弟、番外編


 人魚姫のお話には続きがあります。
確かに末のお姫様ではありましたが、彼女の下に人魚の弟がおりました。人魚の王様の跡継ぎです。普段は帝王学を学ぶことに忙しく、お姉様方とは一緒に遊ぶ機会もありません。が、末のお姉様がよりにもよって人間の雄に恋をし、陸の生き物となって以来、それはそれは心を痛めておりました。
そうして、この末のお姉様が恋に敗れ、海の泡と消えた時、彼は果敢にも海の魔女に会いに行きました。
「魔女よ、私の姉上を泡に変えた事ができるなら、もう一度泡を姉上に戻す事ができるに違いない」
魔女はこの高貴で見目麗しい若い人魚の王子の願いならば何でも叶えてあげたいと思ったのです。それは最も難しい魔法ではありました。引き換えにするものは魔女の命。死ぬ訳ではありません。魔女自身、最も身の内の清い生き物に生まれ変わる事になるのです。具体的に何に生まれ変わるのか、魔女にさえ分かりません。が、魔女はこの人魚の王子のために、末の姫を泡から再生させました。
再生した姫はもう、すっかり人間の雄への恋が冷めていました。
魔女は・・海鼠に生まれ変わりました。無口で利口な海鼠に。


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