【エッセイ風】細かすぎて伝わらない一節
「三四郎」が好きだと言ったのは、何年か前、国際学会から帰国する航空便で隣り合った老紳士だった。リクライニングボタンのありかを巡って会話が始まり、話題は旅の目的や仕事から、本に移った。メジャーな観光地ではなかったから、久しぶりに日本語が通じる相手に会った感慨もあったかも知れない。
「美禰子さんがお辞儀をするところが印象に残っている」とその人は言った。読んだことはあったけれど、咄嗟にその場面を思いうかべられなかった。
帰国したあとで、本棚から日焼けして黄ばんだ「三四郎」の文庫