『電脳戦姫エンジェルフォース』について(2024年最新版)

『電脳戦姫エンジェルフォース』箕崎准2018/9/30 SBクリエイティブ株式会社(GA文庫)
・設定、口調、日本語や文章、世界観すべてガバガバ
・構成がダメダメ
・「こんな設定あったっけ?」って毎分思う
・近くにいるコみんな脈ありとか思ってる主人公が心底キモい
・続刊前提は甘えだって言ってるだろ!!
・考察すればするほどズレていく
・説明すべき箇所を間違えている

『電脳戦姫エンジェルフォース2』箕崎准2019/2/28 SBクリエイティブ株式会社(GA文庫)
・Hentaiコンプリートパックやめろ
・さらっと一か月ダイブしてるのヤバない?
・読み終えてもキャラがぜんぜんつかめない
・雰囲気だけで進めるのやめて……
・言わなくていいことばかり言う
・何を見せたいのか分からないし、客が求めてるものと違う

 まず、この本が発売してすぐにネガキャンを行ったことを謝罪します。申し訳ありませんでした。人気シリーズを出した作者の次回作で、分厚さやイラストの多さを考えてもかなり気合いの入ったプロジェクトだったんだろうなと思います。ぱるにゃすって呼ばれてるキャラがいるのは中の人ネタをやるつもりだったのかなとか、TSとかVRMMOとかポストアポカリプスとか、人気の出る要素をたくさん取り入れているのも本気度がうかがえます……が。

 まず、説明するべきところを間違えまくっています。NPC知らない人いないんじゃねーのって思ったりとか、ジョブの説明がまるでないのにキャラ紹介に「ゲームではこのジョブ」って書かれてて意味不明だったりとか。どうやらSAOにおけるザ・シードパッケージの互換性拡張(「ザ・シード」はVRゲーの共通規格。世界観を決めてサーバーを用意すればだれでもVRMMOを作れるようになった)みたいなことが行われているみたいなんですけど、個々が遊んでるゲームと仮想空間の互換性についてまったく説明されていません。闘技場で「あのゲームのルールでやろうぜ!」とか言ってますし現実交換可なお金を賭けるとかやってますけど、「通貨は一本化されていて、ゲームごとの対人レギュレーションは誰もが把握している」なんてひとことも書いてないんで……。

 そんな感じなので「ファンタジックな衣装」を着た少女が「ミサイルポッド」を出して攻撃を始めたり、カメラ目線でしか書かれてなかったものが現地目線でいきなり登場して動き出したり、「凶悪犯罪」ってあらすじに書いてるのにやってることは民族浄化だったりと、ガバッガバです。もうね……。四スロあるのに剣一本で戦って「速度が落ちるからスロット埋めない」とか何考えてんの? 魔法は使わないけど強化ガン振りとか「技がないって言ったか?」って決めイキリに使うとかでいいじゃん……サンラクみたいにインベントリからのスロ入れ替えが誰より早いとかでも。

 主人公の気持ち悪さも大きいですね……ラッキースケベだけなら許されたんでしょうけど、シチュエロ妄想がとにかくひどいし、つねに発情してるんで見ていられません。というか「こんな女の人が所属してたんだ、いまは行方知れず」って聞いて「いたら脈ありだったのかな……」とか、付き合ってもいない女性と合宿に行って「ハーレム状態」って表現するとか、ピンクボーイじゃねーかこの野郎。女性アバターになってすぐ胸を揉んで「おっぱいやわらかぁ……」とか「アソコどうなってたのかな」とか、もうさぁ……。

 なんか妙に細かいこと言うけど意味はない、ってのも目立ちます。「白ぶどうジュースで乾杯した」とか「間違いなく一卵性の双子だろう」とか「右後方と左後方にミサイルポッド生成」とか……率直に言って行埋めみたいな無駄な文章が多くて、改行もクッソ多いですね。虫がいるの!→カマドウマだろうな、で八行使うのってなぜなんでしょう。それよか個々のイメージカラーや武装、スロットについてちょっとでも言ってくれれば、口調が微妙にブレててもキャラを掴みやすかったんじゃなかなと思うんですが……。ハルカのぬいぐるみが「自律飛行」「巨大化」「騎乗」「火吹き」を全部持ってるチート武装なのかとか、センリが降雨魔法でスロットひとつ使ってるのどう作戦行動に活かしてるのかとか。

