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ツイン・ピークス The Return 第3章「助けを呼ぶ」のおはなしと考察。

こんばんは。大好きなツイン・ピークスThe Returnの感想や考察をネタバレありで書いていきたいと思います。公開から数年経っているけど、もし今のタイミングで見ている人がいたら、見た後に読んで楽しんでもらえたらと思います。

第3章はのっけから強烈で、前半は摩訶不思議ワールドが全開でした。後半は打って変わって、はっきり言ってコメディです。ツイン・ピークスでこんなに笑ったのは初めてだったよ。ではいきましょう。

前半のシーンは圧倒的不思議世界観、3人のクーパー、2つのゲロ、そして電気。

異空間での脱出劇。新たなる「謎の部屋」ではクーパーへのヒントが示されるのか?

宇宙空間のような、次元の狭間のような場所を高速で飛ばされる(転送される?)クーパー。やがて紫色のもやのような、煙のようなものが現れます。

紫色の構造物(コンクリートの頑強な、しかし古びた建物のように見えます)に落とされるクーパー。眼前には暗く、波立つ海が広がっています。新たなる異空間。このシーンは画面がもはや絵画です。デヴィッド・リンチの絵画の世界に動く人形(=クーパー)が紛れ込んだかのような、奇妙で美しい世界観を見せてくれます。呆然と海を見つめるクーパー。海の向こうは暗く、何も見えず、建物の入り口を見つけて中に入ります。

ここからが圧巻。これまで様々な表現で異空間を見せてきたリンチですが、個人的にはここから先の「部屋」でのシーンは衝撃でした。まずいきなり眼のない女がいる。そしてここから時間の流れが通常と異なります。何が起こっているのか、まったくわからないので、出来事を描写することしかできません。

眼のない女はクーパーを手探りで認識します。クーパーの問いには答えません。喋れないのか、声がうまく出せないのか、彼女の喋っていることがクーパーには聞こえません。突然激しくノックされるドア。眼のない女は必死で「静かに」というジェスチャーを繰り返します。何か恐ろしいものが部屋に入ってくるのでしょうか。壁際のライトが点灯し、壁に掛けられた不思議な機械(レトロで、15と書いた数字が真ん中にある電気関係の機械のようです。真ん中にコンセントのようなものがついています)。機械に引き寄せられるクーパーですが、近づくことができず、眼のない女は激しく取り乱しながらも、クーパーに「近づくな」と教えます。

ノックがますます激しくなり、眼のない女の手引きによって別の部屋に移り、そこから梯子を登ってハッチのような扉を開け、宇宙空間のような場所に出ます。なんと、部屋から出てみると今までいた場所はわずか2メートル四方程度の小さな、しかもチープな金属製の箱でした。大きさの概念がないのでしょうか?いかにもチープな金属製の箱にはアンテナのようなものと、三角コーンのような形の突起物がついていて、突起物には何かの目盛りと、レバーがついています。眼のない女が手探りでそのレバーをつかみ、思い切り下ろすと強烈な電流が走り、女は感電したように震えて宇宙空間に飛ばされてしまいます。ここで何かの物理的法則が変わったのか、画面が鮮明になり、時間の進み方が通常通りになります。終始うろたえるクーパー。そりゃ、うろたえるしかないでしょう。

呆然と宇宙空間を眺めていると、さらに衝撃の光景が。視界の右側から何かの顔がゆっくりと流れてくるではないですか。なんだこれは。はじめはわかりませんでしたが、よく見るとガーランド・ブリッグス少佐!!「青いバラ(Blue Rose)という言葉を残し、そのまま少佐の顔は左に流れていきます。おいおい、少佐はたまたまこの空間を流れていったのでしょうか?

クーパー、どうしようもなく宇宙空間を眺めますが、部屋に戻るしかありません。部屋に戻ると時空間が通常通りに戻っており、壁の機械の数字は「3」に。さっきまで眼のない女がいた場所には別の女がおり、部屋には青いバラが一輪。女がゆっくり腕時計を見ると、「2時53分」。壁の機械が唸り声を上げ、レトロなコンセントがジリジリと音を立て始めます。

ここから、「ふたつの世界」が交差し始めます。一旦現実の世界に戻り、悪いクーパーが運転する車の時計も2時53分を指しています。車のシガーソケットが唸りを上げ始め、様子がおかしくなり始める悪いクーパー。二つの世界をつなぐものは、コンセントとシガーソケット!つまり「電気」ですかデヴィッドリンチさん!!

