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バ ク 転

近所を歩いていると、面白い看板を見つけた。

正確に言えば、一度通り過ぎて三歩下がって二度見した。

質素な看板にこう書かれている。

「バク転教室」

ほぅ。ありそうでなかった。

いや、なさそうでなかった。

「小学生から大人まで」

「バク転に年齢は関係ありません!」

みたいなことが書かれていた。

バク転が出来たら、カッコいいのかもしれない。

しかし大人になって、ある日唐突に

「バク転してぇな」と思うのだろうか。

バク転が出来る程の、柔軟でしなやかな身体は

切に欲しいかもしれないが。

むしろ目標を「バク転」と設定することで、

飽きることなく肉体作りに取り組めるのだろうか。

チケット制なので、いつでも通えるらしい。

ま、通わないけど。


バク転と言えば思い出す、一人の男がいる。

現にこの看板を見て彼を思い出した。

大学時代、同じサークルだったKという男だ。

彼はしょっちゅう「バク転」をしていた。

ボクはよく、それを不思議に思った。

今となれば聞いときゃ良かった。

「ねぇねぇ、K君。キミはどうしてバク転するの?」

彼はなんて答えただろうか。


彼がいかなる時にバク転をしていたのか紹介しよう。

一. テニスコートにて(テニスサークルだから)。

一. 体育館で適当に遊んでいた時。

一. 合宿で海に行った時。

一. ボーリングでストライクをとった時。

ボーリングでストライクをとった時?

そう、彼はボーリングでストライクをとってバク転をした。

ちょっと着地が納得いかなかったのか、

首をひねってもう一回した。

女子達も一度くらいは「きゃー」と言ったかもしれない。

でも、ストライクをとる度にやるものだから、

次第に周囲も「またやってるよ」という空気になる。

ボクはそれを見て思った。

「かっこわる」


空気とは恐ろしいものだ。

彼がサークル内で浮き出したものその頃からだ。

彼はきっとバク転を「カッコいい」ものだと

思っていたのだろう。

しかし、「見て見て!」というアピールは

実にカッコ悪いものだと、ボクは彼から教わった。

バク転して「きゃーきゃー」言われるのなんて、

小中学生くらいだよK君。

たとえカッコ良くても、やりゃいいってもんじゃない。

もし今、ボクがバク転を出来るとしたら

どのタイミングでやるだろうか。

……。

やはりやらないと思う。

しかし、Kは今も回っているのだろうか。

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