壁の動物

さて、少し時間と気持ちに余裕が出来てきました今日この頃ですが、たまには、英語の入試問題についてなど、応答してみようかなと思います。ちょっと恥ずかしいですけどね(苦笑)。

ネット上で話題になっている、早稲田大学(法学部)の問題について、本日はお話してみたいと思います。ご存じの方も多いかと思うのですが、ストリート・アートのバンクシーの作品が取り上げられ、それについて自由に作文しなさい、という問題が出たんですね。

英検もTOEIC(S&W)もそうですが、現在の英語の試験では〈イメージを言語化する〉という形式がよくみられるんです。2007年度の、あの、東大の問題などもよく知られています(大島保彦先生の『東大入試問題に隠されたメッセージを読み解く』など、ご参照ください)。和文英訳や、文章を踏まえての作文問題ならば、先行する言語があり、それを「翻訳」するとか「パラフレーズ」するとか、そういう仕方で文章を展開することができるんですが、イメージからとなると、言語の次元では、無から創造しなければならない。そこが難しいし、そして面白い。

ただ、多くの試験では、せいぜいイメージの「描写」が課題なんですね。英検の二次試験なんか結構面白いです。現行の体制だと、3級から準1級まで、漫画のコマに描かれた人物の行動を描写するとか、4コマ漫画のストーリーを英語で言語化するとか、そういう仕方でスピーキングの教育装置が設定されているわけです(https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/virtual/grade_p1/pdf/grade_p1.pdf)。

そういった意味では、今回の早稲田の問題も想定可能なものかもしれませんが、一点大きく違うのは、問題文の2行目、

"Do not simply describe the image."

「単にイメージを描写するだけではだめですよ」という文言が入っているんですね。では、どうアプローチすればいいのか?

先に挙げたように、バンクシーの作品が出たんですね。で、出典情報として、さるリンクが挙げられています(https://scribouillart.wordpress.com/2008/07/30/whitewashing-lascaux-banksy/)。で、ググってみると、フランスのサイトに行きつくんですね。フランス語ですが、作家と作品について簡単な解説も付されています。deepLとか使えば問題なく読めますので、興味がある方はみて下さい。

で、入試の会場でかろうじて確認できるレベルとしては、リンクの中、よく見てください。作品のタイトルと作家の名前ですが、「whitewashing」「lascaux」、「banksy」という文字が見られます。後ろからになりますが、まずはバンクシーの名前。これは、一般教養として、何となく知っている方も多かったかもしれない。で、次、これは「ラスコー」ですね。世界史の最初の方で出てくるフランスの洞窟壁画への言及です(ここは、あるいは、選択科目の運不運はあったかもしれません)。で、一番の鍵は「whitewashing」ですよね。これは、正直、わたし自身も完璧にこの概念を把握していたかと言えば怪しいレベル。Wikipediaで確認しました(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0_(%E6%A4%9C%E9%96%B2)#:~:text=%E3%83%9B%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%EF%BC%88%E8%8B%B1%E8%AA%9E%3A%20whitewashing%EF%BC%89,%E3%81%AA%E6%A4%9C%E9%96%B2%E8%A1%8C%E7%82%BA%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82)。

つまり、まずは、前段階としてイメージの「描写」を簡単にしておけば、①ひとりの男が壁の前にいて、ストリート・アートを消している。②そこに描かれているのは、どうやら、ラスコー洞窟の壁画のようだ、ということになります(つまり、「現代の壁画」としてのストリート・アート、という重ね合わせがあるわけです)。

もともと、ストリート・アートは権力への反抗文化として発達した面も大きい。となると、どこか公的な感じにもみえるこのひとがそれを消しているというのは別に自然な風景なわけです。しかし、それが文化遺産であるラスコーの壁画だとすれば、何か風刺性というか、批評性が感じられるわけですね。いわば、「これを、表象文化論的に読み解きなさい」、というのがこの問題のメッセージかと思います。

でですね、ここまで情報が出そろっていれば、後は英語力さえあれば書けると思います。でも、問題は、試験日当日、ここまで周到な状況にある受験生はいない、ということでしょう(苦笑)。

では、どうアプローチするか?

