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田中碧1人の力の大きさ:U24日本代表対アルゼンチン代表(3月26日)<2>

 U24日本代表対アルゼンチン代表戦。第2戦が昨日行われ、日本代表が3-0で快勝した。当日の深夜書いた速報レビューでも、そのあと書いたレビューでも、田中碧がいれば変わるのではないか?と書いたが、まさに劇的に変わった試合だった。

 また、第1戦のボール奪取マップで、ボール奪取位置が後ろ過ぎることを示したが、第2戦ではハーフライン付近でのボール奪取が多く、攻撃へのトランジションが上手くいっていた。

第1戦、棒立ちの中盤

 今日は三笘薫のプレーぶりについて細かく書くつもりだったが、その前に田中碧がいたら変わる、となぜ思ったかを少し書いておこうと思う。

 この試合、アルゼンチンはディフェンスラインを高く保って、オフサイドを何回も取った。
 この写真がその一例。日本の最終ラインにボールがあるときだ。アルゼンチンはこの瞬間にさっと最終ラインを上げた。結果、日本は最低2人、もしかしたら3人がオフサイドポジションにいる。この状況では縦パスを前線に入れられない。

スライド4

 

 ここから先の3枚はアルゼンチンのブロックに対する日本の攻撃。

 例えばこの場面。ボールを持っているのは左サイドバックの旗手。近い距離にボランチ2枚が両方いるが、アルゼンチンのディフェンダーは4人で見ている。
 しかも立ち位置を見ると、三笘へのパスも右サイドバックへのパスも両方とも出しにくい位置に立っている。前にいる方のボランチは動きを見せているが、奥の選手は棒立ち。これではパスコースは作れない。

スライド3


 次はこれ。ボールを持っているのは左センターバックに入っている板倉。このタイミングで三笘がサイドバックを引き連れてハーフスペースに移動、旗手の前にスペースを作る。
 しかし、旗手を見ているアルゼンチンの右サイドハーフの位置取りがよく、板倉は旗手にもボールを付けにくい。パスは通るだろうがタイトにマークされるのは目に見えている。一方、ボランチ2枚にもマークがついていて、パスは出せない。
 問題はこの2枚のボランチの動き。漫然と走っているだけで、ボールを引き出す動きになっていない。手前にいる方のボランチが左方向にスプリントすれば、旗手を見ているアルゼンチンの右サイドハーフも反応せざるを得ず、パスコースが空くのに。

スライド2


 最後にこの場面。ボールを持っているのは右サイドバックの菅原。しかしパスの出しどころがない。
 ただし、スペースがないわけではない。中盤にボックス上に並ぶアルゼンチンの選手の真ん中に広大なスペースがある。なのにそこに走りこんでくる動きが全くない。

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 田中碧がいれば、例えばこの四辺形のスペースには必ず入ってきて、ワンタッチでボールを散らし、ブロックをずらしにかかる。そうなれば、中盤かサイドかのどちらかにスペースが確実にできる。

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 普段フロンターレの試合で見慣れているその動きを誰もしてこなかったので、「田中碧がいれば変わる」と思ったのだ。

 第2戦で日本の攻撃が全く見違えるようになったのは、田中碧がそういう動きをしてアルゼンチンのブロックを揺さぶったと言うのが大きい。中盤1人の力でそこまで変わるとは・・・・。と思った2試合だった。

著しく少ない三笘のボールタッチ

 さて、三笘薫。

 まずは数字から見てみよう。

 パスの出元が識別できなかったので、フロンターレの試合と違って「誰からパスをもらったか」は見ていない。

 と言うわけでまずはプレー選択。

 いつものように、敵陣でボールを受けたときのプレー選択をドリブル、パス、シュートに分ける。ここでいうドリブルは、3歩以上ボールを持って移動した時のこと。なので一般的なスタッツで見るドリブルよりは数が多い。

 ドリブル:8(47%、90分換算10.9)
 パス:9(53%、90分換算12.3)
 シュート:0

 集計を取った昨年7試合の比率が37:56:7。90分あたりに直すと19.9、30.1、3.8。それと比べるとシュートがないこと、パスが少ないこと、そもそもボールタッチそのものが少ないことが歴然としている。ボールタッチは合計で90分換算23.1。昨年集計した中で一番少なかったサガン戦(1-1の引き分け)が32、2番目に少なかったアントラーズ戦(1-1の引き分け)が33だから、3分の2にとどまる数字だ。

 プレー選択を見ても、パスの絶対数は90分換算でわずか4割と著しく少ない。これは周辺の選手との距離が違うことが大きいだろう。

 フォーメーションの違い(フロンターレの4-1-2-3だと2列目までに5人いるがU24日本代表の4-2-3-1だと2列目までに4人しかいない)のため、周辺の選手との距離が違ってしまっていることは一因だろうが、上のフィールド写真で見たように、中盤の選手の動きが少なく、動きながらショートパスを交換して相手を崩していく、と言ういつものフロンターレの動きができなかったことが大きい。このあたり、田中碧不在の影響をまともに受けたと言える。

 三笘がドリブルをしてもすぐに2人、3人でマークされ、大きな突破がほとんどできなかった原因はこのあたりにある。

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三笘のドリブルは「成功しなかった」のか?

 ドリブルの成功率も去年と同様に見てみよう。

 大成功がシュート・シュートにつながるクロス・CKないしファール、成功が味方へのパス、失敗がボールロストだ。カウントしたのは敵陣のみだから、自陣で失った2分のボールロストは含まれていない。
 大成功:1回
 成功:6回
 失敗:1回

 こうしてみると、「三笘が通用しなかった」という一般的な評価(感想)は正しくなかったと言える。やはり三笘がボールをキープして時間を作っても、周りの動きがついてこなかったためにそれを生かせなかった、と考えるべきだろう。

 明日は海外とのビデオ会議があって朝4時に起きなければならないので今日はこれくらいにしておくが、次回、写真を交えながら、周囲の連携についてもう少し分析してみようと思う。


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