部屋に戻り、別の女が立ち上がり震えながら語ります。「あなたがそこに着く時には あなたはもう すでにそこにいるだろう」女の喋り方からして、ここがブラックロッジなどと同じような、異空間であることが示されます。壁のコンセントがますます唸りを上げ、引き寄せられるクーパー。しかし電気による膜のようなものがあるのでしょうか、容易には近づけません。

シガーソケットの唸りが激しくなり、車の運転があやしくなる悪いクーパー。

部屋に戻り、またドアを強くノックする音が。女「早く!急いだほうがいい。私のママが来る」ママ???クーパー、女のいう通りにコンセントに近づくと、そのまま頭からコンセントの「穴」に吸い込まれていきます。最後に、靴をポトリと落として。なに?革製品は空間移動できないの?

現実世界。もはや視界がゆらぎ、まともな運転ができない悪いクーパー。たまらず路肩に乗り上げ、激しくクラッシュして車は1回転してしまいます。どんどんシガーソケットの力は強くなり、嘔吐感に襲われる悪いクーパー。ブラックロッジの赤いカーテンが目の前に現れます。

ところ変わって場面はまったく別の郊外住宅地へ。看板には「ランチョ・ローザ・エステート」。おお、これはドラマの始まりに出てくる会社の名前ではないですか!

ええええ?またクーパー?いささか太っていて、髪型ももっさりしていて、なんとあの緑色の、指輪をつけてます。「ダギー」って呼ばれてます。おお、黒人女性と行為の後のようです。「左腕がしびれている」というダギー。そのうち具合が悪くなって部屋の中をはい回ると、やがてこちらにもブラックロッジの赤いカーテンが。むむむむ?

ダギー、激しい嘔吐感を抑えられず、床に激しく嘔吐します。黄色と黒と赤い色の気持ち悪いものを吐き出すダギー。直後、落雷のような音とともに”消滅”してしまいます。

車内で苦しむ悪いクーパーの前に赤いカーテン。そこには椅子に座ったダギーのイメージが重なります。こちらも激しく嘔吐。最初に黄色いもの、そのあと黒いものが混ざり、最後は赤や緑の気持ち悪いものが、大量に出ます。おい、これがまさか”ガルモンボージア”か?気を失う悪いクーパー。こちらの方は”消滅”しません。

ブラックロッジ(赤い部屋)。ソファーに座っているダギーの目の前に、マイク(ジェラード)が立っています。困惑しているダギー。マイク「誰かが作ったのだ。お前を」「ある目的のために」「だがおそらくもう目的は達成された」みるみるうちに左腕が縮んで、指輪がぽとりと床に落ちると、顔が消滅して金色の玉が。そのあと気持ち悪いものが現れて何かを吐き出すと、ソファーに残されたのはパチンコ玉ぐらいの大きさの「金色の玉」。ダギーは金色の玉になってしまいました。

ゆっくりと台座の上に指輪を置くマイク。厳しい表情で立ち去ります。

ダギーが倒れた部屋には嘔吐物がそのまま残されており、室内のコンセントから今度はクーパーが出現します。おお、クーパーはダギーのいる場所に転送されました。靴下の片方に穴があいています。

25年も履いていた靴下だものねえ。ここまでを前半とします。

クーパー、現実世界に戻る。しかし全てを忘れている。後半はクーパーのおとぼけ演技をご堪能あれ。

後半はある程度展開が落ち着くので、あらすじ説明はそこそこで、シーンごとの感想を入れていきます。

ジェイド様のおかげでひとまず窮地を脱するクーパー。しかし完全に記憶喪失、心神喪失状態。

ダギーと入れ替わっちゃったクーパーに驚く黒人女性(名前はジェイド)。ですが、なんかノリがよく、それと面倒見がいいですね。ダギー、お気に入りの常連客だったんでしょうね。

しかしクーパーの様子がおかしいです。完全に惚けてしまって、記憶喪失、まともに言葉も交わせず、人の言ったことをおうむ返しにするばかり。所持品はなく、ただグレート・ノーザンホテル315室の鍵がポケットに入っています。ちなみにダギーの車はフォード。ダギーの服装からしても、悪いクーパーと違って小市民というか、庶民的な感じがします。

驚くことに、ここでダギーさんが何者かに命を狙われていることが発覚します。何者ですがダギーさん。しかしたまったまの偶然で命拾いするクーパー。悪者たちはダギーさんの車に爆弾を仕掛けます。爆弾を仕掛ける男を見ている向かいの男の子。部屋にはジャンキーの母親がいて、119!と連呼。だいぶ末期のアディクトのようです。このシーンも登場人物も、意味があるのか、ないのかわかりませんが、恐ろしくリアルです。

悪いクーパーの嘔吐物は毒ガス並み。

クラッシュした悪いクーパーの車に警官2名が近づきますが、あまりの毒気に一人がやられてしまいます。一体どんなもんを吐き出したんでしょうか。

ツイン・ピークス保安官事務所ではホーク副署長、アンディ、ルーシーが失踪したクーパーの手がかりを探しています。

ホーク、アンディ、ルーシーの禅問答。やれやれ、噛み合わないこの3人で謎を解くことができるんでしょうか。ウサギは本当に関係ないのか?ただのジョークなのか?わからないよ!

