見出し画像

「カムイ伝」をどう表現すればよいのか(その1)〜白土三平の偉業

名作と言われるマンガは数多くある。その中でも、白土三平の「カムイ伝」シリーズは、大きな山脈のようにそびえ立っている。

作品を発表するために、マンガ雑誌の創刊まで紐ついたのは、 手塚治虫の「火の鳥」ー「COM」と、「カムイ伝」ー「ガロ」だけであろう。

その「カムイ伝」シリーズ、「カムイ伝全集」版で第一部15巻、第二部12巻、「カムイ外伝」11巻、全38巻の超大作である。

私は随分前に購入していたのだが、なかなか読み始めることができなかった。手をつけるのだが、その世界の重さに断念していた。

そうしたところ、昨年の10月に白土三平が逝去した。いよいよ、追い詰められた感じがして読み始め、最後まで完走した。作品が描く世界は予想以上に大きいものであり、「カムイ伝」シリーズを通読することは、自分にとって大きな出来事のように思えた。

なお、私は発表順に一定程度配慮し、「カムイ伝 第一部」「カムイ外伝」「カムイ伝第二部」の順で読んだ。

読んだ本やマンガ、観た映画やドラマそして舞台については、好きになれなかったもの以外は、私自身の記録として書いてきた。

しかし、「カムイ伝」シリーズは、そのスケールの大きさから何を書けばよいのか、手がかりがつかめないまま、日々が過ぎていった。

「カムイ伝」は一回通読した程度では、簡単に紹介することなど到底不可能な、広く深く、様々な生き物が生息する森のようなものである。

カムイというのは、夙谷非人村に生まれ忍者となった男の名前である。「カムイ伝」の第一部の中盤になって、赤ん坊時代のカムイがようやく登場し、白いオオカミとの象徴的な出会いがある。

ただし、「カムイ伝」における、“カムイ”は物語全体を象徴する名前とも言え、マンガは壮大な集団ドラマである。

忍者となったカムイは、組織を飛び出し”抜忍”として追われる立場になる。それは、江戸時代において巧妙に作り上げられた、階級性をベースとした社会秩序から飛び出し、さらに破壊しようとする人物の姿であり、それは忍者カムイに限らない。

「カムイ伝」の主人公の一人である、下人の正助、武士階級に属する日下竜之進や笹一角、そして名もなき農民たちなどが、時代の流れに立ち向かい翻弄されていく。そうした集団が総体として”カムイ”とくくられ、彼らの人生が”伝”として描かれる。

「カムイ伝」を本伝とするならば、「カムイ外伝」は多くの人生が流れる背後で、”抜忍”として戦う忍者カムイに焦点を当てた物語であり、「カムイ伝」の語感によりフィットした作品だ。アニメ化、映画化されたのが、「カムイ外伝」なのは、こうした構造であるが故である。

「カムイ伝」シリーズは、このように本伝における集団劇と、外伝における忍者カムイの個の物語が、見事に絡み合うことによって、描かれる世界の厚みと、エンターテイメント性を具有した稀有な作品なのである。

これを読んだとて、「カムイ伝」とは何か。そして、この巨大な作品にどうアプローチすべきかは不明だろう。少しでも手がかりを示すために、次回は私が並行して読んだ本を紹介しよう


画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?