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進化心理学の現状と問題点:科学と似非科学のはざまで

近年、進化心理学の専門家を名乗るインフルエンサーがトンデモ論を広め、生命科学を専攻した経験者としては非常に異常な状況に直面しています。

以前取り上げたエボサイ氏による「子供がワンチャン死んでもしゃーなし」論も、進化心理学を拠り所とした極端な主張の一例です。

しかしながら、進化心理学自体が現在では厳しい批判にさらされ、似非科学の傾向が見受けられるため、今回はその点に焦点を当てた記事をお届けします。


そもそも進化心理学とは何か

進化心理学は、その名の通り、感情や行動を生物学の進化論で説明しようとする学問です。

心理学と生物学は長らく文系と理系の分野として隔てられてきました。したがって、進化心理学は比較的新しい学問分野と言えます。

その新しさゆえに、未熟であり、時にはトンデモ論の温床となっています。

進化心理学の現状の問題点

1. 適切な研究方法の不足

進化心理学は、進化論の原則を用いて人間の心理現象を説明しようとする学問ですが、その研究方法は制約が多い傾向があります。

進化論は化石などの証拠に基づいており、実験室での再現実験が難しいため、仮説の完全な立証も難しいのが現実です。

心理学の場合、化石や遺跡による状況証拠は限られており、不適切な実験設計やデータ解釈が行われることがあります。

2. 文化や環境の無視

進化心理学はしばしば遺伝的要因に焦点を当てますが、文化や環境の影響を過小評価する傾向があります。

人間の行動や心理現象は遺伝だけでなく、文化や環境との相互作用によっても形成されます。

3. 生態学的な複雑性の無視

進化心理学の多くの研究者は、単純な進化的説明を提供しようとする傾向があります。

しかし、実際の生態学的状況は非常に複雑で、単純な説明だけではカバーできないことが多いのです。

進化心理学は、生態学的な複雑性を適切に考慮する必要があります。

4. 倫理的な問題

進化心理学の一部の研究者は、社会的に敏感なトピックに関する誤った結論を導き出すことがあります。

特に、ジェンダーや人種に関連する問題で、進化心理学の研究者は倫理的な検討が必要です。

一部の研究者が倫理に反する主張をすることもあり、これは学問の信頼性に影響を及ぼす可能性があります。

倫理的に誤っていても学説として正しいと主張する立場は、倫理が進化の一部として成り立つという前提と矛盾していることになります。

進化心理学は有用な学問となり得るか

進化心理学の現状の問題点を4つ挙げましたが、これらの問題をクリアすれば、進化心理学は有用な学問となるでしょうか?

結論から言うと、これは難しい問題です。

進化心理学論者の大きな誤りは、遺伝子が半永久的に染色体に固定されていて、垂直方向すなわち親から子にしか伝搬しないと仮定していることです。

しかし、実際には遺伝子が染色体から出入りすることが頻繁に起こります。

人間は数多くの細菌やウイルスと共生しており、ヒトゲノムの一部はウイルス由来の配列で構成されています。したがって、個人としての私たちは実は微生物やウイルスとの共生体なのです。

いじめや子殺しなどの不合理な行動は、宿主と寄生者との利害の相反から説明できます。寄生者は自分の生存と繁殖を優先し、宿主を操ることでその目的を達成しようとします。

この現象の有名な事例は、ハリガネムシによるカマキリの行動のコントロールです。

寄生者によるコントロールの結果として起こっている不合理行動を、あたかも人間が進化的に獲得した機能であるかのように主張するのは非常に危険なことです。

したがって、進化心理学が自然科学としての地位を確立するためには、寄生者との共進化を包括的に取り入れる必要があります。

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