ジャコビー先生が塗装するだけのシーン。

ジャコビー先生の小屋。購入した5本のスコップを、自作の足踏み機械を使って念入りに金色のスプレーで塗装していくジャコビー先生。全然意味がわからないけど、これ、スコップの塗装用にわざわざこしらえた仕掛けだとしたら、ジャコビー先生はスコップの塗装を、相当な数やっているっていうことなのでしょうか?まあ、ジャコビー先生のやることをいちいち考えてたら、おかしくなってしまいますね。

「助けを呼ぶ」「行っていい」

ジェイド様のおかげで「シルバー・ムスタング・カジノ」まで運ばれたクーパーですが、ここから、ひたすら呆然と突っ立って、いわれたことをおうむ返しにするクーパーがもう、おかしくて、ほんとに、ツインピークスでこんなに爆笑したのは初めてでした。リンチ監督の笑いのセンスは、25年で確実に進歩している!そしてカイル・マクラクラン、絶対楽しんでやってるよね。

ここから先の、ブラックロッジパワーの使い方、これ、スターウォーズ新三部作の、フォースの力インフレーションを思い出しました。フォースの力があればなんでもできる。ブラックロッジパワーがあればメガジャックポット出し放題。

ちなみにですが、シルバー・ムスタングというホテル名にも何か意味がありそうですよね。ムスタングは「野生化した馬」を指すそうです。銀色のムスタングとは、セーラの幻影に出てきた白い馬と何か関わりがあるのでしょうか?

FBIフィラデルフィア支部。ここでゴードン・コール、アルバートも再登場。役者が続々登場。ニューヨークの惨劇(サムとトレーシーがやられたやつ)が説明されます。

ゴードン、アルバートに加え、不必要なほど色っぽいタミーという女性捜査官(演じるのはクリスタ・ベルという歌手の方)が、ニューヨークのあの部屋で起こった惨劇について話をするシーンが重要です。サムとトレーシー、アゴから上を食い破られていました。顔が付け根の部分だけ残っていて、ツボのようにパックリと空いているなかなか強烈な殺され方です。

ちなみにWOWOWだと、遺体のシーンはモノクロ処理がしてあるのですが、これ、もしかしてオリジナル版だとカラーなのでしょうか?僕はグロいの苦手なので助かりますが、改変が嫌な人は多いでしょうね。

ここで、タミーの説明により、ニューヨークのあの建物の持ち主は不明。警備員の身元も不明。ガラスの箱に現れたあの「邪悪なもの」はしっかりとカメラに写っているが、動いた瞬間消えている。被害者以外の指紋やDNAは無し。事件はまったくのお手上げ状態であることがわかります。

そしてゴードンにクーパーから電話がかかってくる。25年ぶりの再会となるのか?!しかし電話をかけている「クーパー」はどのクーパー?

ゴードンの部屋が必見です。背中には原爆のキノコ雲、机にはマックと赤電話(それにしても、電話だけが常にやたらとレトロです)。向かいの壁にはフランツ・カフカ。まさにこの世の不条理を探求するゴードン・コール”らしい”セレクトといえるでしょう。でも、よく正気を保っていられるよね。

サウスダコタ、ブラックヒルズ。そこに「クーパー」がいるらしい。俄然展開が楽しみになってきました。

エンディングテーマ。ロードハウス、毎週選曲がナイスです。

前半のシーンで生まれた疑問。25分程度の長さなのに恐ろしい密度だった。

とにかく第3章の前半は置いてかれないようについていくのが必死でした。これ、何気なく見た人とか、どう思うんだろうね?だけど特にクーパーが転送される紫色の空間や、チープな箱が浮かんでる宇宙空間なんかは、何か独特の絵画的な美しさがあり、魅了されました。

1950年代へのこだわりを貫いているデヴィッド・リンチ監督、宇宙空間に浮かぶチープな箱や、クーパーが吸い込まれる機械なんかに、どこか往年のSF映画のような、不思議な懐かしさを感じます。

さて、疑問が山のように湧いて出てますが、いくつか。

(1)クーパーが飛ばされた紫色の建物や海はどこなのか?「部屋」はどこなのか?宇宙空間のような場所は?

(2)眼のない女(裕木奈江演じる、"Naido"という役らしいです)は誰なのか?なぜクーパーを助けたのか?そしてどこに飛ばされた?

(3)壁の機械の意味と役割は何か?「3」や「15」の意味は何か?

(4)ガーランド・ブリッグス少佐はなぜ浮遊していた?”青いバラ”とは?