 フルダイブ用機器の名前が《Digital Interface Vertical Electron》略して《D.I.V.E》なんですが、これだけ見ると「階層構造になった電脳空間にアクセスするインターフェース」という意味にも取れて、仮想現実を現実と思い込んでいる設定にも合致します。しかし、現実におけるフルダイブ用機器も同じ名前なので、無駄考察なんですよね……。機械が人間をエネルギー源にしていたり、かと思えば「人間の意識が活動する必要はない」と停止させたり、細かいところまでガッタガタ。わざわざ生命維持して資源の無駄遣いしてるのに、エネルギー回収できてます? 感情エネルギーがいちばん効率よさそうだけど。

 一巻でかませモブ倒したら女に誘われ違法ソフトやったら親友が死亡、生き残る腕前を買われて特殊部隊に入隊、かませモブ助けてハッピーエンドって流れなんですが、戦いすぎなんですよね。ラノベのシナリオとなろうの雑さを混ぜて事故った感じ。

 ラノベでの「ヒロインとの決闘」は、「お互いの性格を見せ合う(恋愛面)」「バトルスタイルや主武装のチラ見せ(バトル面)」「レギュレーション(世界観)の説明」「実力者同士の見せ場を用意する(カタルシス面)」とさまざまに美味しいからこそ意味があるんですよね。フェンリートくんは正直いる意味ないかな……素直にヒロインと戦って「なにこの実力!?」されてから「生き残ったのね、こっち来る?」されるので良かったのでは。フェンリートくん自体ただのかませモブだし、主人公も「イケメンに大差で勝てばモテると思ったのに」とかいう下半身な考えを披露してくれるので、誰も得してませんね。

 テンプレと絵師さんの力で成り上がったのに、テンプレ外しで凋落してたのではね……Amazonで著者欄に「作家、編集者、脚本家」って書いてたけど、見たところそんなに大きな仕事はしてませんね。コネはありそうですが、それで作品が面白くなるわけじゃないのでね。語彙を増やすのもいいですが、ベーシックに伝わる言葉遣いをできるよう、今後も日本語の勉強を続けていきたいと思いました。



 以上が「研究」として述べた内容です。
 要点として「すべてガバガバ」と述べているのですが、実際それ以外に言えることがありません。どこを直せば良くなった、ここさえなければまともだった、と言える大きな欠点がなく、まんべんなく低品質です。そして「VRMMOバトルファンタジー」と銘打ったジャンルですが、それまでの常識とはあまりにもかけ離れすぎていて、読者の受け入れる準備が整っていなかったのではないか、と思える部分もあります。
 それぞれの要素を分解して見てみましょう。

1:噛み合わないジャンルと舞台設定

 メタバースを主戦場にしたうえで、ゲームひとつをステージひとつのように扱うという世界観は、それぞれの関係性を理解できなければ意味不明です。そして、主人公たちの暮らす“現実”もまた電脳世界であり、現実世界は機械生命体と支配AIによって人間が眠りについている、という『マトリックス』のような設定もあります。こうなってくると、どちらをやりたかったのかが分からなくなります。

 ジャンルとしての「VRMMO」に求められていることは、「主人公がゲームをやる」、この一点に尽きます。そこに意味づけを行おうという試み、それそのものが「プロ産のVRゲー作品はつまらない」という私的な偏見の根拠となっているのではないか、と考えています。


 川原礫が開拓し火をつけ燎原と化し、焼け野原から芽が出ている状態の「VRMMO」というジャンルについて、プロ作家のほとんどは、ゲーム部分を軽んじてきました。家族や親しい人を探すため、生き残るためという強烈な動機付けによって「真剣なプレイ」が行われ、それが強さの根拠となる、という形です。

