コーヒー牛乳

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 昨日弟に電話した。スマホも携帯も頑として持たない弟が家電に出でくれた。 「どうかしましたか、お姉さん?」 弟の口調はいつも丁寧で優しい。 「お母さん、どお?相変わらず夜中、頻繁に起きるの?お父さんと信夫さんも疲れてるでしょ?」 「あ〜、まあ今のところ何とかやってます。大丈夫ですよ。夜中は相変わらずよく目を覚まして僕やお父さんを呼びますが・・」 母は頻尿だ。夜は特に。足腰が弱っていて独りではトイレに行けない。弟か父の助けが要る。紙パンツをはかせても、どうしてもトイレに行くと言

    • 弟は携帯電話もスマホも持っていない。 自室にパソコンはあるようだ。 今時、スマホ持たないってどうなのよ!? 弟と連絡したいときは家電にかけるしかない。 或いは手紙。 ・・でも最近、これって良いなあと思っている。 もしも弟がスマホを持っていたら、私はもっと頻繁に彼と話し、母の様子を尋ね、心配をすることになる。 変わった弟。 そういえば、母は認知症になって以来、美容院に行くのを嫌がる。怯える。怖がるものを無理矢理連れて行くわけにはいかない。 弟は最近、通販で掃除機のノズルに取り付

      • 読んでくださる方々、サンキュです。 つまり私には信夫という、五十代独身、無職の弟が独りいて、故郷で両親と同居しています。 母の認知症は日々進行中。父は介護疲れで電話をすれば愚痴ばかり。免許のない父に代わって、弟が母の通院や、家の買い物をしています。 私? 私は首都圏に夫と暮らしています。 故郷から私を連れ出してくれる人を夫に選んだので。 昔から母のことは苦手だったから。 かと言って母との間に波風立てても仕方がないし、結婚って故郷を離れる絶好の機会。 そう、かなり嫌な奴、私は

        •  母がまだ認知症を患うずっと前、「信夫はもう就職も結婚もしないでこのまま私たちと暮らすのだろうか・・でもきっと私が認知症にでもなれば逃げ出すだよ・・」と私に言った事がある。 「お母さんは認知症にならないし、信夫のことは何とかなるよ、人に迷惑かけている訳じゃないんだから」と、私は適当に母を慰めたように思う。 あれから何年経っただろうか? 母は認知症になった。 数分前の事も忘れてしまう。 逃げ出したのは弟ではない。 私だ。 電話も帰郷も避けている。 愛しているから辛いんだよ・・

          弟、番外編

           人魚姫のお話には続きがあります。 確かに末のお姫様ではありましたが、彼女の下に人魚の弟がおりました。人魚の王様の跡継ぎです。普段は帝王学を学ぶことに忙しく、お姉様方とは一緒に遊ぶ機会もありません。が、末のお姉様がよりにもよって人間の雄に恋をし、陸の生き物となって以来、それはそれは心を痛めておりました。 そうして、この末のお姉様が恋に敗れ、海の泡と消えた時、彼は果敢にも海の魔女に会いに行きました。 「魔女よ、私の姉上を泡に変えた事ができるなら、もう一度泡を姉上に戻す事ができる

          弟 

           弟というタイトルで書き始めたが、これは私自身の話、なのかもしれない。  今現在、母は認知症を患っている。 両親は地方公務員だった。ふたりとも貧しい家の出身。高度経済成長の荒波を、中卒の母と夜間高校出身の父は、負けるものかと泳ぎ続けた。学歴の無い両親には出世は望めない。が、定年まで二人で働けば、二人分の退職金と年金が入ってくる。それだけが母の心の支えであった。 弟が大学と美術専門学校を卒業しても、就職する気がない事、この先もずっと無職で居続けること、それを母が受け入れた、と

          弟は令和五年現在55歳である。 無職の独り身だ。 大学を卒業して地元の中小企業に就職したが、出社した当日に辞職した。「美大を目指して浪人します」と言って。 母は激怒したが、結局彼の希望を受け入れた。彼は東京芸大に二度落ちた。結局地元の美術専門学校へ通った。卒業はしたが、就職はしなかった。そのまま今に至っている。 弟が未だ三十代だった頃、両親は実家を二世代住宅に建て替えた。彼が何処かへ就職してやがて結婚することを夢見て。 が、彼は頑として就職せず、しかしながら家族に対しては常に