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みかん農家生活してた6日間の日記が意外とちゃんとレポートしてて面白いので

ホストのお手伝いをする代わりに、滞在場所と食事を提供してもらえる『WWOOF(ウーフ)』というサービスがある。

大学3回生の春、2年前のちょうど今頃。
"時間だけはあるからなんかしらの経験したいよな"という、ふわっふわな動機で、私と友人Aはウーファーとなり、和歌山県は海南市のみかん農家さん宅へ転がり込んだ。

先日、せっかくなのでなにか残しておこうとその頃毎晩書いていた日記を見返す機会があった。それが意外に面白かったので、今現在の考察を加えてここへ記録してみる。
※個人名は伏せました

WWOOF日記

3月7日(月)

11時ごろ海南駅到着。既にホストが待っていてくれた。頻繁にウーファーを受け入れているとのことだったが、車の中では口数少なく、お互い探り探り。外は古民家のようで、中はオール電化にリフォームされた大きな素敵なお家に到着。玄関から気さくでお喋りな奥さんが出迎えてくれた。なるほど、きっと奥さんがこの感じだからココの受け入れは成り立ってるんだなぁとなんとなく感じた。ほぼ全てオーガニックの健康的なお昼ご飯も作って待っててくれた。炊き込みご飯にお味噌汁にサラダに魚と野菜の炒め物に厚揚げと、一番好きな食事スタイル。今日は作業はなく、お昼を食べてからは周辺を散策。農協の施設を改装したおしゃれカフェを見つけ、田舎でのカフェ営業はどのようにして成り立ってるのか気になったりした。そこは和歌山市内からわざわざ若者がやってくるほどのカフェだった。会議室のような椅子とテーブルが使われていて、やっぱり近頃の若者は再利用や古いもの(又はそれと新しいものの融合)に惹かれるのだと改めて感じた。ホストのお二人との会話はまだご飯の間くらい。なんだか思考や軸は固そうな感じだということは分かる。心から打ち解けるにはもう少し時間が必要そう。友人Aと2人というのが心の余白を作ってくれている気がする。友達と来れてよかった。明日からはいよいよ作業。7:30には作業開始。22:30には寝よう。

3月8日(火)

6時起床。6:45朝食。7:30みかん(ハルミ)の収穫作業開始。みかんの収穫は大きく分けて2つの方法があるらしい。収穫時期まで木に実をつけたまま置いておくか、早めに収穫して倉庫で完熟させるか。前者は、みかんに酸味がなくなり、さらに糖度を上げる効果がある。しかし、鳥に実をつつかれダメになってしまう可能性が大。後者は、早く収穫するために、鳥からつつかれる数を抑えることができる。また、みかんの酸味を下げる効果もある。しかし、前者のように糖度は上がるわけではなく、収穫時点で止まってしまう。甘みを追求するか、鳥害を避けるか、究極の選択。奥が深い。そのあとは選別作業。これからみかんを買うときは目が光りそう。午後からは山へ行き、じゃがいも畑周りの柵に網を張る作業とじゃがいもを植える作業をした。風は冷たかったが天気が良くて動いていると暑いくらいだった。帰宅後早めにお風呂に入り、珈琲とお菓子を嗜みながら夕飯の時間を待つ間、日記を書いている。筋肉痛の気配に身構えながら、明日の作業のためにゆっくりと体を休めようと思う。
“With money you can by a clock, but not time. With money you can buy insurance, but not safety. There’re things that you can not buy. We all have.”

3月9日(水)

昨日と同じく6時起床。朝食は、手作り食パンに手作りみかんジャムをつけて。みかんをそのまんまつけてるみたいで美味しかったぁ…。今日の作業は、みかんの木の周りに複数の小さな穴を掘って、水や空気の巡りを良くすることで、大地に呼吸を促す作業。びっしりと生えた雑草は、邪魔ものではなく、自然栽培をするには逆に必要な存在だという。肥料を撒かない自然栽培では、雑草があることで増える微生物や菌によって栄養を補う必要があるからだそう。雑草は栄養分を吸ってしまって邪魔なものだとばかり思っていたけど、肥料を撒く栽培方法と自然栽培とでは全く違った役割を持つということを初めて知って、自然栽培の奥深さ、面白さを知った。午後からは枯れ枝を切る作業をした。しんど〜ってついつい声が出そうな作業もあるけれど、まだ見ぬみかんが、まだ見ぬ誰かの手元に届き、まだ見ぬ誰かが笑顔になる、そんな工程の一部に関わることができていると考えると、しんどい作業にも意味を感じられる。誰かの笑顔のために生きられる人間になりたいと改めて思う。作業を終えて帰ると、奥さんが丸絞りみかんジュースを作って待っていてくれて、最高のご褒美だった。明日は1日お休み。和歌山市内へ遊びに行こうかと計画中。朝はいつもよりもう少しゆっくり寝られそうだ。

