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女子サッカーの戦術とは:日テレベレーザ対浦和レッズレディース(9月12日)<1>

先週末に開幕したWEリーグ。見に行ったからには速報だけでなく、ちゃんとレビューも書くことにした。(9.16 12:10 リンク追加)

(実は上記の速報レビューのアクセス数が驚くほど多い。まとめマガジンに取り上げてもらったおかげではあるが、同じく取り上げられたいくつかのラグビーやフロンターレのレビューよりもはるかに多い。WEリーグへの関心の高さの割に情報が少ないと言うことだろうか?)

4-1-2-3のベレーザ、流動性の高いレッズ

 まずはスタメンから。

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 ベレーザは(自分にとっては慣れ親しんだ)4-1-2-3の形。三笘薫の幼なじみの三浦成美がアンカー。

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 レッズは、観戦時は4-2-3-1だと思っていたが、4-4-2の時間の方が長かったようだ。4-2-3-1になる場合は前半は安藤梢が1トップ、塩越柚歩がトップ下に入る。ただ、栗島朱里が高めのポジションを取ることも多い。

 全般的に見て、レッズの方がポジションの流動性は高かった。フィールド写真を見直しても当惑するほどだ。写真を撮っていて気づいたのは、塩越のポジショニングの良さ。「ここにいるかな?」と思ってレンズを向けるとそこに入ってくる感じだった。

 マッチアップの形にするとこんな形になる。レッズは守備時は4-4-2ブロックを敷くものの、攻撃時のポジショニングは流動的。

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ベレーザの可変フォーメーション

 見ていて気づき、やや当惑したのが、ベレーザがビルドアップ時に3バックになっていること。多くの場合は、ボールサイドのサイドバックが高い位置を取り、反対サイドのサイドバックは最終ラインに残りながら最終ラインをスライドさせて3バックにする。

例えば下の図は右サイドバックの清水に高い位置を取らせる形。

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 そして右ウイングの遠藤と右インサイドハーフの中里とで崩していくのだが、時に3人が同じレーンに並んで攻撃が渋滞することも(12分頃)。うまく清水がハーフスペースを使って崩したこともあった(14分頃)。

 下のフィールド写真は、最終ラインのボール回しにレッズがスライドしようとするものの間に合わず、ハーフスペースでやや高いポジションを取った清水がフリーになっている。ただし、アンカーの三浦は中盤でボールを受けられるポジションにおらず、レッズの2トップと2列目の間のスペースにベレーザの選手は誰も立っていない。

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 次の写真は左サイドバックの宮川が高い位置を取り、右サイドバックの清水が最終ラインに残っているパターン。この時は三浦はボールを受けられる位置にいる。

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 サイドバックが片方だけ上がり、もう片方が残って3バックにするのは、ザッケローニ時代に男子の日本代表が行っていた形だが、最近のJリーグではサイドバックが両方とも上がるチームが多いので、こう言う形のことを忘れていて、観戦していて頭が混乱してしまった。ようやく理解できたのは帰宅してフィールド写真をじっくり見てからだ。

 フロンターレやFマリノスが代表だが、センターバックの運動能力が高い場合、両サイドバックを上げて2バックで攻めかかることができる。女子のフィジカルだと、センターバックにそこまでの負担を掛けられないと言うことだろう。

 ビルドアップ時に3バックになる形としては、ボランチが降りてきて3バックにして両サイドバックが上がる「ダウンスリー」が典型例としてはある。

 フロンターレも2019年に4-2-3-1を基本形としていたときはその形だった。ベレーザも同じ形を取ることもあった。三浦が最終ラインの右に入って、両サイドバックに高いポジションを取らせる。この時、三浦はセンターバックの間ではなく、右に入る。なので、ここからのパスの起点になるのは三浦ではなく、センターバックの土光。

 実際のフィールドでの状況がこれ。この時もレッズの2列目のスライドが間に合わず清水がフリーになっている。

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 いずれにしても、共通しているのはレッズのハイライン。そこでベレーザは最終ラインの土光であったり、三浦であったりが裏に向けてロングパスを蹴り、裏抜けを積極的に狙っていくというのが攻撃パターンだった。実際、先制点もその形で取っている。

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ロングボール?スルーパス?

 一方のレッズ。

 度々見られた形は、前線に密集地帯を作り、ロングボールを当ててセカンドボールを拾う形。

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 極端なのは下記のフィールド写真で、栗島が最終ライン前まで降りてボールをキャリー。一方前線には4人がベレーザの最終ライン付近でボールを待つ。そして栗島とその4人の間には誰もおらず、「間受け」をする形にはなっていない。

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 ゴールキックの時にも似たような形があった。

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 このパターンだと、前線に縦パスを当てて、こぼれ球を2列目の選手が前を向いて拾うという形になる。そのために意図的にスペースを作っているように思われる。

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 ただし、レッズが取った二点はこの形からではなかった。1点目は右センターバックの高橋がハーフラインを超えてボールをキャリーし、最終ラインの裏の前線のスペースに向けてスルーパスを入れ、それを安藤がクロスを上げて後半投入された菅澤が決めたもの。2点目は塩越がやはりドリブルでボールをキャリーし、最終ラインの裏に抜ける菅澤に向けてスルーパス。それからペナルティエリア内での乱戦となり塩越自身が決めたものだ。

 言うまでもなく、レッズのビルドアップはロングボール一本やりではない。上記のパターンはあくまで「時々見られた」という形だ。

 例えば下記の写真。この時は試合開始時に右サイドハーフに入っていた水谷が「ダウンスリー」の形で最終ラインに落ち、両サイドバックに高いポジションを取らせている。さらに安藤と塩越も縦関係になっていて、「間受け」を含めたつなぎでの崩しができるようなポジショニングを取っている。右サイドハーフが最終ラインに落ちていることには驚いたが。

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後半のベレーザの対応

 なお、後半になってベレーザは守備のやり方を変え、センターバックに前線の2枚がプレッシャーを掛けるようになった。

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 両チームとも最終ラインが高く、中盤の密度が高かったため、中盤で相手のパスをカットしてショートカウンター、という局面はよく見られた。この試合で入った得点の3点は、すべて相手の最終ラインの裏に抜けたことがきっかけになっている。そう考えると、いずれもが「現代風」の得点といえる。

 ただ、ベレーザの攻撃時3バックに気を取られたこともあって、レッズのポジショニングはよくわからなかった。例えば先ほどの写真を再掲してみる。

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 最終ラインのボールホルダーへのプレッシャーが高まったためか、上の写真では前線の安藤と塩越がボランチの位置にまで降りてきている。このあたり、どういう考え方なのかよくわからないので、第二節はレッズレディース戦を見に行ってみようと思っている。

 東京五輪の時、なでしこジャパンの戦術が遅れているという記事を書いた。

 ただ、このベレーザ対レッズの試合を見て、その印象は修正しなければならないようだ。このあたりをもっと考えるために、あと何試合か見に行ってみたい。というわけで第二節のレッズレディース対ノジマステラ、第三節のベレーザ対サンフレッチェレディースの試合のチケットを買ってしまった。

 あと、フロンターレと同じようにボール奪取マップも作ってみたい。週末になるかもしれないが。

(続く)

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