しかしそれは今日ではない

私の列車は遠くを走っている
停車するたび窓から手を伸ばして
降り続ける雨を私は瓶に受ける
もうほとんど透明に薄まって
瓶の底へ
既視感のように光っては
沈んでいくものをすぐ見失ってしまう
しかしそれは今日ではない
手のひらに瓶はひんやりしている

車内アナウンスが
到着時刻をまた訂正する
まどろんで聞く私から
不完全な気配が次々抜き取られる
表面を削られて並べられ
さらに遠く引き直されるレールの下で
磨かれかすれて読めなくなっている
遠巻きな雨音の合間に
抱擁と雷鳴が同時に爆発する
ゆるやかなカーブ
私は家々の屋根を踏み切って
わかれていく海を見送って落下する

素晴らしい一日はない
私の指が
瓶の向こうに透けて見える
鞄の中で封筒は
消印を今日に書き換え続ける
いつか晴れた庭先で
弱々しい日差しは瓶の
透明な中身を透明に乾かしていき
なにもない瓶はよく知ったあたたかさにあたためられて
手のひらの中でいつまでもあたたかい

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