 しかしながら、現役のネトゲ廃人である私は、そういった動機付けにまったくリアリティを感じられません。なぜかというと、ゲームとは娯楽だからです。「一日八時間もゲームをやる理由はなんですか?」と聞かれたとき、私は迷いなく「武器を作るためのお金が足りないから」と答えるでしょう。サブキャラが多いからね、しょうがないね。あるいは危険人物の監視や心を病んだ人との対話など、ゲーム内社会のために割く時間であったりもします。

 より簡単に言い換えれば、「中には中の事情がある」といったところでしょうか。よそ者が入り込んできて事情ガン無視で引っ掻き回していく、というシチュエーションは、確かにさまざまな場所で見かけます。しかしそれは、内部への適応や糸口となる人物との関係ありきの作劇です。ネトゲで言うなら「フレなし装備カスでレベル四十くらいのやつが、いきなり「ギルドにいた○○さん探してるんです!! リアル連絡先知ってる人いませんか!? あと装備と完ポください!!」とか言ってきた」みたいな状態でしょうか。通報案件。

 プロの中には「ウェブ産の素人創作より、俺が作ったものの方がストーリー性がある。エンタメ性や世界観もばっちりのはずだ!」と思う人もいるでしょう。この作品にも世界の謎があり、行方不明の恩人や妹の手がかりを探すという壮大な使命があります。しかし、たとえばFPSで試合のたび「○○さん知らない? ここにいなかった?」って聞いて回ったら、その日のうちに晒されると思います。そうでなくとも個々のゲームについてはほとんど触れていませんし、ゲームをやっていないのだから、ジャンル詐欺もいいところでしょう。

 素人創作であっても、こういった「中の事情(=居場所)を作っていく」というストーリーは共感を集めやすいと考えられます。オンラインゲームをやったことがある人がいちばん楽しんだであろう時間の追体験ですし、こういったストーリーラインはどこでも見かけられる万人受けするものだと言えます。

 逆に、「コミュニティに割って入ったワケアリ」という立場の人物は、どうしても周囲から浮くことでしょう。しゃべらない転校生しかり、友達を悪く言う大人しかり……一緒になってくれるわけではなく、こちらを見下してすらいるように思える外部の人間が入り込んでくれば、しぜんに拒否反応が出るものでしょう。「姉を探してVRゲームを遊ぶ主人公、目的のために邁進!!」などというあおりは、他のプレイヤーにとって「やる気なし、抜ける気満々のやつに手を貸さなくちゃならねー」状況であるわけですね。それ自体に娯楽としての価値を見出す、あるいは当人や知り合いに絆されるならともかく、知らない人のリアル動向など、関わっても得しないと思うのが当然です。


 また、機械の支配する現実世界→現実と誤認された仮想世界→内部にとっての仮想世界、という構造も、作者のねらいがよく見えないつくりだと感じました。察するに、「VR技術を実現したオーバーテクノロジーは○○の仕業だった!」という展開の類型なのでしょうが、「眠っていればいい」というわりに仮想世界は現実と相違なく、内部の人間がまったく違和感を覚えないほどに作り込まれています。さらに仮想空間にダイブしてゲームに興じるなど、機械は延々と無駄な演算を強いられているように見えます。自己メンテナンスもできない超AIって、なんのギャグなんでしょうね。

 このあたりは、現実と仮想世界の関係が逆ならばこの多層構造は必要なく、舞台設定の納得感も生まれます。「そうとは知らず現実を戦わされているゲーマー」というと使い古されたネタにも思えますが、主人公の強さの裏付けが「現実で剣の師匠だった→仮想世界でもその強さは健在→仮想空間かつ記憶喪失でも記憶は健在」という三層になるのは、あまりにややこしすぎるように思います。こうすることで、「クリアするとすごいことが起きるが、リアルすぎて成功したやつがいない」という、作中世界に存在する違法ゲームをちょっとアレンジしたような設定も、きわめて自然に入れることができます。

