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伊丹十三の映画が観られる‼︎(その7)〜三國連太郎の魅力あふれる「大病人」

伊丹十三の監督第七作が、1993年の「大病人」である。公開当時、私の二人の娘は2歳と6歳になり、この作品の頃から、しばし映画館からは疎遠になった時期のように思う。そのせいもあって、「大病人」以降の作品は、今回が初見である。

日本映画専門チャンネルの伊丹十三劇場、「大病人」の再放送は4月8日に予定! いやもう終わっている。この文章、とっくの前に書いていて、放送前にアップしようと思っていたのに、ハワイ旅行で忘れていた。まぁ、そのうちまた放送するだろう。

「大病人」、私は好きな作品である。主人公は映画監督・向井武平、自演する作品は癌に冒された作曲家と、同様の病となる妻との物語である。この監督が、実生活の中でも喀血し、シリアスな病状となる。この入れ子構造が、死にいたる病気に苛まれる人間の心理を、多面的に描く。

向井監督を演じるのが三國連太郎で、この映画は三國の魅力が全編に溢れるものとなっている。 彼がいなければこの映画は成立しないし、名優と伊丹十三という作り手が、タッグを組んで映画が制作できたことが素晴らしい。この映画を見たので、私にとっての三國連太郎は、若き日の「飢餓海峡」、「釣りバカ日誌」のスーさん、そしてこの「大病人」である。

劇中劇としての映画で、妻役を演じるのが高瀬春奈。彼女は、これまでも伊丹映画に出演しているが、「大病人」では旧作以上に重要な役どころ。映画の中の映画で病魔に襲われるためか、これまでの作品の時よりも体重を落として役作りしたように見える。

向井監督の妻役が宮本信子。「タンポポ」以降の主役ではなく傍に回るのだが、高瀬春奈とのコントラストも含めて、素晴らしい。浮気がやまない向井(あえて繰り返し書くが、演じるのは三國連太郎)に愛想をつかせながら、病気が判明すると態度が変化する。

そして主治医には津川雅彦。看護婦役の木内みどりも良い。役者は揃った。

今や、医学が発達し癌も治る可能性が高まる中、社会の考えた方も変化し、患者に告知することが普通になった。仮に死期が迫っていたとしても。この映画の時代は、まだ患者への告知についてコンセンサスができていなかった。

伊丹十三は、ドラマをコミカルにそして「ミンボーの女」と比較すると、はるかに“おしゃれ“な作りになっている。そして、その喜劇的な作りの中に、死に直面する人間の姿、それをケアする周囲のあるべき態度についての課題を投げかけている。

詳しくは書かないが、“般若心経“のシーンは、最高である。

*予告編はこちら


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