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コラージュ

 湿気ったワンルームマンションから彼女を連れ出し、23時の肌寒い住宅街を二人、静かに歩いていく。横目に過ぎる一軒家、アパートは息を潜め、生者の気配を感じない。月のない夜だ。控えめな星は、この中途半端な都会では見えない。しかし、夜空はいつもより繊細だった。度のあっていない眼鏡越しでも感じる、触れればガラガラと音をたてて崩れ落ちてしまいそうな、そんな夜だった。
 いや、夜に最後があるなら、きっと静かに崩れ落ちていくのだろう。冷たい空気が肺を満たし、なんとなく許された気分になる。

 彼女は一言も喋らない。最近は、原稿の締め切りが近づいているのに、全く筆が進んでいなかった。ごみ箱にはいつもより多くの缶ビールが捨てられていた。夜には、シャワーの音だけが聞こえる時間がいつもより長かった。
 はっきり言って、彼女がどんな仕事をしているか、詳しくはわからない。わかったとしても、何かを創造する人の苦しみを理解できる日が来るとは思えない。
 だから、彼女を現実から連れ出したかったのだ。少しでも彼女のためになれば良い。

 ワンルームマンションから少し遠くに止めた車までの道、誰ともすれ違うことなく、無音映画のように静かに時間が過ぎた。彼女は結局一言も喋らず、そのまま車に乗って、綺麗な星を見にいくことにした。


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ーーー未明、S市O川の河川敷で身元不明の遺体が発見されましたーーー


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「他殺サイト? 自殺サイトじゃなくて?」

「他殺サイト。死にたい人と殺したい人のマッチングサービス」

 美咲は目をキラキラさせながら、スマホの画面を見せててきた。黒い背景に赤文字。いかにも怪しいサイトですって感じ。

「このサイトにね、名前を書けば、苦しくない方法で殺してくれるんだって」

「ほんと? 住所とかいらないの」

「今時、ネットで検索すればでてくるんじゃない? SNSとか」

 美咲は、自分で話しておいて、興味をなくしたようで、スマホを操作し始めた。

「何、美咲は死にたいの?」

「そんなわけないじゃん」

 スマホの画面を見せてくる美咲。画面には、最近付き合い始めた彼氏との、糖分過多な会話が表示されていた。ついでに、付き合って一週間記念でもらったというイヤリングに片手を添える。

「うっざ」

「でしょ」

 ふふっと、美咲は素敵な笑顔で笑った。

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