 総じて、需要を理解していないうえ、作った設定を持て余している印象です。


2:性描写(お色気シーン)の気持ち悪さ

 客寄せとして、多くのライトノベルに「お色気シーン」があります。裸や着替え・入浴を目撃するのがテンプレートで、神の視点からそういった場面を描写するのもまた、こういった展開のひとつと言えるでしょう。こういった場面は通常であれば読者へのサービスのはずなのですが、ときたま、読者に得も言われぬ気色悪さを感じさせるお色気シーンが存在します。

 どうしてそうなるのか、理由として考えられるのは「カメラの動きが恣意的すぎるから」、あるいは「必要のない・読者に好感を抱かせない描写であるから」の二点でしょう。今回取り扱う作品、というより箕崎准作品でありがちなのは、ふたつめの「必要のない・読者に好感を抱かせない描写」です。

 本作の主人公ユートはとんでもないエロガキで、女性とみれば発情し、頻繁にエロ妄想に耽り、なんなら女体化した自分の体にさえ欲情します。思春期真っ盛りの童貞が女体化したら、ある程度「どうなってるんだろう、どうなるんだろう!?」と思うことには納得できます。胸を自分で揉んだり、仮想空間とはいえ性器がどうなっていたのかに興味を持ったりすることも、少々旺盛すぎるきらいがあるとはいえ、いちおう想定の範囲内です。気持ち悪いとは思いますが、同じ現象が起きたとき同じ発想に至るかもしれない、と考えれば、彼を責めるのも少々潔癖に過ぎるというものです。それこそ童貞臭い。

 しかし読者としては、エロ妄想はあまり歓迎できません。理由は、創作の世界では妄想する必要などないからです。私は「風でスカートがめくれる」という事故を一回しか目撃したことがありませんし、「背負ったかばんにスカートが持ち上げられてパンツ丸見え」という事故も同様に、一度しか見たことがありません。なんで起こったんだろう、という素朴な疑問は置いておくとして、こういった不運は、作者が文字で書けば再現率百パーセントかつ大規模に何度でも起こります。主人公が妄想するまでもなく、作者はそれをいつでも何度でも起こすことができるのです。

 私は下着姿の女性が好きで、そういった描写を自分のために物語に登場させています。しかし、そのためにわざわざ「あの子ってどんな下着つけてんのかなぁ?」などと妄想する少年を描く必要はありません。たとえば着替え中、あるいは湯上りなど、女性が下着だけになるシチュエーションはいくつも存在します。そういった場面を捉えれば、下着姿の女性は容易に読者の前に顕れることでしょう。いちいち「神の視点」という言葉を使うまでもなく、文筆家とは妄想をそのままに出力することができるはずなのです。

 では、こういった出力が間接的であった場合、読者は何を考えるでしょうか? それはおそらく「実行できないヘタレ」でしょう。たとえば女性の着替えをのぞいてしまうというシチュエーションは、現実にも起こります。そのため、読者が主人公を責めることなくお色気シーンが挿入されることになるでしょう。過失であっても主人公自身の意図とは異なるため、彼の罪は比較的軽く、許されやすくなります。

 逆に、主人公は女性の着替えをのぞきたかったがそうしなかった、という場合はどうなるか。読者の目に、かれは一般的な倫理から外れる行為をもくろみ、そういった欲求をため込んでいる危険人物と映ることでしょう。加えて、彼がラッキースケベに遭遇したとしても、「性的加害を企んでいた人物が、ついにことを起こした」といったふうに見えます。当然ながら、読者からの印象は最悪です。ラッキースケベにおいて、主人公は「無自覚的な加害者」でなければならないのです。

 この「実行する/しない」を刃物に置き換えてみましょう。「三歳の子供が刃物を振り回して友達にけがをさせた」という事実と、「三歳の子供が刃物を手に持って友達をにらんでいる」という事実、どちらが危険に思えるでしょうか? 前者は加害行為を行っていながら結果的には許され、後者はなにも実行していないのに責められるでしょう。ものの見え方というのは、そういうものなのです。


3:死に設定の多さ、あるいは作者自身が設定を把握していない状態について

 世界観や舞台設定の項でも述べた通り、本作の設定はガタガタです。かなりの気合を入れて制作されたように見える、と研究としても述べましたが、そのわりには実態が伴っていません。売上や巻数はともかく、中身の時点できちんと組みあがっていないのです。

