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Web3が切り開く、新しいコミュニティの形



Web3の目指す未来

さて、突然ですがそもそもWeb3とはなんでしょうか?
ビットコイン、メタバース、NFT、ブロックチェーン…といったワードが思い浮かぶと思いますが、これらはどれもWeb3のための技術やアプリケーションの一種です。Web3というのは実は技術分野ではなく、ある未来の形、そしてビジョンです。ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、Web3とは「ユーザーが、その所属するオンライン上のコミュニティに対して金銭的な利害関係に加えてさらに運営に関与できる。読み書きに加え、『所有』が可能な次のウェブの形態」と説明しています。そして一般的にWeb3と言われているものは、あくまでこの新しいウェブの形態を実現するための技術群です。

ここで鍵となってくるのは「コミュニティ」という単語で、Web3においてコミュニティの在り方は大きく変わってくると言われています。直近で話題になったのは、Starbucksが始めたNFTロイヤリティプロジェクト「ODYSSEY」でしょう。ODYSSEYではJourney StampというNFTを購入し、特定の商品を買うなどしてポイントを貯めていくことで、他では得られない特典や体験にアクセスすることができます。これが普通のポイントアプリとは違うところは、ブロックチェーン技術によってそのメンバーシップの所有を確固たるものとし、また売買可能にするということがあります。

Starbucks ODYSSEYのNFT

これにより今までは個人的な価値であった、コミュニティへの貢献度合いなどを、実際の経済的価値に転換することができるのです。果たして売買できるメンバーシップがコミュニティにとって善か悪かはまだ議論の余地がありますが、経済的価値が生まれることは、こと資本主義社会においては、コミュニティ活性化の強いインセンティブになるといえます。
ということで今回は、Web3の技術群を活用して、新しいコミュニティの形を作ろうとしているスタートアップを紹介していきたいと思います。

既存の市場を揺さぶる、
ゲームチェンジャー的スタートアップ

Balckbird :常連客とレストランを繋ぐ、新しいメンバーシップ

HP:https://www.blackbird.xyz
設立年: 2022年
拠点:アメリカ(ニューヨーク)
シリーズ:Series A
累計資金調達額:3500万ドル

自分が好きなレストランをサポートしながら、もっと自分を特別な常連客として扱ってほしい、という方は多いのではないでしょうか。Blackbirdはそんな欲張りな美食家のための、メンバーシップNFTを提供しています。

まず、レストランはBlackbirdのアプリ上で簡単にオリジナルのメンバーシップNFTを発行します。顧客はNFT購入後、レストランに行く度にスマホをタグに近づけることで自分が行ったことをカウントします。カウントが増える度に、NFTはランクアップして、特別なメニューやサービスなどを得ることができます。

レストランが発行するメンバーシップNFTの一例

またメンバーは$FLYという、Blackbird独自のトークンも得ることができます。このトークンは顧客とレストラン両方が使用できるもので、顧客は支払いや特典の購入、レストランはBlackbirdの手数料への支払いなどに使うことができます。またメンバーは自身の個人情報やフィードバックをレストランに提供することで追加的に$FLYを得ることもできます。これに加え、これからレストランを開こうとしているシェフも、事前にファンディングメンバーNFTを提供することで、クラウドファンディングのようにして資金調達をすることができます。

さて、ではBlackbirdが従来のロイヤリティシステムといったいどう違うのかと疑問に思う方もいると思いますが、Blackbirdにしかない特徴として以下の2つがあります。

  1. 顧客データの民主化:顧客は自分で個人情報の提供を管理でき、また第三者の組織にデータを取られることがなくなる

  2. メンバーシップのカスタマイズ:資金調達に使ったり、独特な特典を儲けたり、様々なユースケースを滑らかに適応できる

Web3におけるメリットのひとつに、「クリエイターとファンをダイレクトに繋げる」ことがあります。Blackbirdはこのメリットを最大限に利用して、飲食業界に新しいエコシステムを構築しようとしているのです。

Blackbird対応店舗の表示マップ
現在はニューヨークを中心にエコシステムを広げている

創業者であるBen Leventhalは、アメリカでは有名なレストラン予約サービスであるResyの創業者で、既にAmerican Expressに売却しているシリアルアントレプレナーです。Blackbirdは2023年の10月に、Andreessen Horowitzをリードとし、Union Square Venturesなど著名VCより2400万ドル(約34億円)ものシリーズAの資金調達をしています。

