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mont-bellの登山靴を買ってみた(登山靴あれこれ⑪)

靴好き、登山靴好きとしてmont-bellの登山靴がとても気になっていました。しかしmont-bellは靴メーカーではなく、アウトドア総合メーカー。そこが作る靴が本当に良いものなのか。一抹の不安があり、手を出すことができませんでした。
とはいえ、mont-bellは日本の企業。応援したい気持ちもあり何よりmont-bell独自のアウトソール「トレールグリッパー」は滑りにくいということで評判が良い。そして近年は木型が改良され、靴としても評価が上がっているらしい。なので思いきって買ってみました!
買ったのはマウンテンクルーザー600レザー。上位モデルとしてアルパインクルーザー800があり、そちらはどちらかというと縦走用の登山靴。600は日帰りから山小屋泊をターゲットにしたミドルクラスの登山靴(トレッキングシューズ)となります。その特徴を自分なりに述べていこうと思います

外観

まずは外観から。アッパーはスエードレザーをメインに使用しタンの部分は化繊のメッシュとなっています。革の部分は薄手のスエード。アルパインシューズに使われるような厚手のものではなく、軽量で足馴染みの良い薄手のものが使われています

一枚革ではないが、化繊モデルより縫い目が少ないので耐久性と防水性が高いといえる
スエードレザーのメンテナンスには起毛革用の栄養ミストやローションで行うが妥当

ミドルカットのためある程度のプロテクションと足首の動きやすさ両立され、特に足首部分は革ではなく化繊のため柔らかく足首の動きを妨げにくくなっています。またミドルカットの利点として、ハイカットまではいかないまでも足首部分を紐で固定することで、下り坂の際足が靴の中で前に動いてしまうことを防ぎます。ローカットだとしっかり紐を締めこんでも構造上下り坂では足が前滑りしてしまうことがあり、靴に指があたり爪を痛めてしまうこともあります。もちろんハイカットやミドルカットでも起こりえますが、ローカットに比べれば確率は下がるといえます。

足首部分が化繊のため屈曲性がよく、ローカットに近い足首を使った歩き方ができる
ハイカットと比べるとミッドカットの高さはこれぐらい
後ろから見ると高さの違いは一目瞭然
ゴアテックスが使われている=防水性のある部分もかなり差がある

足先にはトゥガードがあるため、足先を岩などから守ることができます。そして、ちょうど指があたる部分はラバーがないため足当たりが良く、多少サイズが合わなくても足指側面に痛みが生じにくくなっています。

登山靴としてあってほしいトゥガード
これがあるとないで不意に足をぶつけた際のダメージはかなり違う
親指と小指があたる部分はラバーがないので、革が広がるため痛みが生じにくい
縦走用のトレッキングシューズやアルパインシューズだとラバーがぐるっと一周まかれており
伸びる要素がないため、横幅のサイズがきついと痛みが生じやすい

踵部分にもヒールガード(ラバー)が貼られ、傷つきやすい踵をガードしています。

踵は意外と傷がつきやすいのでラバーがあるとちょうどよい

シューレースホールは軽量化のためか金具ではなく革をホール状にし、直接紐を通すようになっています。これがまた通し辛い。メンテのため紐を外すと再度通すのに苦戦します。これは軽いストレス

軽量化のためシューレースフックの金具は省略されている
金具だと紐が通しやすく締込みやすい利点があるが、
重量はどうしても増えてしまう

重量は27.5センチで片足565g。他のメーカーの同クラスのトレッキングシューズは700g前後のため、かなり軽い部類です。ミドルカットではありますが、トゥガード、ヒールガードなど登山靴として必要なプロテクションを持ち、アッパーに革を使いながらこの軽さはなかなかに優秀

カタログでは25.5cmで525g
27.5cmの靴ならこれぐらいか

ライニング

ライニングは安定のゴアテックス。登山靴ではほぼ標準のように使われていて、レインウェア同様の高い防水性を持ちます。このマウンテンクルーザー600に使われるゴアテックスは「ゴアテックスパフォーマンスコンフォート」←mont-bellに問い合わせて確認しました

白い部分にゴアテックスが使用されている。
高さは踝ぐらいまで。よって踝より上に防水性はほぼない

時に0℃前後になる環境でも快適に使える断熱性能を持ったゴアテックスです。靴底は縫い合わせてあり、袋状になっていて特に防水性が高いブーティ構造ではありません。この辺は比較的安価な値段に直結している部分でしょうか。アッパーの撥水が足りず靴全体が水を含んでしまった場合、縫目から毛細管現象で水が染みてくる可能性があり、靴を使用する際は防水スプレー等で撥水加工を欠かさず行いたいところです

