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見えない広告が見えた!PARTⅡ ひろし様は広告したい ステマの達人I島Hロシの広告戦略


ターゲットはお年寄り⁉ 人気アナが仕掛ける巧妙なワナ

これからお話しするのは、ある大物ベテランアナウンサーについてである。
この人物は、底抜けに明るく人柄もよく、涙もろい人情家だが、芸能界はもちろんのこと、政界、財界、特に医療分野に深い人脈を持つ、かなりのやり手だ。
日本有数の人気を誇るMCであり、長寿ラジオ番組のパーソナリティーであり、バラエティーの富んだ講演活動で日本中を飛び回る一方、中堅芸能プロダクションの会長をも務めている。(と言えば、この世に1人しかいない)

アナウンサー歴45年の超ベテラン、I・H。(以下とする)
T〇Sラジオの朝の顔(声)で、同局の番組の中では一番右寄り。(というか、左寄りのメディアなので右サイドは1人しかいない)
本人は飽くまで両論併記、中立を保っているつもりのようだが、リベラル系の記事や論文と、極端な右派系のそれを同列に扱うこと自体が、充分すぎるほど右派の手つきである。

番組のゲストに対しては、女性の場合「おきれいですね」「美人!」「女優さんみたい」などポリコレ無視の発言を連発。(そうじゃないときは容姿には特に触れず)
男性がゲストの場合は、出身大学、華麗なる経歴などを披露(有名大学、華麗じゃないときは特に触れず)、高学歴とエリート人生をほめたたえる。
自身は「空気を読まない」ことを心がけているようだが、ただ読めていないだけじゃないかと疑いたくなる時代錯誤の放送である。
しかし、リスナーたちの感覚も感性も昭和の時代で止まっているのか、が何を口走っても炎上する心配はないようだ。

がパーソナリティーを務める、月金で朝一の90分枠(首都圏90分、他地域は60分)のラジオ番組は、実に二十年以上も続いている。

番組は――――
ヘッドラインのニュース
通販コーナー
の名前がついたラジオ体操もどきの体操
はまったく信じていない占いコーナー
曜日ごとのゲストコーナー
天気予報、交通情報などで構成されており、
これらがのとりとめのない雑談混じりに進行していく。

雑談の内容は――――
スポーツ新聞、週刊誌の見出しの紹介
昨日見たサブスクのドラマ、ドキュメンタリーの紹介
昨日会った著名人、企業家との会食の話
の事務所の所属タレントの話
が損した投資の話
俳優業の息子自慢などだが、
これがの熟練した話芸によって、呆れるほどのウザさなのである。
この耐え難いウザさに耐えたものだけが、のリスナーになれるのだが、たぶん50歳以下でこの苦痛に耐えられる人はいないだろう。

例えば、こんな調子である。
「……じゃあ、あーりませんか!」(吉本新喜劇)
びっくりぽん!」(朝ドラ)
ダメよダメダメ!」(事件や不祥事のニュースのあとなど)
えぇ~!?」(昔の「サザエさん」マスオの声マネ)
警視庁のサクライさん!」(交通情報担当者の声マネ)
おーい、中村君!」(交通情報担当者への呼びかけ。大昔の歌謡曲のタイトル。若い女性担当者が毎回「何だい? H君」と返答するのが不憫)
Hロシです」(最近言わなくなった)
どーもぉ、どーもぉ、どーもぉ」(森永卓郎の声マネ)
うがい手洗い鼻うがい!」(Hが日々実践、周囲に推奨)
チェック、チェックです!」(事務所の所属タレントの情報などのあとに叫ぶ)
前向きに善処。後ろ向きにヨイショ」(知らん。Hオリジナル?)
にゃーお、のぉーう」(朝が弱い弁護士に毎回強要している発声練習)
元気ですかー!? 元気があれば何でもできる。現金なければ何もできない」(アントニオ猪木の言葉を引用した所属タレントせんだみつおのギャグ。「現金なくても何とかなる」バージョンあり)

こんな、ウザゼリフが、5分間に最低2回は繰り出される。
これ以外にも、「ああ、それなのにぃ~それなのにぃ~♬」とか、突然始まる鼻歌も多数あるが、誰の何という曲なのか検索してみる気にもなれない。
この寒気がするほどのウザさに耐えられない人は、のリスナーにはなれないのだ。
(そんなにウザいのなら聞かなきゃいいのに、と思った人は100%正しいので以下の文章を読む必要はない。お疲れさまでした)

逆に言えば、このウザさによってリスナーの選別、のちに述べる広告戦略ターゲティングが自然な形で行われている。

つまりラジオの前には、のこんな調子のおしゃべりをあまりウザく感じない、むしろ面白いと感じるほど感性が麻痺した、鷹揚なリスナーしか残っていない。
それは小金を貯え、孤独な時間を持て余し、健康に不安を抱えた老人たちである。


は、ウザい。超ウザい。
だが、騙されてはいけない。
これは、演出されたウザさなのだ。
90分の番組を通して聴取してみると、
番組の始めの30分が、特にひどいことに気がつくだろう。

ガサガサ音をたてて原稿を探し回るのは毎度のこと。
低めのハリのない声。
低速でぼんやりとしたしゃべり。
お茶をこぼす。
物を落とす。
遠慮のない、咳、くしゃみ。

とても公共の電波とは思えない。
H以外の人がやったら注意指導レベルの、事故すれすれの放送である。

ところが、番組が進行するにつれ、声のトーンが上がって語りもシャキッとしていくのだ。
首都圏のローカル番組から、全国ネットに切り替わるタイミングでギアが入り、口車のエンジンが回転数を上げていく。
Hの語りは、ぼんやりとしたウザさから、キリっとしたウザさにチェンジするのだ。(ウザいことに変わりはない)
ラスト30分――――
Hはトップギアの語りで走り抜け、次のまともな報道番組へバトンを渡すのである。

