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山賊との遭遇|創世の竪琴・その44

ニーグ村を発って1週間後、2人は途中猛獣や魔物の襲撃に合いながらも、無事ナセルの町に着いていた。

が、そこでの巡業はもう終わった後という事で、次の町『タタロス』へと2人は向かった。

急げばジプシーの一行に追いつくかもしれない。
2人は休む時間をなるべく少なくして歩き続けた。

「イルっ!あれっ!」
木々の間から、山道の先にジプシーらしい一行の姿を見つけ渚は大声を上げた。

「ああ・・・どうやらそうらしい。」
イルも渚に言われるまでもなく、見つけていた。

幌馬車が5台のあまり大きくない一団だが、間違いなかった。

が、どうも様子がおかしい。近づくにつれ、どうやら山賊の襲撃にあっている事が分かった。

「渚っ!」

「うん!」

2人は駆けつけた。
イルは呪文を唱えながら、渚は、イヤリングの剣を構えながら。

「わあー!わあー!」
「うわー!」「きゃあっ!」

そこは既に戦場になっていた。
辺りは剣を交える音や、叫び声、悲鳴が響きわたっている。

力無い者は、馬車を捨て森に逃げ込み、残った戦える者たちが必死に攻防を繰り返していた。

イルは透かさず攻撃に入る。

「渚っ、何をやってるんだ?」

イルは剣も交えず、突っ立っている渚に気づき、大声で叱咤した。

渚は勢い良く駆けつけたものの、戸惑っていた。
それまでの経験で、モンスター類との戦闘には慣れてきた、どうって事はない。

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しかし、今回は山賊とは言え、人間。
それも恐ろしい形相の男たち。
渚は怖くて身震いがし、動けなくなってしまっていた。
戦意がなくなったせいで、剣は既にイヤリングに戻ってしまっている。

「渚っ!」

イルの声ではっとした時だった、渚は後ろから大男に抱え上げられてしまった。

「きゃあっ!」

渚は驚いて、手足をばたつかせた。
が、そのくらいで男の手が解けるわけはない。

男は、渚という戦利品に満足したように山の奥へと入ろうと足を進める。

「イル!・・イルーーー!・・・・」

「くそっ、渚を返せっ!」
渚の方に駆け寄りながらイルが呪文を唱える。

「風龍ウィナーゼとの盟約に基づき、我、全てを切り裂かん・・・・『緑龍裂風!』

「氷に住まう精霊たちよ、我に力を・・・・『氷翔風壁!』」

別の方向から声がし、イルの攻撃は吹雪の壁で消されてしまった。

「な、何だっ?」

イルがその声の主の方を見たその一瞬の隙だった、後ろから山賊の1人が切りつけた。

「しまったっ!」

一太刀めはなんとか交わしたものの、次の一太刀が、イルの脇腹をえぐる。

「な・・渚・・・」

イルは渚が連れ去られた方向に片手を延ばしながらその場に倒れた。


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