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【駿府の工房 匠宿】お茶染めでサスティナブルな染物を|林家たい平さんと楽しむ駿河和染

三代将軍徳川家光の時代に全国各地から名工が集められたことで、駿河国ではさまざまな和染技術が培われてきました。駿河和染の職人たちは、こうした昔ながらの技法を継承しつつ、現代の暮らしに合う「新しい伝統工芸品」を生み出しています。静岡で生まれ育った人間国宝の染色工芸家・芹沢銈介を敬愛し、美術大学で型染を学んだ落語家の林家たい平さんと静岡市内を巡ります。(ひととき2023年4月号より

丸子宿~東海道五十三次 二十番目の宿場

 まり宿しゅくにある「駿府の工房 たくみ宿しゅく」。わし恭一郎さんは、工房「竹と染」内の和染の工房長になって1年余り。静岡の茶葉を使った独自の染物を編み出したパイオニアで、「お茶染めWashizu.」を立ち上げた。

こうまちにあったうなぎの寝床みたいに細長い家に育ったんです」。半纏はんてんやのれん、のぼりなどしるしものと呼ばれる型染を請け負う紺屋は、染めの作業で布を張るため細長い土間が作業場で、鷲巣さんはその五代目に生まれた。病にした父の後を継ごうと決めたのは21歳。手ほどきを受けながら、化学染料でのれんなどを染めていた鷲巣さんのもとに、ある日、茶農家の先輩が茶葉の袋をどさりと持ち込んだ。処分することもできず倉庫に放り込んだままだった茶葉を、不意に思い出したのが始まりだ。

 下請け仕事に疲弊を覚え始めた頃でもあった。展示会で見た工芸作品に触発されて、自分もオリジナリティーを持ちたいと考えあぐむなか、閃いたのが茶葉だった。試行錯誤を重ねて数年、濃い焙じ茶色をした浸出液で煮染めを繰り返し、木酢酸鉄もくさくさんてつを添加して、じっくり入念に温度を上げながら色が変化する際まで煮染める。「煮れば煮るほど色が微妙に変化して、墨っぽい色になっていくんです」

製茶後に残る茶葉のかけらや茎を利用。その時々で使用する茶葉の種類は異なる
茶葉をじっくり煮出して染液をつくる。煮染めする際は温度管理が大切だが、気温や火加減など諸条件により染まり方に差が出る

 その地色へ抜染ばっせん糊で型染模様を表す。「印物の型染から出発したので、やっぱり型染をやりたかった」と笑う。

工房「竹と染」で煮染めをする鷲巣さん。受注品や出品作品を制作する傍ら、今春からは新たに見習いを迎えて後進の育成にも取り組む。「お茶染め」の発展が期待される

 工房に入るや、たい平さんは壁に掛けてあった薄墨色のストールを首にくるり。「色がすごくいいですね」とご満悦だ。

和装、洋装ともに似合いそうなストールに吸い寄せられるたい平さん。「手触りもいいね~」とうなると、鷲巣さんを質問攻めに
お茶染めの小物を身に着けて、丸子宿をぶらり。歌川広重の「東海道五拾三次之内 鞠子」に描かれている、とろろ汁の老舗「ちょう」の前で

旅人=林家たい平 文=片柳草生 写真=阿部吉泰

──この続きは本誌でお楽しみになれます。廃棄されるはずの茶葉を蘇らせる「お茶染め」。江戸時代に各地に普及した藍染のように、鷲頭さんはこれを文化として広げたいと考えます。この後、たい平さんと鷲頭さんは熱心に語り合い、「お茶染め」の今後の展開についてアイデアが尽きません。本誌では、たい平さんが敬愛する芹沢銈介の美術館や、ミラノのデザイナーともコラボしたろうけつ染、素朴な味わいの型染など、さまざまな技法で新たな作品づくりに取り組む老舗の工房を巡ります。ぜひお楽しみください。

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目次
●INTRODUCTION=静岡市立芹沢銈介美術館
●紀行=駿河和染のいま 丸子宿
●紀行=駿河和染のいま 府中宿

駿府の工房 匠宿
☎054-256-1521
静岡市駿河区丸子3240-1 
[時]10時~19時 
[休]月曜、年末年始
入館無料
https://takumishuku.jp/

林家たい平(はやしや・たいへい)
落語家。1964年、埼玉県秩父市生まれ。1988年に林家こん平に入門。2000年真打昇進、落語協会常任理事。落語家として精力的に全国を巡業する一方、テレビやラジオなど各種メディアで活躍中。2010年から母校の武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科で客員教授も務める。仕事の合間を縫って手ぬぐいやのれんなどのデザインも手がけている

出典:ひととき2023年4月号


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