上階へ至る道

ひとりひとり個性があるように腫瘍もひとつひとつ性質が違うから、それに合わせて治療する。
患者の持つ遺伝子のバリエーションを調べ、それに合わせた薬剤を選択する。

個別医療という言葉を最近、特に耳にするようになって、耳にするたびこの流れの起源について考える。
思想的なものではなくて、どういう研究の積み重ねによって可能になったのかについて。

直接つながりのある研究をたどれば、大本は19世紀末に始まっ

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分解して組み立てるまでがワンセット

アニメ・ゲーム関連の作詞家である畑亜貴さんと漫才師のサンキュータツオさんが『ただらじ』というラジオ番組を自主制作されていて、その中に『感情言語化研究所』というコーナーがある。

発注を受けて制作するアニソンと、自主制作の楽曲では、作詞の意味合いが異なる。
アニソンは作品の一部となることを前提に作られるわけだから、テーマや雰囲気は作品を反映していなければならない。
つまり作品のため、引いては視聴者を

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回転するふしぎなたんぱく質、F1-ATPaseが生命のエネルギーをつくる

F1-ATPase という、まわるたんぱく質がある。これに力をかけてまわすと、ATPという分子をつくる。ATPはたんぱく質にとって燃料のような分子。つまりF1-ATPaseのおかげで、僕たちは生きていけるんだ。

F1-ATPaseのかたち

F1-ATPase(エフワン エイ ティー ピー エース)は、まず6つのたんぱく質が輪っかのようにならんで筒をつくっていて、

上から見ると、こんな感じ。

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日本科学未来館 #マンモス展 で見えるのは過去か、それとも未来か?

6月7日から東京・お台場にある日本科学未来館で「マンモス展」が始まりました。

開幕前日のプレス向け内覧会に行ってきたので、展示の様子や、解説パネルにはない監修者のコメント、そして「本当の見どころ」などを紹介します。

Tales of Mammoth 1 マンモス、太古の記憶

最初にお出迎えするのは、1977年に発見された仔ケナガマンモスの完全体「ディーマ」。これは冷凍標本ではなくて常温でも大

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難病もアレルギーもない世界

『筋ジストロフィー』
『そばアレルギー』
ちょっと重みは違いますが、どちらも治る可能性の極めて低い、ほぼ治らないものです。

これを医療の観点から見ると「治療」が必要になり、投薬したり手術したり...となりますが、近年は生命科学のアプローチでどちらも治すことが可能になってきています。

それは『ゲノム解析』
そして『ゲノム編集』という技術です。

DNAと遺伝子情報を大量にデータ解析し、その中

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実験科学は論理的か?

研究は感覚と経験だ、と言ってみたくなる時がある。

わたしは遺伝子やゲノムを制御する機構を調べている。
調べるための方法が日々、更新され、新たなプロトコールを掲載した論文が雑誌のウェブサイトにアップロードされる。
同じことを目的とした異なる方法も複数、存在するのが普通で、全ての方法の細部を把握するのは容易ではない。
数年経てば、お金と時間のかからない、精度の良い実験技術だけが生き残る。
それはまさ

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【気になるニュース1】医学の行き過ぎた発展

最近医学と生命科学の分野で衝撃的なニュースが3つあった。

1.中国の研究者He Jiankui氏が遺伝子編集技術を人間の赤ん坊に使った。

知られている限り、人間に遺伝子編集技術が適用されたのは初めてのケースである。遺伝子編集とは人間にとって不利な遺伝子、特定の病気や疾患に関わるDNAを、人工的に取り除く技術である。この技術は農作物や家畜に使われ、今回の実験によって人間にも適用可能であることが証

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懐手して宇宙見物、するにも旅費が必要でしょ?

寺田寅彦の随筆集に、アインシュタインの教育論について触れた文章が収録されている。
読むと、アインシュタインはリベラルな教育論を持っていたことがわかる。
女性の能力に対する評価が不当に低いのを除くと現代とほぼ変わらない。
女性蔑視は彼の気性というより、全ての人間は時代の風潮から逃れられないことに由来すると考えた方が自然だと思う。

全員の能力を底上げする量的教育と、飛び抜けて優秀な、いわゆる天才を生

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第13回CiRAツアー 訪問記:人工多能性幹細胞研究の最前線を体感する

詳細は「第13回CiRAツアー 訪問記.pdf」を参照してください。

人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)は人間の皮膚や血液細胞などの体細胞に、ごく少数の遺伝子を導入し、培養することで、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞である(図01,1)。

図01.ヒト線維芽細胞由来人工多能性幹細胞(iPSC)。

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