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『桐島、部活やめるってよ』TRPG その1(概要)

0 イントロダクション

 あの桐島君が部活をやめたという事を、私ですら知った。
 月曜日、ホームルームが始まる前に駆け込んできたバレー部員の男たちと桐島君の彼女がモメているのを聞いて知ったのだ。
 へーっと思う私は机に突っ伏している。これが私の、今日一日の基本スタイルになる。
 別に眠いわけじゃない。夜は眠り過ぎているほど眠っているので、アタマは冴えているし、耳だってよく聞こえる。教室のざわめきが、ざわめきとしてではなく、しっかりとした言葉となって聞こえるくらい。私は聞いている。私に関する話が、出てきていないかどうか――。
 休み時間になっても、授業中も、とにかく私は眠っているような格好でいる。話しかけられたらまずいからだ。

 もし、誰かに話しかけられたら、私は「私」を削られてしまう。これ以上「私」が削られたら、学校に来ることは出来なくなってしまう。ここにいられなくなる。だからこうしている。
 こうでもしないと私は、「日常」をこなす事が出来ない。

 桐島君に指を掴まれたのは、先月の事だ。

 左手を前にして机に突っ伏す私の、机からはみ出た指を、桐島君は、何の気まぐれか、ぎゅっとつかんだのだった。驚いて私は上体をあげる。顔を見る。桐島君は笑っていた。

「指、なんか、にゅっとしてたからさ」。

 そして桐島君はいなくなった。そもそも桐島君はこのクラスの人じゃないし、なんで私なんかに声をかけたのか、指をつかんだのか。そんなに私の指は、にゅっとしてたのか。にゅっとしてるという私の指は、なんなのか。

 あの桐島君が、部活を辞めたっていう。
 だから何? 私、関係ないし、と思う私の、それでも指は、机からはみ出ていて、左手の、この指は。
 私の指は、まだにゅっとしているのか、していないのか。そもそも、にゅっとなんか、していなかったのかどうか。

 桐島君がいない教室で、私は小さく、はみ出ている指をグーにして、丸めた。

1-1 概要

 朝井リョウ原作、吉田大八監督の映画『桐島、部活やめるってよ』を題材とした、オリジナルテーブルトークRPGである。
 (TRPGとは何かとは、各自検索の事……)
 このゲームは、プレーヤーが『桐島』世界の高校生のキャラクターを創作し、彼らの行動をプレーヤーが操作し、意思を決定することを通して『桐島』世界を味わい、”現在に生きている高校生の世界”を体感するゲームである。

(原作著者、出版社、映画制作者とは全く無関係に作成している二次創作です。)

1-2 ゲームに必要な物

参加者
 ソロプレイも可能。最大で4人程度。少人数の方が円滑に進む気がする。 参加者全員全員、『桐島』の映画を見ていることが望ましく、またもちろん、原作小説を読んでおくにこしたことはない。

六面体ダイス
 一人あたり二つあればよい。以降六面体ダイスを「D6」と表記する。「2D6」とは、二つのサイコロを振る、という意味である。

・筆記用具
 消しゴムなどで消せるものが望ましい。

・各種シート類

 キャラクターシートは各自一枚づつ。下記よりダウンロードできます。
 桐島、部活やめるってよTRPGキャラクターシート 
 エクセルファイルはこちら

 その他ゲームマスター(司会者。GMと呼称)は、登場させたいNPCのシートと、日常点管理シート、ボーナスポイントリスト、レギュレーションによってはNPC行動タイムテーブルが一枚あるとよい。これも下記よりダウンロード可能。
 主要登場人物NPCシート サブNPCシート オリジナルNPCシート
 日常点管理シート
 ボーナスポイントリスト
 原作NPC行動タイムテーブル 

・原作小説と映画版のシナリオ
 原作小説は集英社より発売。文庫化もされている。
 シナリオは『月刊シナリオ』2012年9月号に掲載されている。
 ただし入手はやや困難。大学図書館などで閲覧は可能。

1-3 ゴールデンルールというか前提というか

 このゲームは、一般のTRPGとは異なり、いわいる、勝ち負けであるとか、特定のミッションのクリアを必ずしも目的としない。
『桐島』世界の高校時代を、味わう事が第一のゲームである。そのため、参加者は、このゲームで「楽しむ」事や「盛り上がる」事を最優先にする必要はない。
 あくまで、「このキャラクターならこう動き、こう思うだろう」という事を味わうのを最優先としたプレイングとマスタリングが望ましい。
 とにかく、盛り上がろうとしないでほしい。無理して他人を楽しませようとしないでほしい。

1-4 レギュレーションの選択

 このゲームは、映画版の『桐島』を題材にしている。原作小説とは異なるストーリー展開や舞台設定があり、キャラクターメイキングはそれによって大きく左右される。
 ひとまずこれ以降のキャラクターメイキングやルール進行は、映画版の『桐島』に合わせて作成されている。原作設定が煩わしい場合や、原作に左右されない単なる「学園物」のTRPGとしてルールを運用する場合は、自分なりに変更を加えると良い。

1-5 桐島TRPG・映画版レギュレーションによる舞台設定と目的

 作成キャラクターは全員『松籟第一高等学校(しょうらいだいいちこうとうがっこう)』の二年生である。
 季節は秋(夏休み後で、肌寒さを感じる季節。11月25日(金)~29日(火))。
 その中の「金曜日」「月曜日」「火曜日」の三日間をロールプレイする事になる。

 キャラクターは、その三日間で、【行為判定】を出来るだけ行い【日常点】を稼いで「私」が0にならないよう気を配りながら、「桐島」が不在となった世界でスクールカーストを維持しつつ、「この世界で生きていく」事が目的である。

キャラクターメイキング編へ続く→

(写真:ニシデアンナ

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