あるインタビューでH自身が語っているが、これはすべて意識的に行われている。
朝一で、シャキッとした声で、しっかり語りかけても、リスナーの耳を素通りして何も残らないという、ベテランアナウンサーとしての経験則から導かれた方法なのだ。
まだ夢うつつのリスナーの耳へ、とりとめもなく、のらりくらりと、あいまいに、ごにょごにょと話しかけるという、高度な語りのテクニックなのである。


そして、ここからがHの真骨頂。
先に記したように番組構成の中に「通販コーナー」があるのだが、テーマ曲が流れる正規の通販のほかに、番組中に「通販のようなもの」がいくつもあるのだ。
それらが、Hのウザい雑談にまぎれて行われるので、製品を使ったHの個人的な感想なのか、企業案件なのか、違いがさっぱりわからない。
どこからどこまでが宣伝なのかはっきりしないまま、製品や作品の紹介が自然な形で行われているのである。
これを、語りのプロフェッショナルによって仕掛けられたステルスマーケティングだと見破るのは簡単ではない。

ステルスマーケティングとは、企業案件であることを明示せずに行われる広告宣伝活動のこと。
欧米では法により禁止されているが、わが国でも景品表示法が禁じる不当表示の一種として、2023年10月より規制される運びとなった。
「これは広告です」と明示すれば職業的「インフルエンサー」の仕事として認知され評価もされるが、もし隠して行えば10月以降は「犯罪」である。
現在はモラル的に問題はあるものの、まだ違法ではない。
たぶん、安上がりで有効な宣伝手段として、SNSを中心に日常的に行われていることだろう。
だが、芸能人が「ステマ」をやってバレると、社会からタレント生命を絶たれるほどの反撃を食らうので、今ではまったく割が合わない。
ステマがバレて悲惨な結果に陥った人の姿を、われわれは過去に何度も目撃しているはずだ。

ここに、一人のステマの達人がいる。
まったくバレずに生き延びているステマ界の超大物。
もう、お分かりだろう。
である。

一例を挙げてみよう。
ある有名俳優の「後妻業」じゃないか、と噂される人物が書いたとされる本がある。
Hはこの本を読んでえらく感激し、その感動を番組の中で力説した。
約二週間もの間、何度も、何度も、である。
曜日ごとのコーナーを持つ共演者にその本を推薦したり、すでに読んだ共演者と感想を述べ合ったり、大変な熱の入れようだった。

約一ケ月後、その本の著者が番組にゲストで出演する。
Hの熱意が実り、出版社から連絡があって、番組内でHとの対談が決まった形だ。
対談慣れしたHの巧みな話術によって、リスナーに著者の真心が伝わってくる、いい対談だった。

対談の終わりには、出版社提供の書籍の宣伝が入った。


さて、この事実関係時系列の流れは、本当なのか?
代理店か出版社からの連絡が先なのでは?
初期の段階でラジオ局の営業部かHの事務所への働きかけがあったのでは?
真相は後妻業疑惑と同様、誰にもわからない。

対談終了後も、しばらくの間、その本と著者の話が雑談の中でふと飛び出してくる。
そこには、何の違和感も不自然さもない。
Hの事務所のHPを見ない限り、誰も不自然さは感じないのだ。
いつのまにか、件の著者と結ばれていた「業務提携」の文字を見ない限りは。

ラジオの帯番組だから可能となる、気が遠くなるような時間差攻撃と、経緯の時系列をあいまいにした、これはステルスマーケティングの一種だと認定してもいいのではないだろうか。

Hの番組に、雑談と企業案件の境目はないに等しい。
ただでさえ情報過多で、スピーディーに物事が進んでいく世の中で、こんなに時間をかけて念入りに仕掛けられたら、マーケティングもマーケティングじゃなくなってしまう。
単なる日常の風景である。

            ***

語りのスペシャリストHの「見えない広告」が今朝もラジオから流れてくる。
雑然とした雰囲気の中で、週刊誌の記事を読み上げるH。
それは、親交のある大学病院の医師が語る健康情報である。
「……チェック、チェック、チェックです!
通販のコーナーは、Hの事務所所属の医師が監修した健康食品。
その最中に、Hが服用している漢方薬や昨日聞いたばかりの最新医療の雑談が入ってくる。
「……うがい手洗い鼻うがい!
番組中のタイムCMで「痛散湯」の宣伝が始まった。
Hが愛用者からのお便りを読み上げる。
この痛みがやわらいだら笑えそうな気がするんです……」
(この愛用者は十年前からそう言っているが可哀そうにまだ痛みは消えていないようだ)
「では交通情報です。おーい、中村君!
何だい? ヒロシ君。おはようございます」
Hお得意の軽快なウザいトークがつづく……。

もう、誰が何の宣伝を仕掛けているのやら、そんなことを気にしてもしょうがない、平和な日本の朝の一コマである。

「ハブ・ア・ナイスデイ・センキュー・グッドラック・ピース!」
(番組エンディングの極めゼリフ。Hは英語が得意)

かくいう私も、Hの推奨する鼻うがいを実践し、Hも愛用する口腔洗浄器で口腔ケアに日々励んでいる、Hのステルスマーケティングの被害者の一人であることを告白して、この稿を終えることにする。
(つづく)




特報

次回予告

「見えない広告が見えた!完結編」

さらば陰謀論 陽謀論のススメ

「見えない広告が見えた!」
シリーズの最後を飾るのは、
広告業界の巨人、あの会社についてです。
(2023年7月配信予定)



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