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日本初の救急クリニックでの実習がめちゃくちゃ勉強になった話!🚑 後編

※内容に関してクリニック院長に許可を頂いています。

こんにちは!救急が好きな医学生、まっすーです!
2023年5月、実習で日本初の救急クリニックでお世話になり、色々新鮮だったので備忘録&シェアハピ!
全部書いたら約9000字とかいう大作になってしまったので2分割です。後編の今回は約5000字です。
前回は実習の経緯や実習内容が中心でしたが、後編の今回は実習で学んだことや感想・考察がメインです。

ちなみに前編記事はこちら。

もちろんですが所属機関等を代表する発信ではないですよ〜。


実習での学び

クリニックが果たす役割

地域で高次病院に行きがちだった非重症・非緊急患者の初期診療を引き受け、高次病院の疲弊を軽減し、救急車のたらい回し問題を解決する意図で開業された川越救急クリニック。
年間の救急車受入は1,000〜1,800台/年、外来受診患者数は11,000〜16,000人/年を推移しています。2008年に年間4万人以上の時間外患者の診療を続けていた大学病院では、クリニックが開業してから10年が経過した2020年には時間外受診患者数が約半分の年間2万人に減少したそうです。
大学病院の時間外受診者の減少に寄与したのは明らかですね。

地域の救急医療の課題を救急クリニック開業で解決した一例を見せていただきました。本当にすごい。大尊敬。

大病院との違い〜医療面〜

CTがあり1泊入院もでき、想像していたよりはできる範囲が大きかったですが、とは言っても転院搬送先の救命センターとはマンパワーも設備も全く違い、評価・介入できることが大きく違いました。

特に印象的だったこととして、高次転院搬送に同行させていただいたことがありました。

この時は運転人員が確保できずに消防の救急車になりましたが…。

情報をまとめて看護師さんと一緒に救急車に乗り込み、不安定なバイタルにヒヤヒヤしながらの搬送。やっと病院に着くと、そこにはよく見学したことのあるような救命センターの風景が。何でもある環境で10人を超える医師が待ち構え、瞬く間に全身同時に評価・介入されていきました。
センターに患者さんを引き継ぐ時、(深夜だったので物理的にも眩しかったですが、それ以上に)何かパァァッと眩しいような、あぁやっと高次病院に引き継げた、よかった(もちろん油断大敵)という少しだけホッとした気持ちになりました。心強すぎた、ありがたすぎる…。
クリニックと大病院にはそれぞれ役割分担がありますが、マンパワー面・設備面でできることが全く異なることを目の当たりにしました。

また、だからこそ病院選定が患者の予後に大きく関わってくるということも実感しました。上記の症例はクリニックへ搬送した後の急変だったためイレギュラーでしたが、搬送後にどこまで評価・介入が可能かという目線も加味して病院選定を行う必要があると実感したし、現場の救急隊の判断はそういう意味で患者の予後に直結してくると感じました。

クリニックはどうしてもマンパワー・設備に限界がありますが、院長はMRIやカテーテル治療も可能にしたいとおっしゃっています。そこまで行くともう病院に近いような気がしますが、挑戦は続く…。

大病院との違い〜運営面〜

医療面でできることも違いますが、もう少しソフトな運用面も全然違います。
クリニックでは業種ごとの分業が大規模病院ほど明確にされておらず、掃除や検査機器の簡単なメンテナンス、薬品の搬入受け入れなどは手の空いているスタッフがカバーし合ってされていました。
小規模運営ならではの人間関係やリーダーシップの取り方もあり、それも踏まえたマネジメントがなされている点も新鮮でした。

地域性によって医療問題も違う

今までも都市部か地方かによって疾患の特徴も医療体制も違うことは感じていましたが、今回の実習では特に色濃く感じました。
院長曰く、クリニックがある埼玉県は人口10万人対医師数が全国最下位(厚生労働省, 令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況)であることと、東京のベッドタウンであるがゆえに夜間の医療ニーズが上がることから、特に夜間の救急搬送困難事案が発生しやすい環境だそうです。
都市部か地方かだけではなく、医療体制の特徴や周りの地域との関係によっても顕著になる医療問題が異なってくることが印象的でした。

