出口汪『「論理エンジン」が学力を劇的に伸ばす』より

「ものが覚えられないという。それは無理に覚えようとするからだ。
 いま、目の前に見知らぬ人間が、10人いるとしよう。その人たちとは今後二度と会うことがない。さあ、この場でその10人の名前を覚えろといわれたら、どうだろうか。
 私は、10人どころか、五人の名前すら覚えられる自信がない。というよりも、覚えるのは苦痛である。
 それほど努力して覚えたところで、一晩たてばすっかり忘れてしまう。一年後にその名前を覚えていることはおそらくないだろう。
 それはなぜか?
 これから使う必要のない知識であり、10人の名前になんの関連性もないからである。
 ものごとを理解し、整理する。そのときに、頭のなかに自然と記憶されるものである。理解しているから、くりかえし使うことができる。そのうち、その知識は定着し、忘れることがなくなっていく。
 私たちは記憶された知識を使って、ものを考え、文章を読み、問題を解く。その知識が曖昧だと、曖昧なものを使って考えようとするから、うまく考えることができない。
 理解するから記憶できるし、記憶しているから考えることができるのである。知識とはそういったサイクルのなかで、雪だるま式にふえていくものである。」

出口汪『「論理エンジン」が学力を劇的に伸ばす』、PHP、2006年、212~213ページ。

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