 まずひとつ、巻頭のカラーページで描かれる人物設定はそこだけのものであり、作中には登場していません。例を挙げてみましょう。『一ノ瀬和也――カズヤ 勇人に《NOAH》の世界を教えた悪友。《NOAH》上ではアーマーナイト。』設定ではこのように描かれる一ノ瀬ですが、初登場から退場まで「アーマーナイト」という単語はいっさい登場しませんでした。

 そもそもの話として、作中における《NOAH》とはメタバースであり、各種ゲームを遊ぶ際には専用のフィールドにアクセスする、と描かれています。メタバースそのものにゲーム性が存在するのか、あるいはゲームキャラクターの姿を上位空間であるメタバースにも反映できるということなのか、そういった事情はまったく説明されていません。読者の思いつくもっともらしい説明は、「制作段階の情報と執筆段階の情報が食い違っている」、あるいは「設定した情報を作中に登場させることができなかった」あたりでしょうか。ともかく、メタバース《NOAH》にはジョブが存在する、と受け入れておきましょう。

 そして、武器や技をセットできる「スロット」があるとも書かれているのですが、こちらもほとんど登場せず、死に設定になっています。最序盤の戦いにおいて「スロットは四つあり、埋めるほど動きが鈍る」といった情報が語られますが、これが主人公の肌感覚なのか守るべきセオリーのようなものなのか、読み取る手がかりはありません。相手は剣・盾・魔法ふたつと四つを埋めたうえで対戦格闘ゲームを勝ち抜く強豪であるため、よけいによく分からなくなります。

 また、一ノ瀬はオッズ操作をしたうえで賭け試合に勝つ「戦績詐欺」をして稼いでいる、というきわめてセンシティブな設定があります。学生が詐欺教唆・賭博行為をするというすさまじくモラルに反する描写もさることながら、そこまでしてお金を稼ごうとする理由がまったく示されていませんでした。「稼いだお金でエロ動画か漫画でも買うのか?」という彼自身のセリフこそあるものの、一回の試合で約九十万円もの大金を手に入れようとする考えは、いったいどこから出てくるのでしょうか? アダルトサイトの有料会員でも月あたり一万円はないと思いますし、総カラーのエロ同人でも三千円あれば買えるはずです。そういったものをコレクションしていて「エロ図書館」みたいなあだ名のある少年ならば、とは思うのですが、そんな描写もありません。

 一ノ瀬が違法ゲームをプレイして死亡するという展開に持っていきたかったのは分かりますが、違法ゲームをプレイするための掛け金が六十万円である、という設定が邪魔だとしか思えません。黒幕の目的は民族浄化(に近い)であるため、死ぬ人数が多ければ多いほどいいはずです。であれば、間口は広く入りやすくした方がよいのではないでしょうか? このあたり、序盤に主人公をカッコよく勝たせたかったのか、悪友が死ぬことで決意を固める描写を入れたかったのかは不明ですが、悪手に悪手を重ねていますね。

 たったひとりの人物について語るだけでも1330文字になってしまうほど、この作品の矛盾や穴は膨大です。これがアニメ化経験のある作家の作る作品なのか、という疑問もあるにはあるのですが、それについてはおいおい述べる予定です。


4:TS(性転換あるいは女体化)要素不要疑惑

 この作品の売り出し文句は「アニメ化作家の次回作」あるいは「流行りの要素をふんだんに盛り込んだてんこ盛りセット」だと思われます。世界観の根幹をなす「VRMMO」はというとメタバース+MO(少人数でやるゲーム。携帯ゲーム機を持ち寄った通信プレイなどが近い)であり、TS要素も主人公のアバターが女体化したというだけです。

 私はいろいろな理由でTSというジャンルを好んで摂取しているのですが、「現実世界では男性だが、ゲームを遊ぶ際のキャラクターが女性である」という形式は、正確にはTSではないと考えています。なぜなら、それはいくらでも変更可能で、かつ外的要因によって容易に解消されるからです。

