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愛すべきバカたちと歌謡曲を聞きたい

「血も涙もある」(山田詠美)の感想文です

読み終えた時、物語の3人と一緒に歌謡曲を聞きたい気持ちになりました。

lover・wife・husband
3者の視点で物語は進みます。
3人、それぞれタイプの違う「愛すべきバカ」みたいなキャラクターだと思いました。
バカの一人であるhusband・沢口太郎はこんなことを口にします。

おれ、いつの頃からか、自分自身に役目を課してたみたいなんです。

愛すべきバカというのは、したたかさを兼ね備えている人のことでもあると思います。
物語のloverは自由で、wifeは計算高くて、husbandはバカであることを武器にしているみたいな人です。
そのようなことの自覚の有無や、他人に悟られるかどうか、その境目が曖昧な人のことを「愛すべきバカ」と呼ぶのかもしれません。

人は生きていく時、「なにかしらの役目」を持っている(持たされている)ものだったりします。
その役目について、husbandのように過去を省みた時に気づく人もいるし、wifeのように省みて役目があると確かめることで自分を救う人もいます。

「役目」には、「本当の自分ではない何者かを演じる」、そんなイメージがあるかもしれません。
wifeのように「役目」によって救われる人は確かにいます。
でも、それは「救われなければならない状況」があるからこそ、と言えることもできるのです。
wifeは不倫され(wifeにとっては不倫「させ」ているだけ)、husbandとの関係を肯定できない状況にいる自分を救うために、過去を省みて自分の「役目」があったことを確認して救われる。
「役目を演じる」というのは、いくら救われるものがあるのだとしても、少しばかり虚しさを伴っているものなのだと思います。

では、常に仮面を被ることなく本当の自分であり続けることができるのかといえば、それは中々できるものではないと思いますし、それが望まれるべきことだとも僕はあまり思えません。
人は生きていく中で、様々なコミュニティと関わっており、そのコミュニティごとに様々な仮面を取り外ししているものだと思います。
(付けているか外しているかではなく)仮面があることで自分を守ることができるし、安心してコミュニティと関わっていけるものです。
なので、仮面を持っていること、役目を演じることは人生の豊かさにも繋がっていることだと思います。

人生の豊かさにも繋がっていることだけれども、虚しさを伴う「役目を演じる」ということ。
そこにはきっと血も涙もあるはずだと肯定するために、物語の3人と歌謡曲を聞きたいです。
ストーリーテラー・JUJU曰く、歌謡曲には「私の人生、これでよかったんだと思える力」があるそうです。

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