レストラン業界とのコネクションとその知見を活用し、ブロックチェーンによる新しいコミュニティー創造の挑戦として、引き続き追っていきたいと思います。

Shibuya : 運命をみんなで決める、分散型ストーリーテリング

HP:https://www.shibuya.xyz
設立年: 2022年
拠点:アメリカ(ニューヨーク)
シリーズ:Seed
累計資金調達額:690万ドル

アニメや映画を見ている時、ああ、主人公がもしあの時あの選択をしていれば…と思ったことは誰にしもあるでしょう。Shibuyaは視聴者に決定権を委ねることで、よりインタラクティブなストーリーテリングを実現しようとしています。

ストーリーの選択に関わるために、ユーザーはまずプロデューサー・パスというNFTを購入する必要があります。これは名前の通り、ユーザーに製作者としての権利を与えるものです。これによって購入したユーザーは登場人物の選択やキャラクターの名前を決めることができ、また実際のクリエイターはNFT販売によって得たお金を制作費用に充てることができます。

Shibuyaの最初のプロジェクトは「White Rabbit」というファンタジーアニメで、現在4つのチャプターまで進められています。現在のNFTによって既に150万ドル(約2億円)もの資金が集まっており、これはおよそ日本のアニメの1クール(13話)にかかる費用と同じです。

また、プロデューサー・パスを持つ人が、投票などによってストーリーにコミットメントしていくと、$WRABという独自のトークンを獲得することができます。このトークンは、最終的にできたアニメの所有権を示しており、現在どのユーザーがどれくらいの割合所有しているかどうかは、ダッシュボードにて見ることができます。

White Rabbitの最終的な所有権の割合が見れるダッシュボード

この他にも、アニメの中のミステリーを解くことで限定NFTアートが獲得できたり、Azukiという有名NFTアートとコラボしてキャラクターが登場したりと、エコシステムを活性化させるイベントを継続的に行っています。

創業者であるEmily Yangは、元々はpplpleasrという有名なNFTアーティストであり、暗号資産取引所であるUniswapのプロモーションビデオも作成していました。Shibuyaは2022年12月に、a16z cryptoや伊藤穰一らから690万ドル(約10億円)のシード調達をしており、それに際して伊藤穰一との対談動画も公開されています。

ShibuyaはこれからのIPの可能性を示すスタートアップだと思います。日本は特に多数のビッグIPを抱えており、それらの世界観をさらに拡張し、インタラクティブにするという点で、Web3は重要な技術領域であるといえます。エンタメ市場をさらに拡大するという点で、日本の起業家も注目すべきプロジェクトでしょう。

Space Runners : デジタルファッションブランドの期待の新星

HP:https://spacerunners.com
設立年: 2022年
拠点:アメリカ(ニューヨーク)
シリーズ:Seed
累計資金調達額:690万ドル

Web3が提示するメインテーマは、なんといっても「所有権の民主化」です。ブロックチェーンにより、デジタル上のアセットの所有権を確固たるものとし、新しい消費活動を生み出しました。このテーマと相性が良いのはメタバースです。メタバースはもはやただのゲームの一分野ではなく、オンライン上での交流や活動をさらに直感的に拡張していく不可逆的な流れとしても見られています。

Space Runnersは来たるメタバースの時代に向けて、デジタルファッションやそのためのプラットフォームを提供しています。最初に公開したのはNBA選手とコラボしたスニーカーNFTで、これは独自のメタバース「Spaceverse」などにて実際に着ることができます。こちらは2021年のローンチ時は、ひとつ10万円のNFTを1万個供給し、わずか9分で完売しました。2021年というNFTが特に注目されていた時代背景もありますが、Space Runnersが思い描く未来に惹かれた人も一定数いるでしょう。

Space RunnersによるウェアブルNFTsの一例

Space RunnersはただのNFT販売だけでなく、メタバース上での新らしい自己表現の形を目指しています。そのために、ABLO AIというファッションアセットに特化した生成AIの開発や、実際にNFTを着用できる独自メタバースを提供したりしています。またファッションNFTのマーケットプレイスも展開しようとしており、デジタルファッションの新しい経済活動の創生に努めています。

ファッションに特化したメタバース「Spaceverse」

創業者であるWon Sohは、マッキンゼーにて5年働いていた事業戦略のプロで、このNFT×メタバース領域に参入したのは意外性があります。Space Runnersは2022年3月に、AccelPolychainといった大手VCから1000万ドル(約14億円)ものシード調達をしており、ここにはTwitchの創業者かつYCの初期メンバーであるJustin Kanも投資家として入っています。