前例のないことをやる難しさ

開業当時、日本初の開業形態を取るがゆえに関係各所との調整が難航したお話もお伺いしました。勤務していた病院、開業コンサル、銀行、保健所、医師会などなど、様々なステイクホルダーと相談・調整・交渉してなんとか進めてきたそうです。前例のないことなので、特に行政や医師会との調整は難航したらしく…(先方の気持ちも想像はできますが)。
具体的な調整内容や難航した点を教えていただきましたが、お聞きしただけでも辟易とするような交渉で、医療現場を見ているだけでは想像もできないほど大変だったご様子が伺えました。
前例の無い課題解決がもっと滞りなくトライされていく環境になってほしい…。

歯科との協働

クリニック概要の部分でも少し触れましたが、川越救急クリニックでは歯科医師と歯科衛生士も勤務しており、歯科治療も並行で行っておられます。

ここでも印象的だったことを紹介します。
個人情報のあれで詳細は書きませんが、内因性疾患かもしれないし、歯に病因があるかもしれない患者さんがいらっしゃいました。
まず医者が内因性疾患を精査し、次に口腔内を観察すると、う歯を発見。そのままクリニックでの継続的な歯科治療に繋げられました。
この診療は医師と歯科医師が協働しないとできないものだと驚き、より良い診療のために新しいやり方を模索し続けておられる姿勢に感激しました。

筑波サーキットでの学び

お昼に出していただいたもつ煮定食、美味しかった!

究極の現場活動をされていた筑波サーキットでは、これまた非常に特徴的な学びがありました。

まずは医療→イベントへの歩み寄りとして、用語理解です。例えば、バイクレースで危険な転倒の仕方の一つに「ハイサイド」というものがあるらしいのですが、私は初めて知りました。

ハイサイド
コーナリング中などにグリップを失って空転したタイヤが急激にグリップを取り戻し、バイクが激しい挙動を見せること。ライダーが振り飛ばされることもある。当事者でない人から見ると、バイクが飛び跳ねるように見える。

ヤマハ株式会社 バイクがもっと好きになる ヤマハ バイク ブログ ハイサイド

ハイサイドを始め、医療スタッフの方々はレース用語をしっかり理解して他のイベントスタッフの方々と協力されていました。
救急活動はあくまでもイベント運営の一側面。「運営スタッフ」という意味では同じですね。相手方との共通言語を持っておくことで意思疎通がしやすくなり、こんなに協働しやすくなるのかと驚きました。

また、現場の特徴を最大限加味した活動をされていることも印象的でした。
@筑波サーキットの部分でも少し触れていますが、レース中のコース上での現場活動は非常に危険なので、とにかく早期の現場離脱を目指します。実際、現場離脱した数秒後に、同じ場所に別のライダーが転倒して滑り込んできたこともあるそうで…。
現場の特徴はこんなに多様で振れ幅があるのかと驚きました。

一方で、イベント→医療への歩み寄りとして、救急車には医療バックグラウンドでないイベントスタッフの方も乗られます。もちろん現場活動や医療の知識も経験も無い中で、救命士の方のご指導も受けながら一緒に活動されていました(すごすぎる)。
非医療バックグラウンドのスタッフも交じる中でプレホスピタルの質をどう上げられるかという目線は非常に新鮮で、色々な可能性も感じました。学会発表(結城 清貴, 救急救命士,働き方開拓, 第25回日本臨床救急医学会総会・学術集会, 救急救命士の活用, 2022年5月25-27日.)もされているそうで、客観的評価や再現性も考えられていて流石でした。

個人的な感想・考察

ふう。やっとここまで来ました。まいど長い記事でほんますいません。
ここからは個人的な感想や考察をお届けします。

院長、人生楽しんでる〜!

