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七つの浦を巡って出会う、もうひとつの宮島|歴史が生んだ佳景(後編)

瀬戸内海の広島湾に浮かぶいつくしま。宮島とも呼ばれるこの島は古来、島そのものがご神体として崇められてきた特別な場所です。前編につづき後編では、7つの浦の神社を巡る厳島神社の神事「しまめぐり」の伝説、歴史に迫ります。(ひととき11月号特集「宮島、歴史が生んだ佳景」より)

7つの浦の神社を巡る

 厳島には、ほかにもたくさんの神々がお鎮まりになる。島の周囲約30キロ、その浦々にも神々が祀られる。船で島を一周しながら、そのうちの7つの浦を拝する嚴島神社の神事が「御島廻り」だ。

「七浦巡り」とも呼ばれるこの神事のいわれが、嚴島神社御鎮座の伝説である。

 紅い帆を揚げた船に乗ってやって来た女神は、厳島で鎮座する場所を探していた。地元の有力者と一緒に船に乗っていると、島内からカラスが現れる。神の使いであるこの「がらす」が一行を導き、ある場所で姿を消した。女神はそこに社を建てることに決め、つくられたのが嚴島神社なのだという。御島廻りはこの出来事を再現したものとされている。

神社入り口の石灯籠にはカラスの像が。厳島では神の使いとされ、これは神社の祭神が鎮座する場所を探している際、がらすが先導の役を果たしたという伝説によるもの 
*本記事の画像コピーは固くお断りします
 島の南岸に鎮座する養父崎神社は神鴉の霊を祀る。毎年5月に行われる御烏おと喰式ぐいしきでは、海上のいかだに、米粉を海水で練ったしとぎ団子と御幣を供え、神鴉の出現を願う

 7つの浦は美しい白浜ばかりではない。波が強く打ちつける岩の上に立つ社もあり、海上から参拝するしかない。そんなところにも、いやそんな場所だからこそ、ひとびとは神を見たのだろう。

潮風薫る七浦で出会う、もうひとつの宮島

海にせり出した巨岩の上に立つ、第7拝所の御床みとこ神社。御本社と同じく三女神を祀り、最初に仮遷座した場所との言い伝えもある。潮が引くと見える岩台の亀裂は、嚴島神社の御神紋(三ツ亀甲剣花菱紋)の起こりと伝えられている

 御島廻りではないが、平清盛一行も船で島を回り、浦々を拝したという記録がある。江戸時代にはすでに、御師の案内で七浦を巡る定番ツアーができていたそうだ。もちろん現代の私たちも観光船に乗り込めば、この神事をしのぶことができる。どうやらひとびとは厳島に来ると、神を感じずにはいられないらしい。

 それは、幕末から明治にかけて訪れた外国人にとっても同じだったようだ。大森貝塚の発見で知られる動物学者エドワード・S・モースが、厳島に到着したのは真夜中だった。山あいの宿で朝を迎え、

〈障子をあけた我々は、気持のよい驚きを感じた。目の前が、涼しくそして爽快な、美しくも野性味を帯びた谷なのである。鹿が自然の森林から出て来て、優しい目つきで我々を見た〉(エドワード・S・モース『日本その日その日』)。

 アメリカ人のモースにとって、「一度も不親切に扱われたことのない、野生のシカ」がすぐ手の届くところにいる、ということも驚きのひとつであったという。

 自然のままのシカや谷。門前町がどんなに賑やかになっても、ひとびとはこの美しくやさしく、厳しい自然にありのままに相対し、踏みにじることはしなかった。山と海を仰ぎ、ともに時間を過ごしてきた。

 そして永遠とも思える時間が流れてなお、島はほぼその姿を変えていない。遠い祖先が見た同じ神々を、私たちはいまも島の自然のなかに見る。

文=瀬戸内みなみ 写真=阿部吉泰

──この続きは、本誌でお読みになれます。宮島で自然崇拝が生まれた背景には、その地形が関係しているといわれています。信仰の歴史は宮島に貴重な植生をもたらし、せん原始林は嚴島神社とともに世界遺産に登録されました。本誌では、自然に詳しい専門家とともに宮島をめぐり、この島の美しさに迫ります。宮島の美しい写真と共に、ぜひお楽しみください!

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<目次>
●PROLOGUE [信仰]神住まう 島の祈り
●NATURE TOUR1[地質]宮島の造形
●GOURMET 美味なる宮島
●NATURE TOUR2[植生] 宮島の植物

1. 杉之浦神社
2. 鷹巣浦神社
3. 腰少浦神社
4. 青海苔浦神社
上陸して参拝する第4拝所の青海苔浦あおのりうら神社。浦には、爽やかな香気を放つ海浜植物のハマゴウが群生する(下写真)
5. 山白浜神社
6. 須屋浦神社
7. 御床神社
御島廻り神事では、浦々の神社を巡った後、最後に参拝する大元神社(上下写真)。拝殿には「御島廻」と書かれた江戸時代の奉納額が掲げられている

観光船で七浦を巡ろう!
宮島の7つの浦にある神社を海上より参拝する特別ツアー。ガイドによる説明付きで宮島の歴史と神秘に触れられる
【日程】11月11日(土)・23日(木・祝)
【乗船場所】安芸グランドホテル1階専用桟橋(到着も同桟橋)
【出航/帰港】10時(多少前後する場合あり)〜12時30分頃(所要時間約2時間30分)
【料金】大人4,800円、子供2,400円
【予約・問い合わせ】
☎0829-56-0111(安芸グランドホテル)
https://www.akigh.co.jp/nana-meguri/

出典:ひととき2023年11月号


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