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姉さん女房

〜ホノルル発〜

昨日は夫の誕生日だった。


9日後に訪れる私の誕生日までの間、私と夫は“タメ”になる。


夫は毎年決まって「同い年なんだから威張るなよ」と言い(威張ってるつもりはない)、出会った日に私が犯した年齢詐称の罪を咎めるのだ。


22歳のある夏の夜、ワイキキのディスコで私と夫は出会った。(*一部の人には学校で会ったことになっている)


当時、今より15キロ近く痩せていたヤツはかなりのイケメンだったので、「踊らない?」と誘われたとき、私は心の中で思わずガッツポーズをしてしまった。

踊っている間、ヤツは手の甲に押された(飲酒できる21歳以上を証明する)スタンプを私に見せながら「やっとこれをもらえる年齢になったんだ〜」と喜んでいた。

そのスタンプを1年前からもらっていた私は、なぜか聞かれてもいないのに「私も!」とヤツに同い年であることをアピールしていた。


そのときのカワイイ嘘を、30年以上経ったいまでもイジられている。


いま思うと、あんな嘘をついた自分が不思議でならない。というより信じられない。


当時の私は年下の男性と付き合ったり、結婚したりすることに抵抗があったのだろうか。姉さん女房は「夫を尻に敷く」というイメージを抱いていたからなのだろうか。


どちらにしろ、年齢をごまかしたということは、すでに夫に好意を抱いていた。それは間違いない。


ところが夫によると、ダンス中の私はかなりつまらなそうな様子だったという。2、3曲踊ったところで「そろそろ休もうか」とヤツは言い、フロアを降りて、手を振る友だちを見つけると、私の肩をポンポンと叩いて「楽しかったね」と微笑んだ。


「またあとで踊ろう!」


誰かが言った。

いや、私が言ったのだ。

ヤツはちょっとだけ驚いていたが、言った本人が一番驚いた。


その晩、ヤツからもう一度「踊る?」と誘われた。帰り際に自宅の電話番号(携帯電話も持っていないし、LINEもフェースブックもなかった)を教えあった。


気づいたら、今年で結婚30年。


付き合ってしばらくして、実は1歳年上であることをヤツに告げた。そのときは「気にするほうが不思議だ」と気にも留めない様子だった。なのに…


いつからか「騙された」と、私のついた些細な可愛らしい嘘をみんなにバラし、娘にもバラし、昨日の誕生日もやっぱり「しばらく同い年だから威張るなよ」と偉そうに言い、あの夜の出来事を振り返るのである。

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