ほんやのほ

東京メトロ日比谷線小伝馬町駅から3分のビルの中にある本屋です。https://books-ho.tokyo

あやとり——『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(小津夜景、東京四季出版)から

あやとりについて真剣に考えたことなんてまるでなかったのだが、一度思い出すと、それはなにか代えがたく、なつかしい情景のように感じられてならない。
〈しかしそれにもまして極上なのは、あやとりではつくったものを必ずこわしてしまうこと。この途方もなく純粋な無所有性〉
 ひも一本あればできる遊び。ひも、あるいは糸は境界をつくり、危うさも感じぬうちに壊される。そういうものに惹かれる心情がどこかにあるらしいと、

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小説「小さな本屋の下にある大きな金庫」

それは僕だって金庫として生まれたからには、スイスの銀行にでも設置されて出所不明な大金を保管したり、イギリスの貴族のお屋敷にでも設置されて伝説の剣や呪われた宝石を眠らせたりしたかった。でも、そんな大役を任される金庫は、世界でほんの一握りだ。
 ちいさい頃は壮大な夢を抱いたけれど、いざ工場を出るときにはもう少し現実的になっていた僕は、とりあえずホテルは嫌だ、と思った。日本にいる限り、よほど高級志向のと

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散る あまい枝とおくなり ノイズ 明日祈り 泣く音絶え 今ある地
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うす灰色——『きらきらいし』(古溝真一郎、七月堂)から

詩のことはぜんぜん分からない。分からないので身構えてしまう。でもその緊張がふと解けてしまう、ふしぎなタイミングが訪れることがある。
訪問客のない夕方、一冊の詩集を持ってホットカーペットの上に座った。表紙にはやさしい絵、それは詩人の娘が描いたものだときいていた。
書かれた言葉のあいだにある余白に、過去が呼び寄せられてくる。六歳まで住んでいたマンションは、うすい灰色の床。廊下の本棚には、たぶん『おたん

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となり——『みぎわに立って』(田尻久子、里山社)から

熊本には行ったことがない。熊本のことは、いくつかのありふれたキーワードでしか知らない。そもそも九州地方に行ったことがない。九州のいずれの土地も踏んだことがない。
 それだというのに、わたしは橙書店の中にいるように読んだ。地震のときの暗い道に、ミントシロップのべたべたの上に、猫のいる駐車場に立っているように読んだ。語り手と重なるのでなく、ただ隣にいさせてくれているような気がした。
 橙書店の日々をど

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散る あまい枝とおくなり ノイズ 明日祈り 泣く音絶え 今ある地
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いくつかの予知夢(あけましておめでとうございます)

あけましておめでとうございます。びっくり、2018年が終わってしまいました。2019年はきっと、いい年になりますよ。

ほんやのほでは、実は店の工事が難航しているようです。
いえ本当のところ難航しているのかどうかは分からないのですが、とにかく予定より時間がかかっていると聞いています。わたしは工事現場を放って冬の旅にでかけたから、正しい状況を知ることはできません。今まだ旅先で、大工さんの連絡を待って

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この手生え 例え叶わぬ 以後の身の 仔犬は中へ 途絶え果ての子
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