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    屋上からの短い眺め

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あなたではない

改札は私の形に合わなくて私は自分を折りたたんでくぐった 電柱は少し私に似ていて友人はそうでもなかった 帰り際友人は私を切り取って冷蔵庫の扉に貼った 小さい私の切れ端は歪んでいたが友人に似ていた 外は日が暮れて道路には水たまりができていた 振り返ると友人が空からこちらにまだ手を振っていた 私はしばらくふたつの目やよっつの目やじゅうさんの目でそれを眺めて 帰り道を忘れてしまったので水たまりの中にずるずると這い入った

    • 20220502

       古くなった上着のポケットに入れたまま気付かず捨てたようなもののひとつとか、振り返らずにいるうちに流れて来て流れて行った雲の形のようなもののひとつ、うまれてから今まで何度も見て一度も覚えたままでは目覚めることのなかった夢のようなもののひとつで、何だったのかは忘れてただずっと遠いままだったので、考えようとするとすぐに誰かが、どうしてお前がと遠くから嫌な目つきで見る。  何かちょうどふさわしいものを探してあちこち引っ掻いてまわったがあったのはあの庭はもうないというそれだけだった

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        列車がまいります 平年並の見込みです お風呂がわきました 来月11才になります どこからでも切れます ただいま留守にしています この面を上にしてください 戦争が始まりました 次とまります 痛みのもとに作用します 接続を確認してください バックします よく振ってお飲みください まもなく、目的地周辺です

        • 夢 -1014

          33  2階へ上がると私の部屋には女たちがいて、振り返って私を見たきり口をつぐむ。机の上には小さなプラスチックのトレイがあって、歯形の残るかじりかけのイチゴが、つやつやと山になっている。  私の部屋で、と思ったが声にならず、部屋を出て階段を下りる。2階部分の手すりは片側が外れかけていて、体重をかければそのまま落ちてしまうだろうと思う。私はふと、子どもの顔をした従兄弟が落っこちていくところを想像する。  下にいる家族へ手すりを直すよう叫ぶが、背後からの女の相槌にかき消されてしま

        あなたではない

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        記事

          破片が刺さればもうそれ以上はない

          爪と髪の触れたものがいつも一歩で帰ってくる 一枚だった顔をして私の背中に噛みついている だだっ広い駐車場で短く鳴らされるクラクションから金属の骨を抜き取ろうとしてできない 残響は塀のすみで庇うように丸まって染みになっていく 月夜の猫が屋根で日に当てられている 十字路の真ん中には子どもの泣き声がある 空も肌も血も肺も同じにあたためられて踏み出した足が薄い雪を踏む 私を燃やした裏庭で今捨ててきたばかりの瓶がまだ燃え上がろうとしている

          破片が刺さればもうそれ以上はない

          夢 -0216

          32  彼女が出て行きたがっていたことを私は知っていた。校内では文字通りすべての人々が、残らず彼女を目を眇めて見上げてはゆらゆらその手を伸ばしていた。  5階も4階も同じように音を立てていた。氷が軋む音に似ていた。みんな悲しんでいるのだった。どの人もそれぞれ彼女について自分の話をした。私は階段を駆け下りたが彼女は私の行くところには既になかった。  誰も彼女を押しとどめられなかった。お前たちが悪いとみんな言った。廊下の黒板に誰かの字で彼女の苦しさが書き殴られていて、そのすぐ横に

          夢 -0216

          夢 -0923

          31  教室にはまだほとんどのひとが残って、軽やかに話し込んでいる。通り過ぎた一団から低い笑い声が上がって、いっぱいの顔の中から私は、そばかすのある男の子ひとりしか見つけることができない。  欠席した**君の家へ行くために校庭を抜ける。背の低い女の子がいつもの優しい笑顔で、私の手を引こうとついてくる。  私たちは**君の家へたどり着く。**君の両親に親切に迎え入れられて、私は尋ねる。**君はどこへ行ってしまったのですか。  あの子は部屋にいます、と**君のお母さんは言って、

          夢 -0923

          0902

          剥がれ落ちた列車が舞い上がっていく レールには ホームの縁から覗き込む子どもの影が 長い警笛を踏みつけてまだ最後の鍵穴のように立っている 端まで行って跳ね返ってきた 子どものこめかみの痛みが終わりなくひとりで共鳴し合って 朝は白くひび割れて濁っていき しきりと瞬きしてみる人々の目はズキズキと乾いている