インソールを外したら見える靴底の部分。ここで縫い合わせてあります。
ゴアテックスブーティであれば縫い合わせなく袋状になっています

ちなみにフットウェアのゴアテックスには以下の種類があり、防水性に違いはないものの断熱性に差があるそうです。

エクステンデットテクノロジー 比較的高温の環境に対応
パフォーマンスコンフォート 中程度の低温環境に対応
インシュレーテッドテクノロジー 特に低温環境に対応

に分かれます。北アルプス等3000m級の高山では夏でも氷点下近くまで気温が下がることもあり、スリーシーズン用の登山靴には概ねゴアテックスパフォーマンスコンフォートが使用されています。
ある程度保温性(断熱性)をもつ
ゴアテックスのため雪の少ない冬の低山でも使うことができそうです

サロモンのX-ultra3はゴアテックスエクステンテッドコンフォートとのこと
この靴の用途からしても保温性より透湿性を重視したゴアテックスが選択されている

アルパインクルーザー3000や2800はゴアテックスインシュレーテッドコンフォートを採用。ゴアテックスに加えゴアテックスデュラサーモという保温材が使われています

木型

木型は幅広甲高で踵が小さいとされる日本人に合わせた形になっています。ウィズにすると2E~3Eに相当。ワイドモデルは4E以上に相当するそうです
ASICSによれば現代の日本人の足はD~Eが標準的であり幅広の木型が果たして日本人に合っているとは思えないのですが、私は3Eの幅広足ゆえマウンテンクルーザーの木型は比較的合っていると言えます

幅広足に対応した足先の形状
レギュラー木型でもなかなか幅広です

登山靴は足先の幅ばかり注目されますが、踵の収まりも重要な部分です。踵が小さめに作られたこの木型はヒールカップの収まりがよく好印象そして何より、土踏まずの部分がシェイプされており靴紐を締め上げれば土踏まずをグイッと持ち上げてくれます。今回購入の決め手になったのはこの部分。正直に言うとmont-bellの靴でこれは期待していなかった。良い靴の要件にアッパー(というか木型)に土踏まずを支える、というのがあるのですがmont-bellの靴の木型がここまで改良されているとは思いませんでした

土踏まず部分がシェイプされいるため、土踏まずのサポートと足の前ずれを防ぐ効果があります

インソール

インソールは化学繊維で柔らかなものが使われています。

クッション性はありますが、他には特に特徴のない、ないよりはまし程度のものなため、早々にインソールメーカーのものに変更することにしました(詳しくは後述)
インソールについてはメーカーが靴に合うベストのものを付けているので交換は無用、という意見もありますが、私は必要があれば交換する考え。オーダーメイドならともかくレディメイド(既成靴)は6割ぐらいの人の足に概ね合うように作られているので、それをインソールで微調整することはなんら問題の出ることではないと考えています。そして高機能インソールで靴の弱点を補正することでより快適に靴を使うことができると思います

ミッドソール

ミッドソールには分厚いEVAが使用され、軽量ながら高いクッション性を持っています。

トレッキングシューズらしく厚みのあるミッドソール。これが岩や石のゴツゴツからくる足裏へのダメージを緩和します

PUと違い加水分解することがなく、高温多湿で加水分解が進みやすい日本の気候に対応した素材が選択されています。しかしEVAは要はスポンジなので耐久性に劣る部分があり、岩や石などの固いものですぐ削れてしまうため、岩稜帯を繰り返し歩くとすぐにボロボロになってしまうかもしれません

簡単な岩場を歩いただけで傷が付いてしまった。ミッドソールの耐久性は高いとは言えない

アウトソール

アウトソールはグリップ力で定評のあるmont-bell独自の「トレールグリッパー」
雨が多く、土や木の根、岩など多種多様な日本の登山道を歩くためmont-bellが開発したソールです。
グリップ力を高めるため柔らか目のコンパウンドながら対磨耗性能は悪くないそう。グリップの良いソールというとビブラム社のメガグリップが有名ですが、そのメガグリップより耐磨耗性能の点でアドバンテージがあるそうな

ソールパターンはとてもスタンダード。低山から岩場の多い高山に対応したパターンで、少し面白みがないぐらい。マウンテンクルーザー400~アルパインクルーザー1000まではこのソールパターンとなっています

こちらはLOWAタホープロに使われているビブラムMASAIソールのパターン
泥と苔むした岩と木の根に木道。滑る要素満載の北八ヶ岳の登山道

滑りやすい登山道の代表格(?)北八ヶ岳では大変良好なグリップを発揮。止まるというより粘るという印象です。まったく滑らない、というわけではありませんが、似たようなソールパターンのビブラムMASAIソールよりしっかりグリップします。

ソールスタンス(固さ)

