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Behind the Scenes of Honda F1 -ピット裏から見る景色- Vol.22 (編集後記)

皆さま、こんにちは。Honda F1 広報のスズキです。シーズン開幕時から続けてきたこのnoteも21編を重ね、なんとか(とりあえずの)最終回、この第22編までたどり着くことができました。いつもご愛読いただいた皆さま、そしてたまたま目に触れたのでちょっとだけ読んでみたといった皆さまも、本当にありがとうございます。

Hondaとして素晴らしい前進を遂げた今シーズンの内容については、前回・前々回と田辺テクニカルディレクターがたっぷり語ってくれたので、今さら私から話すことはあまりないと思っています。ひとことだけ言わせてもらえるのであれば、担当として帯同させてもらった僕自身にとっても、おそらく一生忘れることのできない、本当に素敵な経験が詰まった一年になりました。

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今回は編集後記ということで、Honda F1の広報担当として皆さまへの一年の感謝の思いを伝えるとともに、少しだけまた僕の仕事目線で語らせていただければと思っています。

―F1って”敷居が高い!?”

F1というこのスポーツ、いまや日本では地上波で見ることができず、有料メディアに登録している方以外にとっては、なかなか縁遠い存在かもしれません。そしてHondaがF1に参戦していること自体、残念ながらまだそこまで認知してもらえていないようにも感じています。(認知度については僕たちの努力がまだまだ十分でないのかもしれません。)

また、たとえ中継やサーキットでレースを見られる環境でも、多くの情報やデータを参照し、適切な知識や解説を伴いながらでないと、何が起こっているかを把握することが難しいスポーツでもあります。サッカーのように、たまたまTVをつけたらやっていて、わかりやすいルールなのでだれでも楽しめるといったタイプのエンターテインメントでないことは、現代の四輪モータースポーツにとって課題であり難しさだと思っています。一言で言って理解するのが「ムツカシイ!」。(一方でマシンやドライバーのカッコよさはどんな方でもわかりやすい部分なのではと思います。)

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ドライバー、車体、パワーユニット(PU=エンジン)、タイヤ、チーム戦略、サーキット特性など、パフォーマンスを決定するために多くの要素が介在していることがその要因です。特に通常のスポーツと大きく異なるのはドライバーという「アスリート」に加え、マシンという「道具」の良し悪しで結果が大きく異なる部分ではないでしょうか。

同じくレースである競馬も似た側面がありますが、馬は道具ではなく動物です(それはそれでまた面白い)。サッカーのルールはシンプルなものの、選手特性や戦術などの組み合わせが無限大で非常に奥深い、など、スポーツごとにそれぞれの特徴があります。そしてモータースポーツの特徴の一つとして、視聴環境の難しさも含めた敷居の高さがあることは事実かなとも思っています。現代のF1は「なぜこのような結果になったのか」をシンプルに説明することが難しく、その魅力を伝えるのが仕事の広報担当にとっては非常に悩ましい部分であります。もっと言えば、僕はF1チームの広報ではなくPU=エンジン、つまり部品サプライヤーの広報担当なのでさらにややこしいです。

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―エンジニア&メカニックが挑む機械との戦い

反面、その複雑さゆえにおもしろいという側面があることも、このスポーツの魅力です。

僕自身、10代のころにTVを見ながら漠然と感じていたおもしろさとは、このスポーツが「機械の精巧さと人の情熱との共存」、つまり「冷たさと熱さのぶつかり合い」で成立していることだったように思います。当時は単純にドライバーとマシンが一体となった戦いぶりを見てそう感じましたが、実際にチームの内部に入ってみると、それはドライバーとマシン間のみでなく、エンジニア/メカニックとPUとの間でも同様であるということを目の当たりにする形となりました。

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彼らが相手にしているのは機械であり、人間や動物ではありません。どれだけ情熱を持って接しても、きちんと作られていなければPUは壊れます。徹夜で策を凝らしてデータを入力しても、少しの目論見違いがあればストレートでパワーが切れてしまうこともあります。一方で、ひょんなことから一瞬だけ見えた偶然の発見を、失敗を繰り返しながら再現、その要因を特定し、時間をかけて確実な機構として作り上げることで、飛躍的なパフォーマンス向上を遂げることもあります。

