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量子力学で生命の起源は解明できるのか

何百年も前から科学者や哲学者や神学者は生命の起源について深く考察してきた。神による創造説から宇宙から地球へ種が撒かれたという説まで、ありとあらゆる理論を考え出してきた。

宇宙は、原子核以下のイオン化したプラズマ状態にあったとされる時点から大爆発(ビッグバン)が起こって膨張してできたという説に基づくならば、宇宙から撒かれたというよりも、膨張していく過程で生命の起源となる種が生じたと考えられうる。

科学的にもっと厳密な研究は19世紀の科学者によって始められ、なかでもチャールズ・ダーウィンは、「温かい小さな池」のなかで起きた物質の誕生につながったのではないかと提唱した。

このダーウィンの推測に基づい て 組み立て られ た 正式 な 科学 理論 は、 二 〇 世紀 初頭 に ロシア 人 の アレキサンダー・オパーリン と イギリス 人 の J・B・S・ホールデンによって独自に提唱され、いまではオパーリン=ホールデン仮説と呼ばれている。

この説によれば、初期の地球の大気 には 水素 や メタン や 水蒸気 が 豊富 に 含ま れ て おり、 それ に 稲妻 や 太陽 放射 や 火山 の 熱 が 作用 し て 単純 な 有機化合物 の 混合物 が生成 し た と いう。 そして それら の 化合物 が 原始 の 海 に 蓄積 し、 温かく 希薄 な 有機化合物 の スープ が 何 百万 年 も 水中 を 漂っ た 末 に、 イスアの泥火山にような場所の上に流れてきた。さらに偶然にもそれらの化合物が結合し、やがて、自己複製能力という並外れた性質を持つ新たな分子ができたのだという。

ジム・アル=カリーリ; ジョンジョー・マクファデン. 量子力学で生命の謎を解く (p.307). SBクリエイティブ株式会社. Kindle 版.

その後、この複製体はダーウィン的な自然選択の洗礼を受けたと思われる。しかし、この仮説の検証は何十年ものあいだ行われなかった。二人のアメリカ化学者が興味を持つまでは。

その二人とは、ハロルド・ユーリーとその弟子であるスタンリー・ミラーである。ミラーはユーリーの支援のもとで実験を行った。

ミラーは、初期の地球で生命が誕生したときの条件を再現するために、瓶のなかに海の代わりとして水を入れ、その上に、原始大気のなかに存在していたと考える気体、メタン、水素、アンモニア、水蒸気を入れた。そして稲妻の代わりに、この混合物のなかで電気スパークを発生させた。

すると、この条件のなかでスパークを1週間発生させただけで、瓶のなかにたんぱく質の構成部品であるアミノ酸がかなりの量生成することが分かった。

これが、実験室で生命を作り出すための第一歩として称賛を浴び、いまでも生物学上の画期的な成果とされている。

しかし半世紀以上経ったいまでも、実験室で作られた原始のスープからオパーリンとホールデンのいう原始の複整体が生成したことは一度もない。

ミラーの実験には問題があった。第一の問題は、生成した有機物資の大部分は、均一でないタール状だったことであった。

そして、この「ねばねば」を出発原料にして組織化された生命を作ろうとする上で問題となるのは、原始地球で利用することができた熱力学的なランダムな力、つまり分子運動では、秩序が作られるのではなく逆に破壊されてしまうことだ。

ビッグバンという名前を考え出したイギリス人天文学者のフレッド・ホイル卿は、今日知られているような細胞性生物はあまりにも複雑であまりにも組織化されているため、偶然で誕生したはずはなく、それ以前にもっと単純な自己複製体が存在していたに違いないと指摘した。

自己複製体を推測するには、現在生きているもっとも単純な生命形態からさかのぼって考え、それよりはるかに単純な自己複製体をイメージすればいい。

問題点としては、細胞のどの部品もそれ単独では自己複製できないことにある。

細胞でできている今日の複雑な生命から、もっとずっと単純な、細胞でない祖先へさかのぼろうとすると、それが問題になってくる。別の言い方をすれば次のようになる。

DNAの遺伝子、RNA、酵素のうち、最初に誕生したのはどれなのか?もしDNAやRNAが最初だったとしたら、それは何によって作られるのか?もし酵素だったとしたら、それはどうやってコード化されていたのか?

これに対する答えの一つとして、アメリカ人生化学者のトーマス・チェックによって示された。1982年にチェックは、遺伝情報をコードするだけでなく、反応を触媒する酵素としても作用するRNA分子(リボザイム)を発見した。

リボザイムによれば、原始の化学合成によって、遺伝子と酵素の両方として作用するRNA分子の世代が幕を開け、そのRNA 分子はDNAのように自身の構造をコードするとともに、原始のスープから得られる生体物質を使って酵素のように自身の複製を作っていたという。

はじめのうちは当たり外れが多かったが、時間が経つにつれ、たんぱく質を使って複製効率を高めるようになり、やがてDNAが生成して最終的には最初の細胞ができたのだという。

しかし、このシナリオにも問題点がある。リボザイムは単純な生化学反応なら触媒できるかもしれないが、リボザイム自身の自己複製はもっとはるかに複雑なプロセスとなる。このような複雑な作業をおこなうことのできるリボザイムは、発見されていないし、合成にも成功していない。

しかし、スコットランド人化学者グレアム・ケアンズ=スミスは、極めて複雑な一連の作業によって、単純な化学物質からRNA塩基を合成することができるという。

もちろん化学者なら、各ステップを慎重に制御することでこのとてつもなく小さな確率を引上げることができるが、生物誕生以前の世界では偶然に頼るしかない。その確率は、6の140乗分の1となるので、偶然任せにすることはできない。

ようするに、生化学的なアプローチでは、生命の起源を追求するのは極めて困難ということだ。

現代ではテクノロージーのおかげで、コピー機から電子コンピュータや3Dプリンターまで、何かを複製できる機械が多数ある。これをヒントにすることが可能だ。

扱いづらい化学物質を、デジタル世界の、1と0のいずれの値しかとれないビットに置換えてみる。バイトは、遺伝子コードの単位であるDNAやRNAの塩基に相当すると見なすことができる。

コンピュータウィルスと称しているものは、比較的短いコンピュータプログラムで、コンピュータに感染してCPUに大量に複製を作らせる。

したがって、コンピュータメモリーをいわばデジタルの原始スープとみなせば、コンピュータウィルスはデジタル版の原始の自己複製体と考えることができる。

デジタル世界を見ると、生命の起源を探求する上で直面する問題がはっきりする。生命の起源とは自然界のサーチエンジンを使って必要な材料を集め、それを正しい配置に並べて自己複製体を作るということだ。

すると、以前の記事(下記に添付)にも描いたように、植物や微生物には量子コンピュータが実装されているわけだから、量子探索を実行して、自己複製したということになる。

これは推測に違いないが、光合成では光子のエネルギーは、量子ランダムウォークによって、反応中心へ運ばれることが検証されているわけだから、生命の起源のシナリオも、すでに検証済のことの拡張したものにすぎないと言える。

量子コンピュータの性能が格段に上がれば、生命の起源も明らかとなると思われます。

引用図書:ジム・アル=カリーリ ジョンジョー・マクファデン.『量子力学で生命の謎を解く』


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