今回は、自分自身が受験生だった頃のことを思い出しつつ、アプローチ法を模索してみようと思います。高得点狙いというよりは、何とか乗り切るくらいの感じですね。

まずは、もう一度、問題文を確認しましょう。

"Write a paragraph in English about what this photograph of street art means to you. Do not simply describe the image."

直訳すれば、「このストリート・アートの写真があなたにとってどのような意味を持つかについて、英語でパラグラフを書いてください。単にイメージを説明するだけではいけません」。

ここで、わたしならば、「あなたにとって」という部分に着目します。共通テスト風に言えば、factではなく、opinionでいい、ということですね。であれば、良くも悪くも、作品の文脈は知らなくても、自分がそのとき持っている知識で理解し、分析し、言語化すればよい、ということになります。もちろん、知識はあるに越したことはありませんし、知っていればより適切な回答ができる可能性も高い。でも、それはマストではないのではないか、わたし自身はそう思います。

ということで、17年前のわたしを「口寄せ」すれば(笑)、どういう回答をするか?

まず、「構造」と言いますか、「対比」の関係には着目していたかと思います。壁に絵が描かれている。それに対し、この絵を消している人がいる、という「二項対立」ですね。

世界史選択でしたから、先史時代の壁画っぽいな、とは思ったと思いますね。でも、その歴史的=文化的な意味と言うよりは、単に〈動物が描かれている〉という事実に着目したと思います。そこから、人類は長らく動物を愛で、絵に描いたり、漫画にしたり、アニメーションにしたりしてきた――ディズニーのアニメなんかを思い浮かべつつ、そんな風に連想したかと思います。

その一方、最近では〈動物への暴力〉に意識的な風潮もある――ここは、一個参照してしまいますが、一橋大学(2020年度)の問題で「ペット」に関する問題が出ているんですね。こういうものも内容的につながってくると面白い。動物への虐待はもちろん、それまで食べていた動物を食べることの是非が問題になったり、場合によっては「ペット」として売買することの是非が問題になることもある。あらゆる次元で、動物への暴力への配慮が求められる時代に私たちは生きているわけです。

で、この絵、よく見るとひとが動物を狩っている。こういう〈動物への暴力〉を助長しうるイメージは、「コンプライアンス」的に(笑)、公共の場にあってはまずいんではないか、なんていう意見が出てくる可能性もある。それを風刺している作品と、わたしは読んだ、という方向で書けるんではないかと思ったんですね。

で、ここからは本当にちょっと恥ずかしいんですが、英語で準備してみると、

"There is an image on the wall. In it, some animals and humans hunting them are represented. However, a man standing in front of the wall is erasing the image. It is a kind of "whitewashing". The problem is that this image represents a human violence toward animals. Today, people often talk about the violences toward animals, including DV, eating them and having them as pets. It can be thought images depicting the violences should not be present in public. That is why this man is erasing this image. People can erase even traditional works according to what is called "compliance", but is this always correct? It seems to me this image is posing such a question."

ネイティブチェックなども受けていませんし、いわゆる「模範解答」ではないことは強調しておきます。いまのわたしがこれだと本当はちょっとまずいんでしょうけど(苦笑)、受験生当時もこれに近いものは書けたんじゃないかな、と思いますね。もう少し、スペルミスや文法ミスが目立つ可能性はありますが。

でも、表現面ではこのくらいの英語力でも一応パラグラフは書けるんですね。一冊だけ、わたし自身の英作文の基礎にある田上芳彦先生のご著書を紹介しておきます(比較的最近出たものですが、懐かしいですね。わたし自身も、またこれを読んで、もっともっとレベルアップしたいです)。


なので、基礎的な文法力はもちろんですが、特に「自由」英作文で大事なのは、それ以前に読んだ文章に関する「記憶」と、当日のパフォーマンスとしての「構造分析」かな、と思います(あまり書けませんでしたが、今回のように課題が「パラグラフ=段落」を書くことならば、「パラグラフ・リーディング」の視点も有効かと思います)。

特に、イメージの分析というのは、いま、受験英語の主要課題のひとつになりつつあると思うんですね。総合的にみていい練習にもなりますから、受けずとも、最難関校の問題にチャレンジしてみるのも一興かと思います。

それでは、国立が残っている方は頑張ってくださいね!
栗脇



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