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【夜明けのすべて】ひたすら好きな気持ちをぶつける

映画『夜明けのすべて』が、2024年2月9日、待望の公開日を迎えて早一か月が過ぎようとしている。時が経つのが年々早くなっていく。


映画『夜明けのすべて』出会えてよかった

公式HPにおけるINTRODUCTIONは次の通り。

松村北斗×上白石萌音×監督:三宅唱×原作:瀬尾まいこ
ささやかな、でも確かなつながりが照らす、かけがえのない物語

「そして、バトンは渡された」で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの原作小説を、「ケイコ目を澄ませて」が第72回ベルリン国際映画祭ほか20以上の映画祭に出品され、第77回毎日映画コンクールで日本映画大賞・監督賞他5部門を受賞するなど、国内外で絶賛を浴びた三宅唱監督が映画化。原作にオリジナルの要素を加え、二人が交流し少しずつお互いの殻を溶かし合っていく姿を、彼らの見つめる日常の美しさや季節の移ろいとともに捉えた。W主演を務めるのは、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音。映画としては初共演となる二人が、今回は同僚役で最高の理解者となる特別な関係性を演じる。また、二人を優しく見守る、山添くんと藤沢さんが勤める栗田科学の社長・栗田和夫には光石研。その他、りょう、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子など実力派キャストが脇を固めている。人生の様々な瞬間に、何度も思い出してしまうような大切な一本になる、令和時代の新たな傑作が誕生した。

映画『夜明けのすべて』公式サイト

2023年2月の情報解禁があって、先に原作を購入して読み、今年の公開をとても楽しみにしてきた。スクリーンの中で移り変わる季節がとても美しく、半年ほどの日常がすごく丁寧に描かれているこの作品、一度見ただけでとっても大好きになった。

ひたすら好きを感じたところを書き残しておきたくて、ここに記事を作成することにした。うまく書けるかわからないけど記録用として。

この世に送り出された、今後の私を温め続けてくれるたくさんの場面


繰り返すようですが映画『夜明けのすべて』は「あ、このシーン好き」の宝庫。思い出しては書き留めてしまったものを大体時系列(記憶違いなどあるかも知れません)でツラツラと書いていく。

※※ここから本編の内容に触れます。ネタバレが嫌な方はご注意ください。

シュークリームを返す山添くん

藤沢さんが差し入れようとしたシュークリームを最初は「お腹空いてないんで」と断り、持って帰って家で食べることをすすめられると「生クリーム苦手」と受け取らなかった山添くん。ハッキリと視認ができなくてこれは想像でしかないけど、返す時の山添くん、たぶんパッケージを藤沢さんから見て正面を向けて返してるなと思った。前職でも生かされていたであろう細やかな気遣いの片鱗を垣間見た気がした。

和菓子屋で甘くないものを買おうとする藤沢さん

PMSでイライラが爆発した翌日、恐らく慣れた様子でお詫びのお菓子を町の和菓子屋さんに買いに行った藤沢さん。今回一番強くぶつけてしまった山添くんとのやり取りが過ったのだろう、和菓子屋さんに「甘くないお菓子ってありますか」って聞いちゃう感じ。好き。お菓子は基本甘い。そして結果的にしば漬けと胡瓜の醤油漬けを持参しちゃう藤沢さん。どこで買ったのか気になってる。

そうだ、自転車をプレゼントしちゃおう

山添くんの発作に直面し、以前自分もPMSの治療で飲んだことのある薬を拾って彼の病気を察した藤沢さん。栗田社長からの頼みもあって山添くんを家まで送り届けた日の仕事帰り、早速その病気について調べるところに優しさを感じた。パニック障害とたたかう人たちがなかなか世界を広げられないことを知った翌朝、思い付いてしまった瞬間からのわくわくがにじみ出てる藤沢さんの顔が大好き。きっと朝ごはんの片付けをしているときに聞こえた自転車のベルの音がきっかけだったんだと思うけど、朝の明るい光の中変わり始める世界を期待できる大好きなシーン。

※副音声コメンタリーより
あの自転車はバイト生活時代に配達の仕事もやったりしていて、そのために買ったもの。

藤沢さんが山添くんの部屋で最初にしたこと

自転車を届けに行って持ち前のグイグイで山添君の髪を切ってあげることになった藤沢さん。彼女が部屋に入って真っ先にカーテンを開けるところがすごく好き。許可を取るでもなく自然とカーテンを開けて部屋が明るくなって。山添くんが辛い状態にあること、そして藤沢さんが彼の世界に光を届ける存在であることが日常の中で表現されているなと感じた。

