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北海道のむかし話6 首なし仏さんー豊浦町ー

首なし仏さんー豊浦町ー


昔、貧しそうな身なりの一人のお坊さんが、どこからともなくやってきました。肩から袋を下げただけで、他に荷物らしいものは、何も持っていません。
ただ、不思議なことに、腰にはいつも「なた」を下げていました。
海岸沿いに村々を回り、お寺があると、お坊さんはそこに立ち寄り、お経を読み、そして、仏像を彫ってはお寺に残して、どこかへ行ってしまうのでした。この不思議なお坊さんの噂は、この寂しい海辺の村にも、伝わってきました。

「仏像のお坊さん、はよう、こられんかのう」

年よりたちは、そういって、お坊さんの現れるのを待ちました。

秋深くなったある日、乞食のような姿をした、そのお坊さんが、この村にやってきました。
子どもたちは、乞食が来たと思ったのでしょう。
「乞食が来たぞ。魚をめぐんでやるべ」
と、後ろから、ついて歩いていきました。
海岸のそばの険しい崖の下に、ぽっかりと大きな口を開けている岩穴の中に、お坊さんは入っていきました。
お坊さんは、それから、穴の中にじっとこもり、何やら口で唱え続けていました。

やがて、腰から「なた」をとると、近くにあった木を削りだしました。
木は、だんだん仏像の形に変わっていきます。
七日七晩、お坊さんは、一心に口で何かを唱えながら、仏像を彫り続けました。そして、やっと仏像はできあがりました。

お坊さんの顔は青ざめ、額から汗が流れていました。
顔も、げっそり痩せてしまいました。しかし、目は喜びに満ちていました。
仏像を岩の上に奉ると、お坊さんはどこかへ行ってしまい、その姿を見た者は、誰もいませんでした。
海辺の村の人たちは、いつの間にか、岩穴の仏像を、「岩屋観音」といって、大切にして、奉っていました。

ある日、一人の行者が海岸近くの山の中を歩いていて、クマに出会いました。驚いた行者は逃げました。しかし、クマも後を追ってきました。
行者は岩穴を見つけると、穴の中に逃げ込みました。
けれど、クマも、穴の中まで追いかけてきました。
さあ、大変です。あわてて仏像の陰に隠れました。
クマはうなり声をあげて、大きな口を開けるや、がぶりと、噛みつきました。
仏像の首に噛みついてしまったのです。突然のことで、行者は気絶してしまいました。

暫くして、気が付いた行者は、また、びっくりしてしまいました。
仏像の首がなくなっていたからです。
それからは、村の人たちは、今度は「首なし観音さま」といって、大切にしていました。

長い年月が過ぎました。
ある晩のことです。この海辺の村の漁場の世話をしている藤兵衛さんは、不思議な夢をみました。
ー首のない観音はかわいそう。早く首をつけてくださいー
という声で、目を覚ましました。藤兵衛さんは、「首なし観音さま」の夢だと気が付きました。
「まえから考えていたことだ。早く、もとどおりに直してあげよう」
と、思いました。

そのうえ、また不思議なことがありました。
藤兵衛さんと同じ夢を見た人が、他に二人もいたのです。
村の役人と、函館の仏師の仁右衛門さんです。
それで、藤兵衛さんは、翌日の朝早く、使いを仁右衛門さんのところへやり、観音さまの修理を頼みました。
一方、仁右衛門さんは、自分で仏像の修理をしようと考え、出かける用意をしているところへ、使いが来て、藤兵衛さんの夢の話を聞きました。


「出かけるところへ、使いの人が来るとは、これも不思議なことだ。これも観音さまがそうさせたのに違いない」
こうして、仁右衛門さんは、観音さまの首の修理をはじめました。
何日か過ぎました。観音さまの首は、もとのように直りました。
「首なし観音」は、また、もとの「岩屋観音」になりました。
それからずっと、この観音さまは、今も、豊浦近くの礼文華という海岸の、岩穴の奥深いところに奉られているのです。
「岩屋観音」のお祭りは、毎年9月16日、17日に行われているということです。

この礼文華を描いた油絵があります。

一緒に観てください。






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