【コラム これからの保育のために】 第3回 ベテランが困る問題の背景

前回からの続き。

このベテランが困る問題について、今度はその背景を考察することで、ベテラン勢が保育界のうねりや悪習の被害をこうむった側面をみてみましょう。

今日にいたるまでの約30年間の保育界は、公的保育がなし崩しになっていく30年だったといえるでしょう。(注:公的保育とは公立保育園のことではありません。行政の責任で保育を福祉として整備するという本来のあり方のことです)

全国的な公立保育園の民営化、保育施設の営利化への規制緩和、それゆえの保育のサービス業化、急拡大にともなう質の低下(質を省みない急拡大が正確か)、企業内保育所制度の実施、各自治体による準保育士制度、保育士不足から派遣保育士の増加、非常勤保育士の増加、なし崩し的な幼保一元化など、一連の動きがありました。
これらどれもが全体としての保育の質を下げることに無関係ではありません。

昨年後半くらいから大手新聞紙上でも「保育の質の低下」がトピックにあげられるようになっていますが、それは安倍政権下における質を省みない施設の急増のときからわかりきっていた将来が表面化してきたにすぎません。

さて、こうした中で保育士はその力量を上げられる余裕があったでしょうか?
もちろん個別にはさまざまですが、業界の置かれた状況として考えるとそれは難しかったという意見を持っている人は少なくないことでしょう。

しかし、その間も社会の価値観は着実に進歩していました。
本来ならそれを踏まえつつ順次価値観のアップデートをしていかなければならないときに、保育界はその余裕がなかったといえます。

それは、保護者と保育者の価値観のギャップとして、いま大きな問題になっています。

◆保育界の体質・悪習

また、それだけではなくそもそもこれまでの保育界は、普段の保育の仕事を専門的なスキルとして研鑽、言語化するという感覚を適切に持っていたとは言いがたい側面があります。


職業的に獲得していく専門的スキルと考えるよりも、優しさなどその人の人格に由来する属人的能力として考えがちだったり、一生懸命さや頑張り、我慢、自己犠牲などの「お気持ち」重視の職業観が強かったり、仕事は盗んで覚えろといった職人芸的な感覚を強く持っている傾向がありました。
保育界自体のこうした体質は、価値観の変化という問題には対処できない類いのものです。

こうしたことがいまベテラン勢がおかれている状況の背景にあります。


◆今日の保育界の直面する課題

昨年までは不適切保育を防ぐ視点と子供の人権に関する研修の依頼が多かったですが、昨年の後半くらいからは子育て支援の研修についての問い合わせがとても増えています。


その背景には、まさにこの保護者と保育者の子育てや親のあり方の認識のズレが浮き彫りになっているようです。

その間の子育てにおける価値観の変化もまた現在の保育界のゆらぎに大きな影響を与えています。
次回はそれについて見てみます。

保育士おとーちゃんこと須賀義一です。 保育や子育てについて考えたことを書いています。