トンネル、トンネル

トンネルの中ばかりを歩いているのは、ほかに道を知らないから。
道とはそういうものですよ、大人はみんな言っていて、原っぱを歩いていたのに蹴落とされた。
右も左も不確かなテクストで、歩く私を侵食してくる。
おまえに価値などない、なんて言われたくないのに、身体は重く沈んでいく。
沈んで、固まって、倒れこんだら、トンネルの呪詛が流れ込んできた。

蹴落とされずに原っぱを歩き続けた人がいたと知ったのは、呪詛が見苦しかったから。
彼の人々には、翼がある。
トンネルを剥がして、私も原っぱを歩きたいと思うのに、出口はない。
絡みつくタールをなだめすかして、外を覗こうとしても、年齢制限の網に除外される。
おとなしく、ただただ歩き続けて何とかなるほど、世界は美しくはないのに。

もがいているうちに誰かを踏んずけていたのに、気がつくのは誰もいなくなってから。
呪詛しか知らないと、人が見えない。
ねえ、誰かいませんか? 
誰もいませんか?
ここはみじめだけど、私は生きています。
あなたは毎日が楽しいですか?
私も楽しく生きたいだけなんです。

蜘蛛の糸に救われるのはいい人だけだって、DNAに刻み込まれているはずなのに、我先にと糸ばかり探して見上げて歩いてる、そんな自分をトンネルは舌なめずりして待ち受けている。

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