3月10日(木)

今日は一日お休み。奥さんが教えてくれた『たま電車』に乗るために和歌山市へ。たま電車とは、ネコの駅長"たま"をモデルにした電車。和歌山駅から、現在は二代目"ニタマ"が駅長を務める貴志駅の間(貴志川線)を運行している。車体には猫耳がついていて、中は沢山の"たま"のイラストや写真、たまグッズのショーケース、豪華なソファを模した座席など、細部までとても手の込んだつくりをしている。猫好きじゃなくとも、ましてや猫アレルギーの私でも、充分に楽しめる車両だった。1日乗車券(¥800)を購入しておいたので、貴志駅からの帰りはいくつか途中下車することにした。まずは『いちご電車』に乗って伊太祈曽駅へ。白と赤のボディにいちごのイラストが散りばめられ、いちご柄の座席がなんとも可愛い車両だった。伊太祈曽駅に到着してからは、たった¥100(4時間まで)のレンタサイクルをし、駅から自転車で約1分の伊太祈曽神社を参拝。その後、近くにある古民家カフェでクリームジュースという名の、ミックスジュースにアイスクリームが乗った、いわばミックスジュースフロートのようなものをいただいた。次に、また仕様の違う『たま電車』に乗り、竈山駅へ。駅から徒歩10分ほどの所にある竈山神社に向かった。竈山神社は国家安泰、世界の平和と発展を守っている神社だそうで、現在の世界情勢の中、このタイミングでこの神社に巡り合ったことになにか必然性のようなものを感じたので、しっかりと世界平和を祈願してきた。最後に日前宮へも行きたかったのだが、残念ながら17時を過ぎていたために閉門していた。最後は和歌山駅で寿司と共に和歌山ラーメンを食べて締め。そんなこんなで、のんびりと有意義で平和な休日を過ごすことができた。また明日からの作業に備え、今日も早めに布団に入ろうと思う。
ps たま電車は貴志駅に行くのが目的というよりも乗ること自体が目的で、なるほどそういう集客の仕方もあるのかと思った。

3月11日(金)

昨日の休日を経て今日からまた作業再開。今日はひたすら枯れ枝の剪定。地道な作業で時間が経つのが少しゆっくりに感じる。ただ気づきもあった。生産者がこうして手間をかけて育ててくれないと私たちは買うことも食べることもできないんだと。でも逆に買って食べてくれる人がいないと生産者の生活も成り立たないわけで。世の経済は上手くできてるなぁと実感した。そしてこんなふうに毎日コツコツ時間や労力をかけて育ててくれていることを知り、普段の食事により感謝をしなければならないと改心した。また農業に関わらず、世の中の仕事は、実際にサービスを受けたりモノを買ったりする人々に直接関わることのない仕事がほとんどで、つまり成果や反応がすぐ目に見えない仕事で、モチベーションを維持することは大変なんだなと思った。実際、こうしてすぐに実がなるわけでも、すぐにお客さんの反応が見えるわけでもない地道な農作業をやってみて、自分は間近で反応が返ってくる仕事の方が常にやり甲斐を感じることができ、なによりも、自分が楽しんでやれるんだと改めて思った。がっつり縁の下の力持ち的性格だと思っていたけど、実は前に出ることも苦手じゃないのかもしれないと最近なんとなく感じている。

3月12日(土)

明日の10時ごろには出発するため、今日は午前中の作業でお手伝い終了。これまでの作業のほとんどは山の斜面にあるみかん農園での作業で、斜面を登り降りする必要があって、その都度自分達の体力のなさを痛感した(笑)午後からは、奥さんが"お土産に"とみかんジャムを一緒に作らせてくれた。ジャム作りは気を抜くと焦げてしまうので、目が離せない手のかかる料理なんだということを学んだ。その後は奥さんの"散歩でも行ってくる?"のひと声で、海まで出かけることにした。天気も抜群に良く、透き通った青い海が目の前に広がる防波堤に座って大きく深呼吸したり、海の音を聞いたりと、自然のリラクゼーションを味わった。そして近くのコーヒーショップ(アウルキャビン)へと向かった。入ってみると大瀧詠一やはっぴいえんど、ビートルズなどのレコードジャケットがびっしり飾ってあり、それを見た瞬間からこの店の虜になった。友人Aに夢中になって大瀧詠一などの話しをしていたら、店主さんが"知ってるの?笑"と話しかけてくれて、ならばと山下達郎のレコードまでかけてくれた。店中が大きなスピーカーから出るシティポップに包まれてもう最高だった。帰り際、自分のお土産にと珈琲豆を注文した。豆は注文を受けてから焙煎してくれるということなので、20分ほど香ばしい香りに包まれながら待った。焙煎が終わり、受け取ってお金を払って帰ろうとすると、"じゃあ、はっぴいえんど割引ね"と言って100円ずつまけてくれた。なんて粋なんや。もっと音楽を勉強してまた必ず来ようと思った。そして店を出て、赤々と光る夕日を背にステイ先へ向かった。WWOOF締めくくりの日にはもってこいの時間だった。奥さんのあのひと声のおかげや。


