」に期待したいと思います。

また,チームとしてもこの敗戦は次に生かせるものだったと思います。「栃木のこの試合の気持ちというものを跳ね返すには?」という課題を突きつけられたことは,この後に向けてよかったことだと思いますし,戦術的にも押し込まれる中でどうにかして前への矢印を出していこうと2トップにして5-3-2の形でのプレスを試みていました。

この試合は,打てる手は打った上での敗戦だったと思います。やれることをやったのであれば,それを次に繋げることはできます。何事もトライ&エラーです。やってみてそれが良かったのか検証する,そしてそれをブラッシュアップして次に繋げる。これをやっていけばいいだけです。この敗戦を受けた次の新潟戦が非常に楽しみです。


おわりに

最後にこのnoteを書いていて,プロ野球の横浜DeNAベイスターズのラミレス監督がよく使っていた「Tomorrow is another day」という言葉が浮かんできたのでこれを紹介したいと思います。

この記事に書いてある通りですが,この言葉をラミレス監督は次のような意味で捉えています。以下記事を引用します。

 ラミレス監督のポジティブ志向は自他ともに認めるところだ。だが、繰り返し発する「Tomorrow is another day.」は、イメージよりももっと落ち着いていて、かつ重い意味がある。本人は「今終わった試合を変えることはできない。負けた試合であっても、そこから学ぶことがある。それを見つけて学んでいく姿勢、次の試合のためにしっかりと準備していく。そういう意味を込めている」と説明した。負けた試合を忘れるわけではない。むしろ正反対で、しっかりと負けた試合から学ぶことの必要性を説いた。
 ポジティブとネガティブについても同じだ。負けた試合にどう対応するか。「なんでこんなことが起きてしまったかとネガティブに閉ざしてしま人もいるが、私は一歩下がって冷静になって、ポジティブに考えるようにしている」。敗因の中にこそ、成長へのヒントがある。この前向きな取り組みが、明日の試合を勝利に変える、すなわち「明日を別の日」にする準備になる。

チームが負けても,霜田監督の口にする「90秒での切り替え」をした上で「Tomorrow is another day.」の精神でチームの成長を追っていくことが今年の山口を楽しむコツなのではないかと感じました。


*文中敬称略


*この試合の観戦記はこちら


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