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これだから落語会通いがやめられない(その2)〜一之輔春秋三夜(初日)

(承前)

「一之輔春秋三夜」初日の後半、高座に上がった春風亭一之輔はマクラで、“おこわにかける“という表現について話した。今や日常的に聞かないが、人をだますという意味である。

さらに、「美人局(つつもたせ)」について。これまた、分からない現代人が多いだろうが、男女のカップルがなれあいで人を騙すことを言う。女性がカモとなる男を誘惑し、部屋に連れ込む。二人がいい雰囲気になったところで、女のパートナーが現場に乗り込んできて、「人の女に手を出しやがって」とスゴみ、カモの男から金を巻き上げるという寸法である。騙された男は思わず「おぉこわ〜」、“おこわにかけられた“ということだ。

「おぉこわ〜」は一之輔の思いつきだと思っていたのだが、広辞苑第八版にこうあった。

お・こわ【お恐】(オオコワ(恐)の約)人をだますこと。詐欺。ペテン。特に美人局にいう。
→お恐に掛ける 解説:一杯くわす。美人局にかける。

そうだったのか、知らなかった。落語を聞くと勉強になる、役には立たないことが多いが。なお、一つ前の見出しが “おこわ【御強】“、<こわめし。赤飯>という意味である。

落語ファンであれば、このマクラを聴けば演目を察する。名作中の名作「居残り佐平次」である。

四人の友人と品川の遊郭・大店にした佐平次。よったりを先に返し、翌朝・翌晩と居続け酒肴を楽しんだ挙句、勘定の段になると無銭だと開き直り“居残り“を決め込む。

お調子者で気がきく佐平次は、次第次第に遊女たちに頼られる存在となり、店に上がる客たちの間でも人気者に。中には、「座敷がさびしいな。ちょっとあの“居残り“呼んでくれ」とご指名が入るように。。。。

落語の演目の中で、好きなものを挙げろと問われると、私は「居残り佐平次」を必ず入れるだろう。

六代目三遊亭圓生古今亭志ん朝立川談志の音源を愛聴してきたし、ライブでは柳家小三治、立川談春の名演に触れることができた。そして、今夜は春風亭一之輔で聴ける。“これだから落語会通いがやめられない“。

ピカレスク小説ならぬ“ピカレスク落語“で、人を騙す佐平次をチャーミングに描かなけらば、後味の悪い印象になる。その点、一之輔の佐平次は、突き抜けたノリで周囲を煙に巻き、憎む余裕を与えない。その武器の一つは、太田光のように指を鉄砲に見立て“バン バーン“と相手を撃つ。これは一之輔ならではの演出である。

佐平次の最終的な目的は遊郭で客や遊女を楽しませることではない。冒頭の“おこわにかける“ことである。さて最後にはどうなることやら。

前半同様、こちらも“たっぷり“で、入口に掲載されていた終演時間からは30分以上超過でした。

実はこの会、昨年・一昨年と行ったので今年はパスしようかと思っていた。ところが、「笑点」を観ていた時に、「一之輔行きたい」と妻がつぶやいたのだ。確かに私は今年3度彼の高座に接しているが、いずれも一人だった。そこでチケットをアレンジしたのがこの日の会だった。

こういうこともある。おかげでよい高座を見せて頂きました。ありがとうございます

なお、二日目の三席目は「中村仲蔵」、最終日は「柳田格之進」だったようです


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