例の雑誌と『熱源』のこと

例の雑誌が昨日入荷し、未だかつてない売れ行きを見せている。
うちとしては異例のスピードだ。
もちろん、購入される方は全員が全員「あのコピー」に同調しているわけではないだろう。それでも、雑誌が売れる度、売り上げが上がるのは喜ばしい事だと言うのに、どこか後ろ暗い気持ちになる。

週刊誌どこ?と、お問い合わせを受ける。
普段うちで本を買わない方なのだろう、わざわざこの為に足を運ぶ。立ち読みで済ますのでは無く、購入する。
センセーショナルな見出しを付ければそれだけ世間の注目を集め、それだけ売れるのだと言う事か。そういう世の中に、なってしまっているのか。

そんな中、また一人カウンターにやってくる。
「反日の…」あぁまたか、そう思ったら、違った。
韓国でベストセラーとなっている、『反日種族主義』という本のお問い合わせだった。今韓国で、この反・反日と言える本がベストセラーだと言う。

残念ながら、まだ日本語訳は発売されていなかったが(今後、どちらの版元からか、出版予定はあるようだ)、お問い合わせに来た方は、「韓国も、日本も、みんなが“そう”じゃない。自分は韓国に何十回も行ってるし、何十人も友達がいる。みんなすごくいい人たちなんだ。」と笑顔で教えてくれた。「そうですね」と答えるのが精一杯だった。声が震えた。

最近読んだ、川越宗一さんの『熱源』は、まさに異民族の心の交流を熱く描き切っていた。


第二章に忘れられない場面がある。
サハリンの先住民族・ギリヤークについて「異族人たちに我々の文化を理解するだけの知性はあるのか?」と質問を受けたブロニスワフ。
彼は囚人という身分でサハリンに更迭され、過酷な開墾労働に人間としての尊厳を失いかけていたところを、ギリヤーク達との交流に救われている。
彼はこう答える。

「ただ人が、そこにいました。」

そうだ、私達はただ等しく“人”だ。
この言葉は、今、この時代の暗流に揉まれる私達を導く、一筋の光ではないか。
“開拓”も、裏を返せば“侵略”に過ぎず、与える事は、既に持っているものを奪う事でもある。何が善で、何が悪なのか。物事は、一面からでは、決してその全貌を把握することは出来ない。
迷った時は、私たちの隣人が、ただ等しく人であることを思い出したい。
この言葉が、物語が、信じる熱が消えかけた時、何度でも胸に火を灯してくれるだろう。
あなたの『熱源』となり、その歩みを確かにしてくれる物語。
是非今、この瞬間に、あなたにも読んで欲しい。

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