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『オックスフォード物語ーマリアの夏の日』感想

“The Warden’s Niece”
by Gillian Avery
『オックスフォード物語 ーマリアの夏の日』
ジリアン・エイブリー 著
神宮輝夫 訳

19世紀のイギリス。両親を早くに失い、老いた叔母に育てられたマリアは寄宿制女子校に入学させられるが、厳しい指導に耐え兼ね、オックスフォード大学で学寮(ウォーデン)を務める大伯父の元に逃げ込む。
研究のために始終思索に耽り、浮世離れしたところはあるものの、学者らしく、偏見のない考えである大伯父はマリアの知的好奇心を伸ばそうと、隣家に住むスミス夫妻の好意もあり、スミス家の息子たちと共に教育を受けられるように手配してくれる。
大伯父の期待に応えたいマリアは、やんちゃで個性的な三兄弟と、風変わりな家庭教師の助けを借りつつ、ある屋敷に伝わる肖像画にまつわる謎に取り組み、論文を仕上げようと思い立つが…

英国の児童文学作家、エイブリーの第1作。続編があるようだが、残念ながら日本では出てない様子。

児童文学とはいえ、19世紀のイギリス社会や文化がわからない状態で読むと理解がし難いと思われる。女性がやっとオックスフォード大学への入学が認められた頃で、主人公の学究心を偏見なく受け入れ、励ます大伯父の偉大さは、たんにその地位だけではないのだが、そのあたりの事情を知らずに読むと、たぶん、たんに「変な人たち」で終わってしまう。

それにしても、このようにしっかりした、現代にも通じるフェミニズムの兆しも感じられる作品が1950年代に発表され、長く愛読されていたというのは、やはり多くの優れた児童文学を生み出してきた英国だからであろうか。下手な日本の売れている小説より、よほど学べるものが多く、また、翻訳の日本語も、多少の古くささはあれど、しっかりしていて、この本が課題図書に選ばれていたのも納得である。
これと『ダーウィンと出会った夏』『ローズの小さな図書館』などを読めば、女子の教育が当たり前ではなかった時代から、現代の女子医学部受験生受難まで、多くの女子たちが乗り越えてきた困難について考え、まだまだ改革が必要であることを残念に思うことだろう。
だからこそ、こうした良書が世に出て、読まれる必要があるのである。

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