夢 -0216

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 彼女が出て行きたがっていたことを私は知っていた。校内では文字通りすべての人々が、残らず彼女を目を眇めて見上げてはゆらゆらその手を伸ばしていた。
 5階も4階も同じように音を立てていた。氷が軋む音に似ていた。みんな悲しんでいるのだった。どの人もそれぞれ彼女について自分の話をした。私は階段を駆け下りたが彼女は私の行くところには既になかった。
 誰も彼女を押しとどめられなかった。お前たちが悪いとみんな言った。廊下の黒板に誰かの字で彼女の苦しさが書き殴られていて、そのすぐ横には別の字が別の苦しさを説明していた。それは刈り揃えられ私たちに突き付けられていたが彼女のものではなかった。
 明るい場所へと抜け出ると裏門まで雑木林が広がっていた。倒木に夏服の少女が2人並んで腰掛けて、  さんはやっと出て行けて本当によかったねと穏やかに言い合っていた。
 遠くに裸足で小さくなる彼女が見えた。しきりに泣く声がすると思ったがしゃくり上げているのは私だった。少女たちは私を見て、ぎょっとした顔で黙った。
 彼女は行ってしまって、私はとてもひとりだった。彼女が出て行きたがっていたことを私は知っていた。

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