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無題(フィクション)

2022.05.12 4:45 PM

目が覚めてしまった。枕元のスマホで時間を確認すると、午前4時45分。なんとなく薄気味悪い時間だ。

もう一度寝ようと目を閉じるけれど、スマホの画面ライトを浴びたせいか眠気がどこかに消えてしまった。

このまま起きてしまおうか。でも、今日は少し遅い時間帯に大事な会議がある。眠気と闘いながらファシリテーターを務めるのは無理だし、ギリギリまで眠っておきたい。

学生の頃だったらこのまま起きて映画でも観れたのに、真っ当な自己管理のできる社会人になってしまったものだ。つまらない。
無理に眠るために、雨の音のホワイトノイズをスマホから流す。最近はこの音がないと寝付けない。


2022.05.16 7:00 PM

「どうしてお金が気になるのか。私たちはお金に振り回されている」
つけっぱなしにしておいたテレビからそう聞こえる。確かにその通り。お金に振り回されている。

でも、本当にお金のことを考えるのをやめて、一文無しになったらどう暮らせばいいのか。一文無しで暮らしていくのもある種の才能だ。なんせ怖い。お金がないということは恐怖だ。明日、食べるものにも困るというのは恐怖でしかない。私はその恐怖に打ち勝って悟りを開ける自信がないので、お金に囚われ、振り回されながら、貯金するしかない。

それにしても、最近は何もかもが高くて、この間、久しぶりにトイレットペーパーを買おうとしたらずいぶん高く感じた。気のせいだろうか。

いっこうに増える気配のない銀行口座の残高を眺める。老後に貯蓄が2000万円必要だ、なんてニュースで言っていたのはいつだっけ。2000万円なんて貯まるわけない。インフレが進んで、そのうち誰かが老後は3500万円必要です、とか言い出すに違いない。

それまでに死ねたらいいのに。


2022.06.02 10:13 AM

仕事が嫌すぎて吐きそうだ。分からないことが多すぎる。上司は去年の対応を知っているはずなのに、全然共有がない。私が今年初めてだって知っているはずなのに。引き継ぎとか、教育とか、そういう概念は無いのかな。


2022.06.17 1:37 AM

眠れない。眠ろうとすると頭の中がぐるぐる回りだす。
明日の仕事。地球温暖化。3年後の仕事。ずっと賃貸に住むの。先輩にやっといてって言われたやつ明後日までだ。あの資料から手をつけよう。貯金。最近、体調を崩してしまって結構病院でお金使った。今月、あといくら使えるんだろ。この先、気候が厳しくなるのに、どうしてそんな簡単に子どもを産めっていうんだろう。その人の気が知れない。ねぇ、あの人、元気かな。家欲しいな。頭金っていくらいるんだろう。固定資産税。お婆さんになって住むところないの怖い。フランス語の勉強したいな。あ、明日の会議の資料、少しだけ直さなきゃ。眠らきゃ。もうあと5時間くらいしか。ねぇ、資料、いつ直す。眠らなきゃ。



2022.10.18 9:02 AM

体調不良です、といって有給をとった。曇りだった。

電車で2時間。九十九里浜に来た。駅から砂浜までは歩いた。
外海の荒い波が打ち寄せている。今日はサーファーもいない。

サンダルを脱いで波に足をつける。冷たい。
少しずつ黒いうねりの中に歩みを進めていく。

壁のように押し寄せてくる塊。その波に吸い込まれて、一つになる。溶けて消える。体温が消えて、海の一部になる。

怖くない。

そう思った瞬間、波が引いて足が掬われる。ぐらりとバランスを崩して思わず叫んだところに、塩辛い海の水が喉に入ってむせ返る。体が流される。激しい咳。また大きな波がきて、浅瀬に戻される。喉が渇いて、痛い。咳が止まらない。まだ私はここにいる。

最後まで読んでくれてありがとう。