※副音声コメンタリーより
あのシーンは夜に撮影されたもの。照明部さんの技術がスゴい。
あと山添くんが着てる散髪用のケープ、実は裏表が逆。撮り直しもできたけれど、山添くんらしくていいのではということでそのまま採用された。

象徴的な散髪シーン

藤沢さんが山添くんに対して、人の髪を切ったこともないのにどんな髪型がいいのか聞いちゃう辺りからじわじわ笑いがこみ上げてくるんだけど、その後の美容院では聞くことのないジョキジョキという音を立てながら耳上で真一文字にハサミを入れる藤沢さんの思いきりが良すぎて気持ち良く笑える。からの、山添くんが腹を抱えて笑ってるだけで泣ける。ここまで真顔しか見てないから。育ててないのに泣ける。もう一回チャンスちょうだいと言ったあと、わりとすぐごめんなさいって言っちゃう藤沢さんも好きだった。

助けられることはある

そんな名言を山添くんが放った、会社で停電が起きたあの日。恐らく早々に退社して山添くんの部屋で各々好きに本を読んだりポテトチップスを食べる。大あくびをする山添くんがうっすら青髭に見えた。気のせいかな、すごい生活感だなと思ったんだけど。

※副音声コメンタリーより
藤沢さんが最後のポテチを口に流し込む名シーン。実は思ったより量が多くてふた口になった。すりガラス扉の向こうで食べるという案も出たけれど、それをすると好き(恋愛関係)になっちゃうよねということでなしになった。

自分の足で世界を広げた山添くん

藤沢さんが早退して、自ら忘れ物を届けることを申し出た山添くん。初めて栗田科学のジャンパーを着て自宅に寄り、光に向かって藤沢さんからもらった自転車をこぎ出す山添くんの背中に希望を感じずにはいられなかった。坂を上りきったときに見える富士山がまた美しい。いつも藤沢さんがしているようにたい焼きの差し入れなんかして、とても変わった山添くんもたい焼きを見た瞬間フリーズからの嬉しさが隠しきれない住川さんや社長も最高。

※副音声コメンタリーより
あの場所で富士山が映り込むことはロケハン時曇りだったため撮影当日までわからなかった。

3回に1回は助けられるかもしれない

炭酸を開ける音で怒られた時はそんな発言をする日が来るなんて想像もできなかったけど、最終的に本当に3回目で止めちゃう山添くん。(PMSについて知って以降)

1回目は、大掃除の日(結局怒らせた)
2回目は、ヨガで爆発してしまい日曜日出社
そして3回目、藤沢さんが早退した日。

この日の藤沢さんはイライラを募らせつつも自宅で過ごすことを選んだ。踏み込むわけでもなく顔色を見ようとするでもなく、忘れ物を置き、声だけ掛けて帰っていく山添くん。そして予告でも出てきた素っぴんぽい藤沢さんの笑顔。あれはきっと自転車でやってきてくれた山添くんに向けられたものではないだろうか。人の変化に気持ちが救われることだってあるんだろうな。
会社に戻る山添くんと晴れやかな顔になった藤沢さんがスマホでメッセージを送り合うところも好き。わざわざ何を送ったかを見せられなくても心が温まっているのが二人の表情で見えるのも好き。

※副音声コメンタリーより
山添くん、藤沢さんのクランクアップはこのシーン。

素敵な光の表現がたくさん

街頭や、栗田科学社員が持ってるペンライトのまあるくて柔らかな光がとっても優しくて好き。思い返せば冒頭のタイトルバックに映るタクシーのフロントガラス越しの街も、雨でにじんだ光がぼんやりと美しい。

日曜日に出社した山添くんのために社長が倉庫を開けてくれるシーンも良い。私たちが見ている映画館のスクリーン内全体も一瞬真っ暗になって、そこから光が差し込んで明るくなっていく描写、劇場内の様子が大好き。

※副音声コメンタリーより
栗田科学社員が持っているペンライトは、モデルとして取材したプラネタリウムを扱う会社の社員さんが実際に持っていた。

出てくる人物が全員優しくて、時に愛くるしい

この世で愛すべき人が一気に増える。

藤沢美沙

何度も出てくる藤沢さんが手土産を持っているところ。一人暮らしを始めた娘にしょっちゅう荷物を送ってくる母のことを少し煩わしそうに語るナレーションもあったけれど、お母さんがそうしてくれたように人に贈り物をするのが当たり前になっているのだろう。その延長線上におせっかいを通り越したようなやり方で山添くんと向き合った藤沢さんがいるのだと思う。初詣のお守りをおひとつどうぞはあまりにもトリッキーだけれど。