―関わる”人間”の想いを伝えたい

改善のためのロジックを立て、日々失敗と学びを繰り返しながら前進する開発メンバー、レース状況を元に瞬時で判断を下し最適なエンジンモードをドライバーに提供するPUエンジニア、限られた時間とプレッシャーの中、一つの作業ミスも許されない状況下でPUを組み上げるメカニック…。そんな姿を見て、「ここにも戦いはある。そして僕はこんな姿を皆さんに伝えたいんだ」と感じました。

F1は主役のドライバー以外の姿が見えにくいスポーツでもあるので、その裏側で、どんな人たちがどのような想いを持って働いているかという部分を見てもらいたい。そしてそこから、なぜHondaという会社がこのスポーツに参戦しているのかが、なんとなく見えてきたらいいなという想いもありました。

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こうして始まったHonda F1のnoteですが、どのメンバーの回も内容がマニアックになりがちだったので、果たしてどれだけの人に楽しんでもらえたのかという不安はあります。でも、これまであまりF1に触れる機会がなかった人にもなんとなく世界観を分かってもらえるようにできればとも思いながらコンテンツを編集していました。

SNSなどで寄せられるさまざまな反応を見ていると、ある程度そのような目的に近づくことはできたのかなと考えています。そして、念願の優勝を果たした後のメンバーの想いを、こういった場を使って皆さんに届けられたことは僕自身もうれしく感じました。

―オフシーズンのF1はどんな動き?

さて、僕の暑苦しい所感はいい加減この辺りにしておきましょう。

今月初旬のアブダビGPを最後に、F1は現在オフシーズンに入っています。オフとは言うものの、それはつまり来季に向けた準備が佳境であることを意味しています。ファクトリー側ではチームとの度重なる会議や、カレンダーとにらめっこしながらの昼夜を問わない開発が続いています。

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このあと、年明け以降はチームとのさまざまな開発関連イベントが始まります。以下、簡単に今後のスケジュールも紹介したいと思います。

・ファイアアップ

まずは車体とPUを初めてつなげてPUを始動する「ファイアアップ」から始まり、その後、車体側と連動した形のベンチ上でのテスト(シミュレーション)が、サーキットでの実走行を前に連日連夜行われます。

ファイアアップは例年緊張の瞬間で、マシンが初めて産声を上げる瞬間と言えるでしょうか。車体とエンジンのシステムがうまくつながっていない等の不具合がある場合には、始動までに時間を要することもあります。

以下は、今年の2/8にToro Rossoより公開されたファイアアップの音声です

・シャシーと連動したベンチテスト(VTCテスト)

このVTCテストは、エンジニア曰く年間で最も過酷なイベントで、合宿のような日々が終わった後には、頭も身体もボロボロだそうです。ただ、ここはサーキット走行を前に多くのことが発見できる貴重な場でもあり、大小のトラブルのつぶし込みをした上で、バルセロナで行われるシーズン前テスト(実走)に向かいます。

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・実走テスト(ウィンターテスト)

オフシーズンのF1マシンは本当に直前、いつもヒヤヒヤするぐらいギリギリのタイミングまで組み上げ作業が続くのが常ですが、例年なんとか間に合わせます。(実はプレスリリースに使用されるスタジオショットなども、走行前夜にサーキットのガレージ内で撮られたりしています。)

来年は2月19日から、いよいよ初めての本格的なトラック走行となるウィンターテストがバルセロナで始まります。2020年は合計6日間の走行と、例年よりも2日短いスケジュールとなり、いつもよりもさらにプログラムが詰め込まれると思うのですが、3月の開幕前にある唯一の走行機会ですので、一刻も無駄にするわけにはいきません。

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ということで、Honda F1のメンバーはシーズンが終わった今も、日本と欧州を行き来する日々が続いています。僕自身も広報としてもっともっと皆さんに楽しんでもらえるような情報発信をしていくべく、来季についてチームや日本サイドと鋭意企画中です。(そして、このコラムについても来季はどうしたものかととても頭を抱えております…)

これからもまだまだたくさんの喜びを皆さんと共有できればと思っていますので、引き続きのご声援をいただけますと、チームメンバー一同とてもうれしい次第です。

そして最後に少し宣伝です。1月1日 元日の20:00よりNHK BS1にてHonda F1に関するドキュメンタリーが放送される予定です。ぜひご覧くださいませ!

ひとまず皆さま、1年間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。そして少し早いですが、よい年をお迎えください。

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