いやぁ、本当に院長は診療もマネジメントも車も楽しそうにやっておられるんですね。正直、働き方だけを見ていると、「これずっとやれるのか…?」と思ってしまうほどに見えてしまうのですが、実際拝見すると、このお方だったら大丈夫だろうなと(笑)。
もちろん大変なことも多いですが、とにかく人生楽しそうなんですね。
たまに愚痴をこぼされることはありますが、結局好きでやっておられるんだろうなと思います。好きこそもののなんちゃらら。
自分もそういう生き方をしていくぞ!

クリニックのスタッフさんたち最高

院長のキャラが濃いのもあってか、看護師さんも救命士さんも技師さんも歯医者さんも歯科衛生士さんもみなさんキャラが濃い。笑
それぞれの想いや信念を持って、楽しく働かれている様子が印象的でした。
院長の想いに一人、また一人と集まって実現して、そしてそれが続いていることが感動でした。

この記事を院長にお見せしたら、「院長のフェロモンのおかげだという事を強調して下さい。」とのことでしたが…笑
ほんと、愉快なお方ですねぇ(遠い目)。

再現性の担保

とは言っても、夜勤や当直の多い働き方。ここで働きたい!!と思う方は、正直多くはないのかもしれず、再現性や持続可能性はどう設計されるのかなと思っていました。
しかし、院長の熱い想いとアットホームな雰囲気に惹かれるファンもいます。
小規模な分、再現するために必要な人数がそこまで多くなく、少数のファンがいればしっかり回るので、案外大丈夫なのかもしれないなと思いました。

課題解決のあり方

お話を聞いていくうちに、救急クリニックは本当にこの地域のニーズを内側から知っているからこそ実現されたのだろうなと感じるようになりました。
もし同じ地域に大きなERがあって、いわゆる救急車のたらい回しなんてなかったら、救急クリニックは猛烈に必要というわけではなく。
先程も述べましたが、埼玉県の人口10万人対医師数が全国最下位であることと東京のベッドタウンである特徴から生まれる地域特有の課題(1,2次救急の受け入れ先がない)を体感していたからこそ救急クリニックは生まれたし、地域に必要とされ続けているのではないかと思います。

現場の課題があって、それに対する解決策としてのクリニック。この順番を忘れてはいけないなと思いました。
(大きく認識されていない潜在的な課題の場合はまた違うかもしれませんが)

積極的な夜間受け入れは本当にありがたい

総合診療科とのコラボの可能性

院長は3次病院で重症救急を受けていた経験があるからこそ、3次のことを考慮しながら1,2次救急を回せる点が強いなと思いました。
一方で、救急医の中ではやっぱり3次救急が花形のような文化も一部あると思います(私は数をこなすERも、3次重症救急もどっちも好き!どうしようかしら)。
例えば1,2次救急を総合診療の方と一緒にできれば、それぞれの強みややりたいことをカバーし合う診療ができるのかもしれないと思いました。
というか、それがすでに一部の地域では救急科と総合診療科がセットになった診療として実現されていますね。次はそのあたりを見に行きたいと思います。(ここは特に知識や体験がなさすぎて…未熟な考察をお許しください…。)

色々見てると、いわゆる救急車のたらい回しはやっぱり都市部とその周辺地域に特徴的な問題だなと感じたり。

おわりに

約9000字という大作になってしまいましたが、目を通していただいた方、ありがとうございました。
日本初の救急クリニックでの実習は自分にとって新しいことに溢れていて、非常に新鮮で楽しかったです。

目次を作った時点で長くなることが確定していたので腰が重くなってしまっていましたが、やっと書けました。救急クリニックのみなさま、「note書きます!!」とか宣言してたのに2ヶ月もかかってしまい大変お待たせいたしました。貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。また遊びに行かせてください!

最後の当直実習にて(何だこのポーズは…?)
夜中3時くらいだったのに快く写真を撮ってくださいました笑

最後になりましたが、このような実習が可能な大学カリキュラムを作って運用してくださった先生方、校正・校閲いただいた方々にも御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

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