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夫とドラマを見たくない妻

 一郎さんは退職してからテレビを見る時間が増えた。
 仕事をしていた頃は、朝ドラなど見ることもなかったが、今は日課になってしまった。

 そうなると、夫婦でテレビの前にいる時間も増える。
 一郎さんは恋愛ドラマは見ないが、それ以外のドラマやバラエティなどは奥さんと一緒に見ることになる。ここに困ったことが起こる。

 一郎さんは、最近の若い人たちの顔が皆同じように見えて、覚えられない。

 例えば、朝ドラではカツラをつけて着物を着ていた女優が、コマーシャルに普通の格好で出てきたりすると、「この子、見たことあるような気がするんだけど。」と奥さんに聞く。

 「朝ドラに出ていたHさんでしょうよ。わかんないの。」と呆れられる。すると、それが面白くないようで、「ふ〜ん。朝ドラに出ていた時は、もっと綺麗で可愛かったけどな。普通の格好の時は存在感が薄れるね。洋服の時もカツラ被ってればいいのに。」などと、無茶苦茶なことを言い出す。

 ドラマを見ている最中にも「これ、誰だっけ、何に出てた?」と聞く。ひどい時は、登場人物の区別がつかなくて「あれ? この人、さっき死んだよね。」などと言ったりするものだから、奥さんが怒り出す。
 「集中できないからやめてよ。話がわ
 かんなくなっちゃった。」

 そういう時、素直に引き下がれないのが、一郎さんの悪い所だ。
 「俺だって集中できないよ。この人誰だっけって、考えながら見ていたら。」と怒り出すので、いさかいになってしまうこともある。こうなるとドラマどころではなくなる。

 奥さんは怒りながらも、「この物覚えの悪さと怒りっぽさは、認知症の兆候なのでは?」と密かに気にしている。

 だから、聞かれて名前を教えてやった俳優がコマーシャルに出てきた時は、「この人誰か覚えてる?」と試しに聞いてみるのだが、だいたい間違える。そして言い訳を言う。
 「どうも、この子と○○が似ていて覚えられないんだよ。」
 奥さんに言わせると、全然似ていないそうだ。

 できれば、一人でゆっくりドラマを見たい奥さんと、ちょっと心配な一郎さんの話でした。     (ネット画像借用しました。)

#エッセイ #夫婦喧嘩 #物忘れ
#テレビ #ドラマ  

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