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自分だけでも名乗る思いやり

人の名前を覚えられない。
最初に断っておきたいが、その人に興味がないから覚えられないのではない。
どうでもいいと思っているわけでもない。

物事の重要度に関係なく、あらゆるものを気まぐれに消し去ってしまう消しゴムが頭の中にいるのだと思う。
余計言い訳がましいですね。つまり、記憶力が壊滅的にないのだ。


たまに利用する近所のスーパーがある。
長女と一緒に買い物をして、ぼーっとレジ会計を待っていたら、レジの女性から「あら?」と声をかけられた。

レジの女性の顔を見る。2年前、長女が通っていた保育所で一緒だった男の子の親御さんだと、すぐに気づいた。
当時、お迎えの時間がよく被った。やんちゃなタイプだった2人は終始ふざけ合っていて、なかなかスムーズに帰らせてくれない。

後から迎えにきた親子にどんどん抜かされていく。
「門から駐車場までの数メールを歩かせ、車に乗せる」という簡単なはずのミッションに、私たちはものすごく苦労していた。
口には出さないが、確実に苦労を分かち合える同志だった。

そんな思い出深いエピソードもあるのに、一文字も名前が思い出せない。
助けを求めようと、チラッと長女の顔を見ると、口を開けてポカーンとしている。
さすが私の子である。あとで聞いてみたが、女性の顔はもちろん、男の子の名前もしっかり忘れていた。
(同じクラスでめちゃくちゃ仲良かったんだから、お前は覚えとけ!)

上記の状況把握に、およそレイコンマ1秒ほど。
秒どころか、コンマ秒でうちの娘がまったくアテにならないことを悟った私は、次の勝負に出た。
「わぁ、お久しぶりです。○○○(私の苗字)です〜!」と返した。

相手の「あら?」にかけた。
“私のこと覚えてます?”の意味を含んだ、様子見の「あら?」だと思ったからだ。

自分から名乗れば、相手も名乗り返してくれることがある。
ここを逃すと、もう無理である。
会話が展開してしまったら、名前を聞き出せるタイミングは1000%来ない。

しかし、そう簡単に上手くいかないのが人生である。
「大きくなったね〜」と笑顔で返されてしまった。

相手の苗字を聞く機会は失われてしまった。
しかし、幸いなことに、子どもの名前を聞き出せる可能性がまだ残っている!と気付いた私は
「そうなんです。○○○(長女の名前)です〜!」と返した。

会話が成立しているかはかなり微妙なところだが、それより相手の名前をどうしても聞き出したい気持ちが勝ちすぎた。
同じ構文で二度目の勝負をかけてしまった。

そして、レジの女性は「○○○ちゃんは、▲▲▲小学校だっけ〜?」と話を続けた。

オワッタ…
私は負けたのだ。さすがに、これ以上勝負をかけることはできなかった。

その後の会話は覚えていない。とにかく、いかに名前を思い出せないことを悟らせないかということだけに集中していたので、会話の中身もクソもあったもんじゃないのである。

それでも、自分を褒めたいと思う。
苗字も長女の名前も先に名乗ることで、相手に余計なストレスを与えなかったからだ。
初手で確信を持たせることができたので、会話中の不安感は一切なかったはずだ。
これが私なりの”思いやり”だ。

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