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こんな風に思うのは私だけだろうか〜ジャニーズタレントCM打ち切り問題

先般の、ジャニーズ事務所の記者会見を受け、同事務所所属のタレント起用打ち切りを決めた企業が散見される。これに対して、違和感を感じている人は多いだろう。GACKTの言葉を借りると、“手のひら返し“に対する不愉快さである。私は、GACKTとは別の観点から思うところがある。

サントリーHDの社長でもある、経済同友会の新浪剛史代表幹事は、記者会見で本件について「絶対あってはならない」「対応は不十分」と厳しい発言をし、同社としてもタレントの起用を見送り、「毅然としたスタンスを示さなければならない」と話した。


一方で、起用を継続している企業もある。私は、これについて“良い・悪い“を言うつもりはない。それぞれの企業の判断であり、絶対的な答えはないだろう。ただし、なぜ起用を継続するのか、説明責任は果たして欲しい。

それでは、何を思っているかと言うと、「起用中止を決めた企業を中心に、これまで一体何をやってきたのだろうか?」、不作為はなかったかということである。それについて、新浪氏や企業はどう考えているのか、“真摯に反省しているのか“、今のところ何も出てきていない。今まではなぜよくて、今回なぜ“手のひらを返した“のか。

私は特段の興味もなかったし、当時はイギリスにいたので、1988年の北公次の告発本、1999年に始まる週刊文春の報道、 ジャニーズ事務所による名誉毀損の提訴といった流れは、まったく知らなかった。裁判は、東京高裁でジャニー喜多川元社長の行為に関し事実認定、さらに最高裁に上告されたが、2004年ジャニーズ側の敗訴が確定した。これも、今回の一連の報道で知った。

私や多くの一般人の知り得ることではなかったかもしれないが、当時ジャニーズ事務所のタレントを起用していた企業、あるいはその後に起用することになった企業は、“知らなかった“ですまされることだろうか?

企業がある会社と取引をする。その会社の経営陣等、実態的に支配している人間に問題がないか調べることは当然にして行うべきことだろう。OECD始め国際的にも、企業の人権尊重責任が重要になる中、経団連の「人権を尊重する経営のためのハンドブック」など、さまざまなところで、取引先における人権侵害リスクに対する対応責任が盛り込まれている。

最低でも2004年の判決以降、ジャニーズ事務所と取引を行う企業は、詳細な報告を求めるべきだったであろう。そして、その回答が不十分であれば取引を停止するチャンスがあったはずだ。そうした動きが強まれば、少なくとも判決確定後の被害は防げたはずである。

本件の調査報告書は、本事案の背景として<メディアの沈黙>(報告書より、以下同)を挙げている。メディアは<ジャニーズ事務所はメディアに所属タレントを出演させることによりそのビジネスが成り立っているところ、メディアはその取引関係先において人権侵害が行われていないか十分な精査をする必要がある>といった観点から、その責任は重い。

しかし、同様の文脈で考えると、CMにタレントを起用してきた企業、それを仲介している広告代理店にも責任の一端があると考えるのは、私だけだろうか?

先日、コーポレート・ガバナンスについて書いた際、当事者(この場合、ジャニーズ事務所)の顧客や取引先を含む“関係者“も、当事者のガバナンスと無関係ではないという趣旨のことを書いたので、ご興味あれば参照されたい。

そして、調査報告書は“再発防止策〜メディアとのエンゲージメント(対話)“の中に、<(人権侵害の)事実を頑なに否定して何ら適切な対応をしてこなかったジャニーズ事務所は、メディアその他の取引先等が適切な人権デュー・ディリジェンスを実施するならば、人権尊重・保護の見地から問題のある企業として取引を断絶され、企業として存亡の危機に立たされることがあってもおかしくない立場にあったものと考えられる。>としている。

企業は取引先の不正に対して沈黙すべきではない。それが、いかに大事な先であっても。そして、経済界のトップは、“ジャニーズ事務所“=“悪“といった単純な構図を唱えて自己防衛するのではなく、本件を奇貨として、人権尊重やより良い社会の実現に対する企業責任について、真摯に振り返り、将来に向けての警鐘をならすべきだと思う



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