ご報告

 犬・思い出各位、並びに僕へ。
 ご報告いたします。
 私事で恐縮ですが、この度、僕は僕自身の挑戦を完遂することができました。
 これもひとえに日頃から応援してくださっていた僕自身の心意気のお陰だと考えております。
 前回の記事に書いた通り、僕は今夏に『ドッグフードを食べる』という挑戦をいたしました。その挑戦は、前回の記事を書いた時点で実行済みであり、文中でも『成功』という形で締め括らせていただきました。しかし実は、その直後より『ドッグフードを全て食べ尽くすこと』という新たな挑戦が僕の中で実行されており、この度、それを完遂した運びとなりました。
 僕自身、まだまだ未熟な生命体ではございますが、これからも探究心を忘れず生きていく所存です。つきましては、今後とも精進のほど宜しくお願いいたします。

 重要なご報告は以上です。


 ここからは、これを読んでいるあなたへ報告します。

 できるだけ気取らずに書きますね。少し長くなるかと思います。もし読んでいただけるのであれば、心と時間に余裕があるタイミングで読んでいただけると嬉しいです。読まなくても問題はないです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 改めて、僕の記事を読んでいるあなたへ。

 私事パート2で恐縮だが、前回の記事に対して温かい反応をいただいた。すごく嬉しい。僕は今、どや顔でこの記事を書いている。始めの茶番『ご報告』も僕の本心ではあるが、それよりも、僕の記事を読んだ相手へ感謝の念を送りたい。その『相手』には、これを読んでいるあなたも該当している。

 見逃せない情報ばかりが行き交う昨今、こうして自分が書いた文章に目を通していただけるのは本当にありがたい。この楽しさが伝わっていれば幸いだとも思う、しかし僕の文章は拙い。

 前回の投稿についても、初投稿とはいえ慎重になるべきところを、ややこしいタイトルに小綺麗な導入、ドッグフードを食べたという暴露の後にキャットフードの話をちらつかせて終わった。ふざけたことをしておきながら、途中で謙虚さを演出し、全生物から許されようとしていた文章だった。あの記事が、誰かを嫌な気にさせるかもしれないことは確かだった。犬が好きな誰かやドッグフードを作る誰か、食事マナーに詳しい誰かや約束事に厳しい誰か。僕が知らない誰かを傷つける可能性があった。

 それなのに、現段階で僕に届いている反応は温かい反応だけ。これがどんなに嬉しいか、お分かりいただけるだろうか。そして今、これを読んでいる誰かがいるかもしれないということが、どれだけわくわくすることか。

 僕が書いた文章で誰かを、もしくは、あなたを、少しだけ引き留めていられたのなら、僕は『してやったり』である。本当に、読んでくれてありがとう。これからも僕は文章を書くと思う。


 報告は以上。

 さて、今のあなたは物足りなさを感じているだろうか。それとも、いい加減に目を休ませたくなっているだろうか。どちらにせよ、この後を読むのはあなたの自由だ。


 僕は調子がいいから、まだ続けることにする。

 ここからは、今回の挑戦についての感想を残しておこう。

 念のため伝えておくが、この文章の全てを読む必要はない。もし、あなたが意地になってこれを読みきった後、とてつもない疲れを感じたとしても僕には関係ない。もう読み飛ばしてもらっても構わない。忠告はした。


 では、始めよう。夜風に吹かれた夏、一瞬で過ぎた秋、そして冷えつつある冬……とドッグフードを食べる僕、の話だ。

 まずは夏。僕は、例年より日に当たらなかったと思う。目に見えるような日焼けをしなかった。ほぼ毎日、窓を開けては換気できているのかいないのか曖昧なまま過ごしていた。今夏の僕は窓を開けて眠るのが趣味、と言っても過言ではなかった。

 暑さのせいで眠れない夜、酒に溺れながら1粒ずつ食べるドッグフードは、いいつまみだった。辛口の日本酒を呑んでいた僕は、その中でも歯磨きの役割を果たす粒の味がお気に入りだった。

 そして秋。今秋は、いっ時の気の迷いのような感覚で過ごした。体感で言えば2日だけ秋だった、といった具合だろうか。「今日なんか違うね、イメチェン?」と僕が秋に対して思ってしまったから、きっと秋は嫌気がさしたのだろう。今夏は引き延ばされ続けていたし、かたや僕は10月半ばまでタンクトップに短パンで眠る生活をしていた。秋が意気消沈するのも分かる。それから、これは僕の惰性だが、僕は今でも接触冷感の布団カバーを敷いたままにしている。

 読書の秋。普段から本を読むわけでもない僕が、本を読んだ秋だった。読んだのは、過去の僕が読書感想文を書くために選んだ本だった。きっと有名な、犬と約束を交わした少女の物語だ。それを久しぶりに読み返しながら、僕はドッグフードを食べた。当時の僕は、読書感想文と言われると、顔をしかめながら図書室の本を物色するガキだった。しかし、この本は買ってもらったのだ。きっと当時の僕は相当、犬に惹かれていたのだろう……と、その本を読んでいて思った。再び近所にいた犬のことを思い返したり、ドッグフードを鷲掴みで一気食いしたりした。この辺りで、僕はドッグフードの味変について考え始める。

 そして、訣別の時となる冬。ついにパッケージ袋の中身が空になった。タッパーに詰めている分で最後だという時に、ふと僕は、後悔したくないと思った。そう、ドッグフードを牛乳に浸して食べてみたくなったのだ。この数ヶ月でドッグフードの味に慣れた僕は、その味に飽き始めていたのかもしれない。最後なのに何もしないのは勿体ないようにも思えた。だから僕は、タッパーに入れた全てをお椀に移し入れた。ワン!だけに、お椀……ガハハ。

 いよいよ食べる時だった。これで最後、お別れだ。人生で初めて味わう『牛乳浸しドッグフード』だった。その味はというと……何も変わらなかった。変わらないおいしさだったのだ。そもそも練り固められている物だからか、その粒が牛乳を吸うことはないようだった。少々ふやけていたが、硬さは健在。もう少し時間を置けば柔らかくなっていたのかもしれない。『カリカリ』じゃないドッグフードは味が違うのかな、などと考えてしまった。僕は、別の形状のドッグフードに気を取られていた。あれこれ考えながら最後の粒を食べ干し、一息つく。急いでいたわけではないが、食べきる時を待っていたような気がしていた。その達成感と虚無感は、良くも悪くも僕が人間だという証だ。二度と食べるべきではないというのに、僕は少しドッグフードが恋しく思えた。

 そして、僕は今、この記事を書いている。


 満足いただけただろうか。もう僕は書き尽くしてしまった気がしている。僕はドッグフードと訣別したのだ。ありがとう、そしてさようなら、ドッグフード……。

 この文章を読んで、あなたがどう思ったかは、今の僕には分からない。しかし、読んでいただけているのなら、それは本当に嬉しい。あなたにとって、この話は面白かっただろうか、楽しんでいただけただろうか。あなたを少しでも笑わせられたのなら、それも幸いだ。

 思っていた以上に長くなってしまった。この後は、十分に目を休ませることをお勧めする。


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