 たとえば「外見を決定する際にランダムにした」などという理由は無責任の言い訳にすぎませんし、「バグで女性だと認識されている」というのであれば、VRデバイスの製造元かゲームを配信する会社に問い合わせるべきでしょう。少なくとも、不具合を抱えたままゲームを遊ぶことは不正行為であり、のちのちBANされたりロールバックされたりといった、最悪プレイヤー全体を巻き込む責任追及を受けることになる可能性もあります。

 また、仮想空間にはどうしても再現度に限界があるため、「見た目が女性である」ことと「本人が女性である」ことが近付いていきません。排泄や着替え、所属コミュニティの変更や感性の変化など、男性が女性になっていく過程で性別を意識するイベントはほとんどないため、こういった事例はどうしてもネカマ(ネットおかまの略。オンラインゲームなどで、男性が女性キャラを使用、あるいは女性のふりをすること)の域を出ないことでしょう。

 主人公ユートが女体化した理由はひどく雑で、彼が所属することになった特殊部隊は女性だけということになっているから、というものでした。顔から名前がバレた瞬間に言葉に詰まるような人間しかいない特殊部隊が、「アバターを作り変えてでも正体を隠したい」というのもずいぶんお粗末に思えますが。所属を明かせば荒くれ者が黙るほど知れ渡っていたり、そもそも顔を隠していなかったり本人そのもののアバターだったりするので、整合性が取れていません。

 数々の先輩方に倣いつつ、見習いTSソムリエとしてこの作品にジャッジメントを下すのであれば、「ガワ以上の意味はない」と判断すべきでしょう。ジャンルが知れ渡ってから「TSなら見てもらえる」と安易に飛びつく作者が増え、「ガワだけ型」が増え続けています。女性とみれば発情し、女性に囲まれただけで相手の意思を確認することすらなく「ハーレム状態」とほくそ笑み、今その場にいない相手であっても女性なら脈ありだったと考えるエロガキが、どうやったらTSジャンルに侵入してこられると思ったのだか。男性器を怒張させながら女湯に向かう自称トランスジェンダー女性よりも、はるかに醜く思えました。



4:まとめ

 改善策を提案するのであれば、最初からターミネーターもどきとして出すのが正解だったのではないか、というところでしょうか。少なくない読者が「この作品はターミネーターを真似ているのでは?」と考えたでしょうし、私もそう思いました。後年の作品を見ても、この作者は人気作のアレンジを出すことしかできていません。

 当時流行していた学園異能バトルものをテンプレート通りになぞった結果として、彼は『ハンドレッド』のアニメ化を成し遂げました。しかし、『ターミネーター』にVRMMOやTSを混ぜ込んだ『電脳戦姫エンジェルフォース』は二巻、異世界転生小説の流行りに乗り遅れた『勇者になりたい魔人の冒険』は一巻、『コードギアス』に強い影響を受けた『魔眼で始める下克上』も一巻しか出ていません。

 彼はジャンルや影響元の面白みに奇妙なアレンジを加えてしまうため、それらが持っていた魅力を失効させてしまいます。『ハンドレッド』がウケた理由はテンプレートそのものをそのまま真似た結果としてうまみを保ったから、あるいはイラストレーターの影響力を強く受けることができたからだと考えるのが妥当です。「箕崎准」という作家のブランドが確立していれば、発売当時の私のレビューをはねのけて売れたはずですし、魅力を語る人も少なからず現れたでしょう。現実はといえば、この私のような粘着野郎が延々と追い続けるだけの惨状、決して望んだものではないはずです。

 現在の彼は合同制作会社の社長であるため、今後彼の描いたライトノベルを読むことはできないでしょう。まったく残念とは感じませんが。もともと人と関わる能力のほうが高かったようなので、あちらの方が活躍できるものだと思われます。調べた限り、直近では漫画原作をやったとのことですが……漫画は私の専門ではないので、あちらに任せておきましょうか。出版社によっては見向きもされない可能性もありますが、まあ、アマチュアのレビュワーもどきからすれば、あちらの事情など知ったことではありませんので。

 先生の今後のご活躍を祈って、レビューを締めくくっておきましょう。

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