          夢 -0406

          29  冷酷な独裁者として知られるディミトリは、絵画の中では常に力なき者として描かれた。痩せこけた体に襤褸をまとい、村人、特に女たちによって追い立てられるディミトリという構図は、画家たちに好んで用いられたものであるが、中でも特にこの作品はユニークで、目を凝らすと、箒や鍬を握る女たちに混じって、農民を象徴する緑の布切れを果敢に振り回す、愛らしい黒猫の姿を目にすることができる。 30 ⅰ  赤い廊下を二人は走っている。赤い壁にびっしり貼り付けられた赤い付箋が一言も読まれることも

          夢 -0406

          夢 -0113

          28  折りたたみ式の小さな机に向かって、正座して弁当を食べていると犬が帰ってきて、見ると赤い曼珠沙華を一輪くわえている。座った形をしている、と横からだれかの声がして、相づちを打って私はそれを机の上に置き、いつの間にかまた小さな陶器になってしまった犬も、手に取ってくるりとそちらへ向けてやる。  母が来たので半分ほど中身の残った弁当箱を差し出して、里芋の煮っころがしと肉じゃがを指さして、これがもうあのひとの作っておいてくれたものの最後だから、と言って私はしきりと勧めている。言い

          夢 -0113

          https://itunes.apple.com/jp/playlist/bells/pl.u-06oxvgAtWGY07mb

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          1123

           横になって過ごす私の上を私の話し声がさやさや流れていく。泣きながらだれかが、泣いた方がいいとだれかの涙を拭ってやるのを見る。浴槽で肩まであたたまって、私はきっかり2粒よそよそしく泣いた。  すくい上げると手のひらの上に嘘と書いてある。息を吸って開いた口を、正しい形を当てようとして色々な形に動かしてみる。私には本当の言葉がない。  振ると白けた音のするほどの思い出を、ひとつずつ伸ばして机の上に並べてみる。ピンで留めて虫眼鏡でしらじらと見る。私の字で書き直されたところが滲んで終

          1117

           私はそのとき夢を見ていた。横断歩道で向こう岸から来た、友人だったひととすれ違った。友人だったひとによく似ただれかに会いに行く夢だった。よく知ったような声で彼が話すのを聞きながら私は安らかだった。この影の中にこの先ずっとうずくまっていたいと思った。穏やかな夢だった。目が覚めて何度も反芻した。  夜になるまで誰も私に教えなかったので日もまた穏やかな日だった。私はあたたかな場所で、一日守られて過ごした。  そのときには、なにかしるしがあると思っていた。形になるほどはっきり考えてい

          しかしそれは今日ではない

          私の列車は遠くを走っている 停車するたび窓から手を伸ばして 降り続ける雨を私は瓶に受ける もうほとんど透明に薄まって 瓶の底へ 既視感のように光っては 沈んでいくものをすぐ見失ってしまう しかしそれは今日ではない 手のひらに瓶はひんやりしている 車内アナウンスが 到着時刻をまた訂正する まどろんで聞く私から 不完全な気配が次々抜き取られる 表面を削られて並べられ さらに遠く引き直されるレールの下で 磨かれかすれて読めなくなっている 遠巻きな雨音の合間に 抱擁と雷鳴が同時に爆

          しかしそれは今日ではない

          https://itunes.apple.com/jp/playlist/1030/pl.u-r2yBJPXCPKRmez8 https://itunes.apple.com/jp/playlist/1003/pl.u-r2yBJrksPKRmez8

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          雨は雪雪は花花は雹雹は礫礫は日の光

          文字盤を遮る甲虫の影に 規則的な瞬きが映っている ノックノック、 電話線が一枚の曇り空の 身じろぎを数えて正しく改行する 金星が差し込む毎朝同じ時間に 私の筆跡を 逆さまに転写したビニールに包まれて届く 最終稿の断面の 脈絡を繋ぎ合わせても 夜になると きらきらこぼれる隙間があいている ノックノック、 丸い窓はどれも 溶け出した砂糖が表面にひび割れていて 耳を澄ますと 私の名前の一層が ノイズのあいだでミミズ腫れになっている ノックノック、 萎れていく風船から うまれたばかり

          雨は雪雪は花花は雹雹は礫礫は日の光