※副音声コメンタリーより
ちなみに、山添くんのポストにお守りを投函したあと玄関ドアに向かって手を合わせる仕草はアドリブではなく台本にあったもの。

喫茶店の注文後メニューを手渡しちゃうところとか、自分について語るとき、さも平々凡々かのような褒めるところもないように自己評価している藤沢さんだけど実際めちゃめちゃいい人で大好きになった。

山添孝俊

登場時こそ無表情で冷たくて、気を遣ったりしない人に見えるけれど、先に書いたシュークリームの返し方だったりパニック障害になる前は気遣いも人付き合いもむしろ得意な方だったんだと思う。
藤沢さんと過ごす中で変化したプラネタリウム直前の帰り道、藤沢さんと肉まんを頬張って「美味しい」と口にした時はしみじみしてしまった。最初は誰もいない会社の隅っこでカロリーメイトをかじっていた山添くんだから。食べ物を美味しいと思えるって本当に幸せだよね。

※副音声コメンタリーより
二人が頬張っていたのは肉まんではなくあんまんです。

忘れ物を取りに戻った会社で社長と遭遇して、弟さんのお酒を注いだ後社長が顔を上げてもなお手を合わせてる山添くんが好きだった。

辻本さん

辻本さんも姉の死でやるせない経験をしたが、遺族会に参加することも手伝い徐々に気持ちが救われた。絶望を味わっている山添くんが姉に重なるところもあっただろう。だからこそ目に光が戻り、仕事で出会った山添くんが今の仕事を生き生きと語る姿を見てもう大丈夫だと思えたのではないだろうか。嬉しそうに涙ぐむ辻本さんを見てこちらまで泣けた。

栗田科学社員の皆さま

ダンくんたちのインタビューで会社のいいところを答えるのにすっと思い付かないおじさんたち。「駅からもうちょっと近いといいなぁ…」「いいところ難しいなぁ…」これを聞いて、栗田科学のいいところはほかでもないあなたたちです、と声をかけたくなった。仕事は、誰とするかが非常に大切で、山添くんや藤沢さんは栗田科学に在籍する人々のおかげで生きづらさを抱えつつも前を向いて働けるのだと思うから、おじさんたちはそのままでいてほしい。

机の上が猫グッズだらけな猫田さん、カップ焼きそばばっかり食べている平西さん(山添君と藤沢さんの衝突の時真っ先に動いた姿かっこよかった)、大人たちの様子を見守りながら映像制作を進めるダンくんとかりんちゃん。

どの人も、尖った特徴があったりするわけでもなく、ただ存在してるだけでじんわり温かい気持ちにさせてくれるから大好き。

大好きな主演のお二人

これを書かずには終われない。

松村北斗さん

これは推しに対する目線も入ってしまうんだけど、何度か口にする「えぇ?」に松村北斗が生きてると勝手に思ってる。突然藤沢さんが自転車を持って現れた時、歩道橋の上で飛行機のことを星だと勘違いした時。えぇ?集め、まだまだしたい。
そんな戯言はさておき、登場時の無気力感、人に気を配る余裕もなくてインタビュー撮影してるのに足音を立てて進入しちゃう姿。その後髪がさっぱりし、栗田科学に残ることを決めてプラネタリウムについて生き生きと語る顔。1つの作品の中で見せる表情が多彩で改めて素晴らしい俳優さんだなと思った。

上白石萌音さん

眉間の演技がすごすぎる。PMSでイライラに襲われている瞬間があの美しい眉間で見事に表現されているのには感嘆してしまう。
突然ものすごい勢いで積極性を発揮することで見ているこっちが驚きを通り越して笑ってしまうようなチャーミングな藤沢さん、萌音ちゃんほどぴたっとハマる人はいないと作品が発表されてから思わなかった日はない。

明日からも続く人生で、夜明けのすべてに出会う前よりも、誰かに少し優しくできるかも

PMSで自分を抑えられなくなったある日、大雨に打たれて沈み込んでいたところから始まった藤沢さん。山添くんと関わり、心境も環境も変化の末に、最後はまた雨の中にいたけれど、その顔は晴れやかで藤沢さんの中に光が生まれたことを感じた。

きっと私たちの身近にも同じ思いをしてる人はいる、そんな普通の二人が一緒に仕事をやり遂げ、それぞれ選んだ道を進む。その日々がずっと心地よいものであるといいなと願っている。

公開から1か月、劇場で4回鑑賞した。
今後また観に行ったら感想や残しておきたいポイントを追記するかも。
何度だって見たくなるのは、夜明けのすべてを生きる人々に会いたいから。

明日からまた頑張る。

https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/



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