(5)ドアをノックしていた「私のママ」とは誰か?Naidoに代わって部屋にいた女は誰か?

(6)ダギーはクーパーのドッペルゲンガーなのか?どうしてダギーが消え、悪いクーパーは残ったのか?

(7)ダギーを作ったのは誰か?その目的は?そして目的が達成されたとはどういうことか?

後半のシーンで生まれた疑問。

(8)ダギーの命を狙っているのは誰なのか?そしてなぜ?

(9)ジャコビー先生は一体何をしているのか?

(10)ニューヨークのあの部屋で、ガラスの箱に登場したクーパーがカメラに映っていないのはなぜなのか?結局、なんのために大金持ちはサムにバイトをさせていたのか?

若干の考察。わかったこと(推測できること)。物語のテーマと関係のありそうなこと。

第3章は、クーパーが次元の狭間のような場所を通って現実世界に戻るところが描かれました。描き方がリンチ節全開なので意味不明に見えるのですが、ところどころ筋の通っているところがありました。

①まず、突如登場した「眼のない女」ことNaidoですが、なんとなく、ニューヨークでサムたちを喰い殺したあの「邪悪なもの」に似ている気がしました。女性の姿で、顔がはっきりとせず、口だけが見えていたようなものでしたので、最初は”腕”のドッペルゲンガーかな?と思ったのですが、違ったかもしれません。果たして、あれはNaidoなのか。

②第2章で進化した”腕”が言っていた「253。何度も何度も繰り返す」とは、2時53分を指しているようです。時間なので、何度も繰り返すことは間違いない。

③同じく第2章で悪いクーパーが言っていた、「明日戻されることになっている」とは、その予定時刻のことだったのでしょうか。だとしたら、悪いクーパーがそれを知っていたのはなぜなのか、という新しい疑問は生まれます。ブリッグス少佐が鍵を握っているのでしょうか。

④「電気」が物体転送、次元移動と関わっているらしいことは、映画版でも示唆されていましたが、今回はなんというか、直接的に「コンセントを通って移動する(笑)」というシュールさでした。機械に記されていた「3」とか「15」が何を意味するのかわかりませんが、「15」だと転送は無理で、「3」だと大丈夫だということでしょう。Naidoは、それを分かって身を呈してクーパーを助けてくれたということでしょうか。

⑤「青いバラ」も映画版に出てきました。花言葉は「不可能」、意味するものは「存在しないもの」。しかし現代では、その意味合いも多少変わってきているようです。wikipediaによると、2004年に遺伝子組換え技術により、「青いバラ」が誕生したということ。つまり青いバラとは、「存在しないはずのものが、存在している」という意味合いもあるのかと推測します。

⑥「存在しないはずのものが、存在している」とは?つまりダギーのことではないでしょうか。ダギーは、マイクによれば「何者かによって作られた存在」つまりマジカルな力によって創造された「新しいドッペルゲンガー」です。”腕”が第2章終盤で叫んでいた「存在しない!」という言葉は、ダギーのことを指していたのではないでしょうか。

さて、今回クーパーは現実世界に戻されたわけですが、彼がブラックロッジを出るためには、ドッペルゲンガーが戻らなければならなかったはずです。では、ダギーがクーパーのドッペルゲンガーだったのか?おそらく違うでしょう。ダギーは、いわば、ドッペルゲンガーのクローン。つまり本来存在しないもの=青いバラなのではないでしょうか。何かが狂ってしまい、クーパーは出られたけれど、真のドッペルゲンガー(=おそらく悪いクーパー)は戻らなかった。

そのことに、おそらくニューヨークのあの部屋が関係しているような気がします。

⑦ともあれ、クーパーは戻ったのですが、もとのクーパーではありません。ここで二つ仮説があります。クーパーは電気ショックみたいな状態で記憶喪失に陥ってしまったのか。それとも「魂」をブラックロッジに置いてきてしまったのか。ファンとしては、できるだけ早く元のクーパーに戻って、颯爽とした活躍を期待してしまいます。ギャグとしては面白いけど、いつまでもあの状態だと、いくらなんでもかわいそうです。

⑧そして、次回ゴードンたちが向かうサウスダコタ州ブラックヒルズという場所ですが、どうやらネイティヴ・アメリカンのスー族が、精霊の宿る聖地として崇めた場所だということです(wikipediaによる)。19世紀に金鉱が発見され、不法侵入してきた白人とスー族が激しく争った場所でもあり、現在でも地下資源が豊富に眠る土地でもあるということです。ホークが丸太おばさんから受け取った、「あなたのルーツに関係がある」という言葉、ツインピークスの森に宿る精霊の存在、今回のストーリーの根幹に関わる場所のように思います。

では、第4章も楽しみに見たいと思います。





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