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レターパックで「干しイモ送れ」はすべて詐欺

2023年の4月1日、レターパックが届いた。
差出人は実母。中身についてはこう書かれている、「干しイモ」と。

母からは時々ではあるが郵便物が届く。たいていは、何かしらのイベントごとがある場合だけだ。母から見て孫の誕生日であるとか、何かの記念日的な日であれば郵便物が届いても不思議ではない。

しかし今回は、取り立ててそのようなイベントはない。少しふくらんだレターパックを裏返しにして、封を開けようとすると目に入ってくる文字がある。

「レターパックで現金送れ」はすべて詐欺です

レターパック - 郵便局

その日は特にイベントごともない、ただの4月1日だった。

レターパックに書かれた注意喚起を見ながら、幼少期のさまざまな思い出がよみがえってくる。母のせいではないのだが、我ながら大変な幼少期を過ごしてきた記憶がある。それは主に金銭面でのことだ。そうした事情もあってか、母は何かというと現金を渡してくれる。以前であれば、自分の稼ぎで食えるようになっているのに母から現金を受け取るのは、なんだか申し訳ない気がしていた。しかし私自身が子どもを育てるようになり、「子どもに何かをしてあげられるというのが親自身にとっても嬉しいことなのだ」と気がついてからは、そうした現金もありがたく受け取るようになった。母は子育て期にできなかったことを、今やっているのかもしれない。

そういえば大昔、私がとある途上国に住んでいたころに、日本にいる母が現金を忍び込ませたEMSを送ってきたことがある。巧妙に隠した現金だったが、税関でそこだけ抜き取られるという事件があった。たしか、日本のスーパーで売っている普通の平たい海苔の封を開けて、海苔と海苔の間に日本円の紙幣を入れた封筒を挟んでいたんだったか。さすがは途上国の税関で、めざとく見つけてそこだけ抜き取っていた。もちろん取り返すことはできなかった。

母はたとえ私が地球の裏側に住んでいても現金を送ってくる強者なので、現金などいらないと断ったところで聞く耳持たないだろう。さすがにそのときは、EMSには現金を入れてくれるなと強く言っておいたのだが。

で、この干しイモ。レターパックで干しイモが届くという話は聞いたことがない。干しイモは乾物に分類されるのだろうか、よくわからないが、ふつうレターパックで食品は送らないだろう。レターパックという名前なのだ。レターを送るのが正道であり、干しイモは邪道だ。ひょっとすると「干しイモ」の文字を組み替えたり重ねたりすると「ゲンキン」みたいな文字になるのではないか?可能性はある。新手の暗号、いわば干しイモ暗号だ。あるいは、干しイモ自体は本物なのだが、その中に紙幣を忍ばせる手口もあり得る。母のことだ、海苔事件の反省を踏まえて、簡単な方法にはしないはずだ。紙幣をくるくる巻いてのりを付けて、干しイモそっくりにしたダミーをしれっと紛れ込ませていてもおかしくはない。間違ってかじったときに初めて諭吉さんの存在に気付く仕掛けだ。

期待しながら封を開いて中身を取り出すと、はたして平たい型紙の上に干しイモがびっしりと並び、その全体にラップがかかっていた。さらにラップの上をビニールテープが3周ほどぐるぐると巻かれていて、干しイモが偏らないよう工夫されていた。作りが巧妙だ。

目をこらして干しイモを見てみる。どこかに紙幣が紛れていないか、と。重なり合う干しイモをずらして奥の方までよく見てみるのだが、ない。現金は入っていない。ダミーもない。

予想は裏切られた。がっかりではない。予想していた結末とは違っただけだ。取り越し苦労だったと言ってもいいのだろう。

2023年の4月1日、母から干しイモが届いた。




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