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ピエール・ルメートルという作家(その1)〜「炎の色」という復讐譚

ピエール・ルメートルというフランスの作家、2014年に日本で翻訳出版された「その女アレックス」が、年末の各種ミステリーベスト企画で1位を総なめにし、衝撃を与えた。私も早速に読み、大いに楽しんだ。

その後、「悲しみのイレーヌ」(「その女アレックス」の前作)、「死のドレスを花婿に」と読み進んだが、ミステリー作家という枠組みの中にはとどまらないことを示したのが、日本では2015年に刊行された「天国でまた会おう」である。

ルメートルは、この作品でフランスで最も権威のある文学賞の一つであるゴンクール賞を受賞する。第一世界大戦を背景にした、ちょっと奇妙な復讐譚は、発想のユニークさ、痛快さで読み始めると止まらない小説だった。

「悲しみのイレーヌ」、「その女アレックス」は、カミール・ヴェルーベンという警部を主人公とするミステリーで、シリーズ化するのがミステリーのよくあるパターンだが、ルメートルは3作目の「傷だらけのカミール」であっさりカミール警部の物語を終了させる。

一方で、「天国でまた会おう」は、歴史ミステリー3部作の1作目と位置付けられ、2018年第2作「炎の色」が刊行された。私は購入後すっかり忘れ、“積ん読”状態だった。そうしたところ、今年になって3部作の完結篇「われらが痛みの鏡」が発売され、慌てて「炎の色」を読み始めた。

なお、3部作の正式な名称は、“Les Enfants du désastre”、“災厄の子供たち”3部作という感じであろう。そして、“災厄”の主たる要因は世界大戦である。

「天国でまた会おう」は、銀行家の家に生まれ第一次大戦で負傷した、エドゥアール・ペリクールとその戦友マイヤールの社会・戦中の上役などに対する復讐譚だったが、「炎の色」の主人公はエドゥアールの姉、マドレーヌの物語となる。

ドラマは2人の父、銀行家/実業家マルセルの死から始まる。そして、その葬儀の最中、マドレーヌの息子ポールが、屋敷の3階から飛び降りる。ポールは一命を取りとめるが車椅子生活となり、母マドレーヌとの人生ドラマが始まる。

物語が進むにつれ、前作同様に復讐譚になっていくのだが、それは相対的にはマドレーヌのパーソナルな動機が軸となっていく。ただし、ナチスが登場するなど、背後に第二次大戦の影が見え隠れする。

そしてドラマを彩るのは、見事にキャラクターが立った脇役陣であり、ルメートル作品のエンターテイメント性は相変わらず高水準である。訳者あとがきには<人間の欲、愛と憎しみが絡み合って展開する壮大な群像劇>と表現されている。

フランスの復讐譚といえば、アレクサンドル・デュマの「モンテクリスト伯」だが、著者は謝辞で、<我が師たるデュマに捧げたこの作品>と書いており、ルメートルがフランスの小説における王道を意識しているようにも見える。

さて、“災厄の子供たち”3部作の完結篇はどうなるのだろうか


尚、「炎の色」は前作を読まずとも問題なく楽しめる独立した作品となっているが、細いが興味深い糸でつながっているので、「天国〜」から読まれることをお勧めする。止まらなくなる面白さを保証する


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