NFTをただの投機商品としてではなく、メタバースに接続するためのアセットとして捉え、ファッションを中心に新たなコミュニティを形成しようとしている、長期的方針が軸のスタートアップです。

Destore : 小売の未来を切り開く、DAOリテール

HP:https://desto.re/
設立年: 2022年1月
拠点:アメリカ(カリフォルニア)
シリーズ:不明
累計資金調達額:不明

コロナ以降、オンラインショッピングが便利になり、実店舗の価値が問われることとなりました。その中でも、実店舗にしかない利点のひとつにコミニティという側面があります。オンライン化のため現実世界でのタッチポイントが減ってきた中、地元のセレクトショップなどには店員や顧客を繋げるという役割もあります。

DeStoreはDAO(分散型自立組織)の活用により、コミニティドリブンな新しい実店舗リテールを実現しようとしています。DeStoreは現在アプリでオーナーシップNFTを発行しており、こちらを購入することで実店舗のメンバーとなることができます。メンバーは投票を通じて、店頭に並ぶべき商品を選んだり、集客のためのイベントを提案したりすることができます。こうした活動も、オーナーシップNFTで集めた資金で行われています。

サンフランシスコにあるDeStore1号店

顧客は、店舗のイメージやこれからの方針などに自分の意見を反映することができ、店舗側は顧客のロイヤリティを高めるとともに、顧客による自然な宣伝効果を期待することができます。また共同でひとつの店舗を動かしているという意識が高まるため、店員や顧客間のコミュティとしての関係性も強まります。また店舗の収益が上がったり、イベントなどで貢献をすると、割引として使えるトークンがもらえ、コミュニティ参加のインセンティブとなっています。

創業者である大東 樹生は、15歳の時に日本最初のファッション専門Youtuberとして活動しており、ファッションやリテール業界に情熱と経験を持ち合わせています。Destoreを運営するKinomis, Inc.は、2022年3月に日本やアメリカの投資家から累計7000万円の資金調達をしており、その中にはOrange DAOというYコンビネーター卒業生限定の投資DAOも含まれています。

スタートアップの聖地、サンフランシスコで挑戦する日本人起業家ということもあり、Destoreが目指す、これからのリテールの形に注目していきたいと思います。

冷え込むクリプト領域にて、問われる真の価値

今回の記事ではWeb3における未来のコミュニティの在り方について見ていきました。
Web3含む、クリプト市場は全体的に冷え込んでおり、2022年後半からどんどん投資が減っています。しかしa16zの「State of Crypto」にも書かれている通り、まだ歴史が浅く、これから社会実装の余地がある分野です。

Web3 & DeFi領域の投資件数と投資金額の推移
PitchBook:Q2 2023 Emerging Tech Indicator

a16zはまた最新の記事「2024年にクリプトに期待すること」にて、NFTはただの投機商品やマーケティングの道具でなく、デジタル上のユーザーのアイデンティティを表明し、コミュニティでの関係性を強化するためにも使われるべきと論じています。

我々は今一度、Web3の目指す未来を思い描き、ブロックチェーンやARといった技術や、NFTやDAOといったアプリケーションが、いったい社会にどんな価値を与えることができるかを深く考え試行する必要があります。
Web3に惹かれている者として、その社会浸透に向けたバリュー・クリエーションを常に熟考していきたいと思います。

最後に

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ブロックチェーンはDeFiの領域が注目されがちですが、今回は新時代のコミュティ形成への活用の可能性を見ていきました。

HAKOBUNEもWeb3.0による新しい社会のために、Web3特化のインキュベーターに投資しています。Web3.0とAI領域はもちろん、将来の時代を象徴する"変化"に積極的に投資していきます!
これからの社会を担う起業家や、アイデア段階にいる方々ともぜひお話をしたいと考えていますので、お気軽にご連絡ください。

HAKOBUNEのウェブサイト:https://www.hkbn.vc
記者のTwitter:https://twitter.com/shinichi815


<参考資料>
a16z crypto, "2023 State of Crypto Report: Introducing the State of Crypto Index"
a16z crypto, "A few of the things we’re excited about in crypto (2024)"
PitchBook, "Q3 2023 Crypto Report Preview"