2024年3月時点の考察

3月7日について

誰かに見せることはないだろうと思っていたのか、あまりにも正直な1日目。そして、カフェの描写。この頃から、漠然としながらも自分でなにか場づくりなるものをしたいという意志があったようで、常に物事を参考にしている目線が見てとれる。この時から既に、周りと同じような就活という道を逸れ、自分でなにかを切り開こうとしていたらしい。

3月8日について

自分には興味がないと思っていることでも、やってみたらそれなりに興味を持ってしまって、どうせならそれなりの知識・経験を身につけたいという私の性がすごく発揮されている2日目。みかんの栽培には興味がない、というかこれまで通りなんの挑戦もなしに生きていたら、そもそも視野に入ることがなかったであろうこと。だけど、こんな意図しない巡りあわせに乗っかった結果、思いもしなかった知識・経験が手に入る。興味があるかもと思ってみたりする。この感覚は今でも面白いし大好き。だからいつまでも自分の手足で挑戦し、自分の目で全てを見たい。ところで、急な英文には笑った。

3月9日について

得た知識や経験をそのままにしておくのではなく、自分の人生や日常に置いてみて共通点や共感点を見つけるという、これまた私の性が滲み出ている3日目。みかん栽培に関する知識を色々吸収して記録しているが、正直その知識を丸々人生に生かそうと考えているかと言えばそうではないはず。この経験を通して、自分の人生に生かせそうな知識や考え方をつまみ取ったり、かみ砕いて飲み込んだりしている。実際、読み返してみた時、ここに書いてあるみかん栽培に関する知識はほぼすべて忘れていてびっくりしているが、この経験からつまみ取った、”誰かの笑顔のために生きられる人間になりたい”という想いは、今もまだ残り続けている。

3月10日について

いちいち全部書いてくれてるおかげで、めちゃくちゃ思い出せる4日目。でも何回読み返しても、”いわばミックスジュースフロートのようなもの”がひっかかってしゃーない。クリームジュースももちろんパッと思い浮かばんけど、ミックスジュースフロートもピンとこーへんって。あんま聞いたことない。周知のヤツみたいに書いてるけど…と思ったけど、え、周知のヤツ?自分に馴染みないだけ?そんなことより、その時の世界情勢、悲しいことに、悔しいことに、まだ続いてるよ。

3月11日について

視野をみかん農園から社会に広げて、客観的に見ようとして、その考察の結果を自分に落とし込もうとしている5日目。今でも、すぐに反応が返ってくることにやりがいを感じるのには変わりはないが、それが別に前に出ることに限ったことではないと最近は思う。観客からの反応を直接受け取れるコート内のレギュラーメンバーでなくとも、そのレギュラーメンバーを支え、彼らからの反応を受け取ることができるマネージャー的立ち位置でも、同じようにやりがいを感じられるのではないかと。チーム内の環境が良くなれば、おのずとそれぞれのプレーも輝きを増し、その結果スタンディングオベーションをいただけるという連鎖。その根元の役割に立つことには、もはやもっと大きなやりがいを感じられるかもしれない。

3月12日について

どこに行っても海と音楽を求めてしまう6日目。私と友人A以外誰もいない、陽が傾き始めたあの港。進む方向に叩く石橋はなく、思いのままに散策したあの時間。今思い出しても、良い意味でため息が出る。時間だけはあったあの頃。こんなことしながら生活できたらええなと真剣に思った6日間。


・・・

できてる。形が崩れたり変わったりしながらも、筋は通っている。どころか、進んでる。だから、より一層もがいている。

"時間だけはあるからなんかしらの経験したいよな"という、ふわっふわな動機で進めたあの一歩。意図せず今に、宮津にいることに向かっていたのかも。ってすぐそういう風に考えて、考えるようにして、人生を面白がる。

てことは、まだまだ面白くなるな、私の人生。

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