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思い出を分けてもらったら、自分までもう一度訪れたい場所になってしまった

大都会・大阪梅田から徒歩圏内のビジネスホテルに2泊した。

飛んできたボールを打ち返し続ける毎日で、資料の一時置き場になっているダウンロードフォルダは混沌の闇鍋状態。大阪にやってきた目的である登壇イベントにもあわや遅刻(開始5分前に滑り込む)という体たらく。

イベント後、弾丸で広島に帰ったとしても、今置かれているカオスな状況はなんら変わらないとないとわかっていたので、すぐには帰らず、慣れない土地でひとり、頭を整理することにした。昔から引っ越しと転校が多かったせいか、こうした転地効果の恩恵を、植物が太陽の方向に花を咲かせるくらい自然なことみたいに享受することができるのは、数少ない私の長所かもしれない。

大阪には何度か訪れたことがあるが、いつもあまり馴染むことなく旅を終える。USJにも、新世界にも、太陽の塔にも行ったことがなくて、いつも堺か中之島にいる。今回も中之島美術館に行こうかな〜なんて、知った範囲だけで小さく行動しようとしていた。しかし、尾道で出会った友人たちがよく話題にしているパン屋があることを思い出して、ふと行ってみることにした。

「◯◯(パン屋)、今日行ってみるね」とMちゃんに連絡すると「えっ、私も行きたいです」と言われる。Gさんに同じ連絡をしたら「まじか!行きたい!」と言われる。なになになに?まちのパン屋に行きたいって言っただけなのに、その吸引力なに…!?結局Gさんは来られなかったけど、Mちゃんとは現地で待ち合わせることになった。

未知数すぎるその存在感に若干ビビりつつ、電車を間違えながら、指定された商店街を歩く。その時点で「なんかいいな」と心がほどけかかっていたのは、学生たちの活動の息吹がそこかしこに感じられたからか(大学が近くにあるのだ)、私がちょろいからなのか、尾道とはまた違う商店街の空気ゆえか。

パン屋の前で待っていてくれたSくんと再会を喜び、緊張しながら店内へ。なんというか、第一印象は「少し広い普通のパン屋さん」。香ばしいパンの良い香り。パンの種類は多めな気がする。奥にイートインスペースがある。

テーブルで、Mちゃんと店長さんが談笑している。Mちゃんの表情がほどけにほどけている。初めて見たぞこんな顔。それになんだか親子みたい。Sくんと一緒に席につき、店長にはじめましてのご挨拶。それからが、怒涛だった。

何が怒涛って、次々と飛び出す思い出話(主にMちゃんのエピソード)と、店長のツッコミと、Sくんのツッコミと、笑い声。こんなに大阪イズムな会話を間近で感じたのは人生で初めてなんじゃないかってくらい、2時間いろんな話しを聞いて、泣いたり笑ったりした。

大学が近くにあるから学生がそこらにいていいよねっていう地の利を受け身で享受するのではなく、かくあるべきをあてつけがましくなることなく、学生や地元の人と ”一緒に” 生活を営んでいることに、驚かされてしまった。

広島からふらっとやってきただけの人間に、正直まったく接点の見当たらない大学の、学生の、いろんな話を教えてくれる(もちろんMちゃんやGさんという接点があったから縁もゆかりもない話じゃなかったけど)。しかもそれがいちいち面白い。今、これって、どういう状況??って感じ。

とあるエピソードを聞いたとき、気付いたら泣いていた。あまりにも当たり前に発せられる思い出話だったけど、店の営業があって、自分の生活があるのに、なぜそこまで…?というよそ者のメタ目線と、まるで在りし日かのように自分がこの近くに住まう大学生だった姿を写真に勝手にトレースしてしまうというif思考(ありもしないのだが)とがないまぜになって、自分でもなんだかよくわからない涙だった。

私の大学時代は、授業料の重圧でその日暮らしにあえぐバイト漬けの毎日で、決して楽しいものではなかった。そんな青春コンプレックスを取り戻すかのように大学で働き始め、また学生の現状や地域との連携に、難しさを感じている。

大学の性格から歴史、学生の特徴、学部の種類、立地、時代、商店街の考え方、いろんな要素があるからどこかしこで同じことができるなんて思わないけれど、このパン屋さんと店長が存在してくれることに、思わず「ありがとうございます」という気持ちになったのだ。どの立場からだよって感じだけど。

MちゃんやGさんの大学時代は知らないけど、少なくとも今の彼らが大好きだ。そして、今の彼らを育んだのは間違いなくこのパン屋なんだ。今ではMちゃんに巻き込まれて、Sくんが家族みたいにパン屋の顔の一部になっているのもおもしろい。彼もきっと今後長年、ここに育まれていくのだろう。学生は卒業してどんどんライフステージや拠点を変えていくけれど、帰る場所がずっとここにある。

友人の帰省先に同行して楽しむことを「超帰省」なんて呼ぶらしいけど、私のこの体験はまさしくそれだった。

友人のルーツを覗きに行って、盛大に心を動かされて帰ってきた。私も、また訪れる場所にしていいだろうか。 PCを睨む時間を減らして、こんな体験を増やす1年にするのはどうだろう?来年度の私へ、提案したい。

一緒に飲みましょう。