ソールは比較的柔らかく、体重をかければ指関節の部分でしっかり曲がります。手でも力を入れれば簡単に曲げることができるので、トレッキングシューズの中では柔らかい部類です。しかし、スニーカー程柔らかいわけではなく、土踏まずから踵にかけてはしっかりした捻れ剛性を感じるため、不整地を歩くに適した固さと思います。
シャンクプレートはインソールとアウトソールの間に備えられているそうですが、トレッキングモデルということで、それほどハードなものは使われていないようです

体重をかければ足先は曲がりますが、決して柔らかすぎるわけではありません。

マウンテンクルーザー600のソール剛性は、タホーのように点を面で受けて乗る、ということができるほどの固さはありません。それを含めてテント泊など荷物に重量がある場合で使うには人を選ぶと思います(足腰強い人でないと負担が大きい)

ソールが固い登山靴はこの歩き方ができる

同クラスのトレッキングシューズでもLOWAのバルドは少し固めのソールスタンスであり日帰り・山小屋泊用といえどメーカーや靴により味付けは違います。スカルパのZGトレックはマウンテンクルーザー600に近い柔らか目のソールスタンス。ここは人による好みだと思います。ちなみに私はバルドぐらいの固さが好みだったり、、、

上に各パーツの解説があります

全体的な評価

ここまで各パーツを解説してきましたが、実際山で使ってみた感想は、あと一歩何かが足りない、でした。
アウトソールはグリップ良好。重量はクラスの中で軽量な部類。レザーアッパーに足の形状に沿った木型、足を守るために必要な部分に適切に配置されたガード、歩きやすいソールスタンス、と利点は多数。
しかし、歩いてみると何か足りない。バランスが足りない。フィット感はLOWAやスカルパのような足を包み込むかのような感覚はないものの、抑えるところはしっかり抑えることができています。
アウトソールのグリップは濡れた岩でも食い付きが良く大変良好。滑りにくいので安心して足をおろすことができます。
しかし、その足を地面に下ろした際の踵の安定性が少し足りない。安定性がないわけではないのです。平地で安定性は気になりません。それが不整地に入ると何か物足りない。
トレッキングシューズであればもう少しカッチリした踵の安定性が欲しい。マウンテンクルーザー600以外にLOWAのタホーとSalomonのX-ultraⅢを持っているのですが、重量もあり剛性の高いタホーはともかく、ずっと軽量でローカットの X-ultraⅢのほうが安定性が高く感じます。
この原因は何なのか。アウトソールの形状?ミッドソール?シャンクプレートの剛性が足りない?木型?ヒールカウンターの形状?重量は560gあり、軽すぎるということはない
私には原因がはっきりわからないのですが、不整地における踵の安定性が登山靴としてはあと一歩、という印象が抜けませんでした。
惜しい、実に惜しいのです。mont-bellの登山靴は昔に比べてずっと良くなったと聞きます。あともう少し、頑張ってほしい

インソールを変えてみた

踵の安定性を上げるためインソールを変えてみました。導入したのは、フランスのインソールメーカーシダスのもの。アウトドア3Dという銘柄のものを他の靴に使っていますが、マウンテンクルーザーには比較的安価なマックスプロテクトにしました。このマックスプロテクトシリーズ、日本人の足型に合わせて開発したそうで、安価ながら踵の安定性の向上、土踏まずのサポートをしっかり行うことができます。クッションレイヤーも付いており、元々のインソールより衝撃吸収においても向上が期待できます。仕事の靴にこのマックスプロテクトシリーズを使っており、大変好印象だったため登山靴にも採用してみました。

今回はマックスプロテクト「ラン」
前足部分にもクッションレイヤーがあります。歩く用途ならマックスプロテクト「ウォーク」が向いていますが、トレッキングは前足から着地することもままあるのでこちらを選択しました

このインソール交換が功を奏したようで踵の安定性が向上。ノーマルでは不満だった安定性がかなり改善され、実に快適に歩けるようになりました。アウトソールの滑りにくさを存分に生かすことができ、これなら安心して登山に使えようになったと思います。
踵の不安定さは足の筋肉の負担につながります。インソールを変更することで不満点が改善され、なかなかバランスの良い靴になりました
※ちなみにモンベルショップではシダスのインソールは扱っておらず、ショップで交換しようとするとスーパーフィートになると思います。スーパーフィート及びインソール全般に言えるのですが、足との相性もあるため、インソール交換は慎重に行ってください。場合によっては靴の良さをスポイルするだけでなく、足への負担を高めてしまいます。

耐久性のあるレザーアッパー、防水性と保温性の備えるゴアテックスライニング、ソール交換が可能かつ高性能なアウトソールなどを持ちながら比較的安価な価格と実にモンベルらしい製品です。
個人的には不満点もあるため、全力でおススメとは言い難いのですが、登山靴を選ぶ際、選択肢に入れて良い製品だと思います。


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