見出し画像

本の紹介をしてる本3冊

noteを長期間放置している間に椎間板ヘルニアになってしまい(人生で2度目)かなり不自由な生活を強いられているが読書をするにはいい機会にはなっている。そんな中でも本でありながら他の本を紹介するような本(かといって単純なガイド本ではない)を立て続けに読んでいたのでその3冊について書いてみる。

画像1

・アウトサイダー(上) / コリン・ウィルソン(中公文庫)

今年の初め頃ブックオフで購入。H.Gウェルズ、ヘミングウェイ、ヘッセ、ニーチェ、ゴッホ、アラビアのロレンス、ニジンスキーらの遺した作品や人生を考察しながらアウトサイダーの定義や問題点を炙り出していく処女作であり代表作でもある。序盤読み進めている時点ではその難解な内容と先に挙げたような人物の作品や文学、哲学、芸術、宗教などの全般的な前知識がほとんどなかったので挫折しそうになったがなんとか時間をかけて読了。結果的に今まで触れてこなかった前述のアウトサイダーたちの作品や人生について惹かれる部分が増えてもっと多くのことを知りたいという欲求が生まれた。とりわけロシアのバレエダンサー、ニジンスキーの数奇な人生や非業な最後は強烈に印象に残った。もっと若いころに読めばよかった。アウトサイダーと呼ばれる彼らのことをただ単に社会と折り合いがつけられない不適合者、サイコパス、やべー奴、と切り捨てることは簡単だが、彼らの遺した魅力的な作品や生き様は今も昔も未来も光を見出せない苦境に陥った人たちの心を動かし続けるだろうし魂の救済となる場合もあるだろう。むしろ昨今うんざりするほど存在する自分のことを善良な一般市民だと信じて疑わないインサイダーたち(ヤフコメ民とか)の無知で無自覚な狂暴性や攻撃性の方が自分は怖いし心底軽蔑してしまう。下巻は手元にすらないがいつか手に入れたい。


画像2

・ミステリの原稿は夜中に徹夜で書こう / 植草甚一(早川書房)

春ごろに開催されてた金港堂古本市で入手。ミステリマガジンなどに寄稿されたエッセイや書評、実際に行われた探偵小説に関する講義の模様などをまとめた本。圧倒的だが嫌味を感じない知識量と粋で軽妙な文体は読んでいて楽しい。とりわけニューヨーク滞在中の出来事について書かれたエッセイはどれも面白く本屋に行きたくなるし大量に本を買いすぎて運搬方法や郵送方法を思案したり苦慮したりする様子を想像するだけで楽しい。また映画化する前の「ジョーズ」の原作がアメリカ中で話題になっている様子なんかも書かれていて興味深い。所謂渋谷系文化みたいなものが幅を利かせていた90年代半ばから後半にかけて植草甚一の再評価や復刊などは積極的にされていたと記憶しているが、サブスクや物を持たないミニマリズム、断捨離などという概念が持て囃さる現在の社会ではひたすら趣味と蒐集に費やした彼の人生はどう捉えられるのだろうか。実はまだ読んでる途中です。


画像3

・本の本 / 絵:寺田順三  文:横山犬男(ワールドコム)

レコードや本なんかを買う時に参考にしている痺れるような審美眼を持つ方のインスタグラムで紹介されていたので購入した。様々なミュージシャンや楽曲のエピソードから着想を得た架空の絵本を30冊紹介している文字通り本の本。イラスト担当の寺田順三氏がよく通っている大阪のレコード屋の店主横山犬男氏によって書かれたレコードやCDのコメントや紹介文に寺田氏が惚れ込んで横山氏にあらすじを依頼したというこの本の成り立ちからして素敵じゃないか。60'sティーンガレーヂシーンについて書かれた「誰がキースか?」とブリンズリー・シュワルツの紆余曲折を絶妙に捉えた「ゆるぎない心」などが個人的に慣れ親しんで聴いてきた音楽だけあって印象に残ったが、30冊に30通りの素敵な物語と表紙があるので音楽の前知識がなくてもじんわりと心に染み渡るはず。またこの30冊の着想の元になったミュージシャンや楽曲についての解説もついているので優れたディスクガイド的側面も持ち合わせる完璧な本の中の本だ。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?